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第十五話 大百足

「こいつ……! 例のムカデね!」


 洞窟の奥から飛び出してきた巨大なムカデ。

 勢いよく噛みついて来たその大顎を、シエル姉さんとメイリンは辛くも回避した。

 全長は軽く十メートルはあるだろうか。

 黒光りする甲殻はさながら金属のようで、赤い大顎は硬い鍾乳石で出来た地面を軽々と嚙み砕く。

 こりゃ、ドラゴンともいい勝負をするんじゃないか……?

 その異様な迫力に、俺の額にじんわりと汗が浮く。


「ノア! これをみんなに!」

「はい!」


 シエル姉さんから預かったポーションを、俺はすぐさまクルタさんたちに呑ませようとした。

 ひとまず優先するべきはライザ姉さんだろうか?

 姉さんの剣技があれば、この巨大ムカデだってひとたまりもないだろう。

 が、ここで俺の行く手を遮るようにもう一つの頭が姿を現す。


「もう一匹いたのか!!」


 もう一匹のムカデは、蛇がとぐろを巻くようにライザ姉さんたちを取り込んでしまった。

 半ば、人質に取られたような格好である。

 まずいな、こいつら虫にしてはかなり頭が良いようだ。

 俺たちの様子を見て、どこが弱点なのかを的確に判断している。


「私たちだけでやるしかないわね」

「ええ。でも、強力な魔法を使うとライザ姉さんたちが……」


 困った俺たちは、メイリンの方を見やった。

 すると彼女もムカデの襲撃は想定外だったらしく、俺たちに対して深い頷きを返してくる。


「ひとまずは休戦しましょう。ただ、私も戦いはあまり得意ではなくて……」

「さっき、あいつの顎をかわしたでしょ? あの動きを見る限り、全くの素人ではなさそうだけど」

「囮ぐらいなら、何とかできると思います」


 意を決したような表情で、メイリンはそう告げた。

 それを聞いたシエル姉さんは、満足げな表情で頷く。


「なら、あいつらの気を少しだけ引いて。そうすれば、あとは私たちでやるわ」

「わかりました、やってみます!」

「そうこなくっちゃ! ノア、この場所は魔力が不安定よ。魔法の範囲は最小限に絞って」

「うん、わかってる!」


 こうして俺たちは二手に分かれると、それぞれに杖と剣を手に構えを取った。

 狙うはムカデの頭のど真ん中、ちょうど額に当たる部分だ。

 そこを正確に撃ち抜かなければ、死に際に大暴れして大変なことになる。

 特に俺が担当する方はライザ姉さんたちを巻き込んでいるため、締め付けられたりするとまずい。

 しかし、ムカデたちも俺たちの動きを察したのだろう。

 頭をしきりに動かして、狙いを定められないようにしてくる。


「メイリン!」

「はい! これで……!」


 口に手を押し当てると、メイリンは思い切り口笛を鳴らした。

 ピィーッと澄み渡った音が洞窟全体に響く。

 それと同時にムカデたちの動きが止まり、その黒い眼でメイリンを睨みつけた。

 そして激しく顎を打ち鳴らし、一斉に飛び掛かってくる。


「今よ! フラムティリー!!」

「どりゃあああっ!!」


 シエル姉さんの手から、紅に燃える炎の槍が放たれた。

 それと同時に俺は空高く飛び上がると、ムカデの額に向かって剣を振り下ろす。

 キィンッと激しい金属音。

 それと同時に、泥水を思わせる緑の体液が激しく吹き上がった。

 俺はそのまま力を込めてムカデの頭を割ると、そのまま地上へと降り立つ。

 だがその瞬間、俺の後方から悲鳴が響く。


「くっ!! いたぁっ……!!」

「シエル姉さん!?」


 腕から血を流し、倒れるシエル姉さん。

 どうやら、攻撃の範囲を押さえすぎてムカデを即死させることができなかったらしい。

 俺は慌ててポーションを取り出すと、それを傷口にぶっかける。


「姉さん、しっかりして!」


 ポーションの効果で傷口が少しずつ塞がっていくものの、なかなか姉さんの顔色が良くならない。

 追加で治癒魔法も使ってみるものの、なかなか改善の兆しは見えなかった。

 これはもしかして、毒にやられているのか……?

 俺がさらに追加のポーションを手にしたところで、メイリンが青ざめた顔で言う。


「どうして……! 私を庇うなんて……!」

「当然じゃないですか! 姉さんが庇わなかったら、メイリンはきっと死んでましたよ!」


 姉さんのことだから、攻撃を受ける瞬間に防御魔法を発動していただろう。

 それでこれだけのダメージを受けてしまっているのである。

 メイリンが同じ攻撃を受けたら、間違いなく怪我では済まなかったはずだ。


「でも、私は裏切って……」

「そんなこと関係ない! シエル姉さんは、誰だろうと見捨てることなんてできないんです!」


 俺がそう言うと、メイリンはハッとしたように目を見開いた。

 彼女は顔を下に向けると、しばし何かを考え込むようにつぶやき――。


「わかりました。私もシエルさんを見捨てるわけにはいきません、着いて来てください!」

「ちょっと待って、どこに行くんですか?」

「急いでこの洞窟を出て、私の家に行きます。お祖母ちゃんなら、ムカデの毒も治せるはずです!」

「すぐに出られるの!?」

「はい、十五分もあれば!」


 思った以上の近さにびっくりしてしまう俺。

 どうやらメイリンは、俺たちを少しでも長く黒雲洞に留めようとかなり頑張っていたらしい。

 俺は急いでポーションをライザ姉さんたちに飲ませると、すぐに事情を説明する。

 しかしここで、再び洞窟の奥からズルズルと何かを引きずるような音が響いてくる。


「ちぃ、また来た!! みんな、急いで脱出しますよ!」

「こっちです、早く!!」


 こうして俺たちは、黒雲洞を出てメイリンの家へと急ぐのだった。


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