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第八話 第六回お姉ちゃん会議?

 ノアが竜の谷で危機に陥っていた頃。

 ウィンスターにある彼の実家では、またしても姉妹たちが集合していた。

 第六回お姉ちゃん会議である。

 とはいっても、今回はシエルとライザが欠席して三人だけ。

 そのためこれまでの会議とは異なり、和やかなお茶会と言った雰囲気だ。


「ノアは元気にしているかしら……。ゴールデンドラゴンの討伐なんて、心配ですわ」

「シエルとライザが付いている。流石に大丈夫だと思う」

「そうはいっても、油断は禁物ですわ。シエルの言っていたことが本当なら、大変なことですし」


 にわかに険しい表情をするファム。

 ララト山に出かける前、シエルが告げていた言葉を彼女は反芻していた。

 シエルの言うことがすべて本当だったとすれば、今頃は大変な事態に陥っているかもしれない。

 もちろん、そうならないために早めに手を打ったわけなのだが……。

 必ずしもうまく行くとは限らなかった。


「しかし、まさかシエルがノアに助けを求める日が来るなんて」

「それだけ、ノアが成長したということですね」

「いろいろと感慨深いものですわ。あんなに小さくて頼りなかったノアが……」


 そう言うと、アエリアは紅茶を飲みながら物憂げな顔をした。

 その眼はここではないどこか遠くを眺めているかのようである。

 そんな彼女に呼応するように、今度はファムがふうっと吐息をつく。


「でも、昔からノアは頼りになる子でしたよ。お父様とお母様が亡くなられた時も、あの子が必死に頑張ったおかげで私たちは離れずに済んだのですから」

「そうですわねえ、芯の強さはあのころから一人前でした」

「懐かしい。あれをきっかけに、エクレシアたちも仲良くなった」


 ぽつりとつぶやくエクレシア。

 実はもともと、五人姉妹の関係はそれほど良くなかった。

 お互いに個性が強すぎるがゆえに、激しく衝突することもしばしば。

 そして、彼女たちの能力が高すぎるために周囲がそれを止めることもできなかったのだ。

 それが現在のように多少なりともまとまることができるようになったのは、ノアのおかげだ。

 ――ノアをどこに出しても恥ずかしくない完璧な弟に育てる。

 この目的のために、バラバラだった姉妹が初めて団結したのである。


「昔は、わたくしも尖ってましたからねえ」

「ですね、私ももっと我儘でしたし」

「……二人とも、何だか年寄り臭い」


 周囲の空気がにわかに凍り付いた。

 アエリアは無言で席を立つと、エクレシアに詰め寄っていく。

 その表情はかろうじて笑顔を保っていたが、こめかみがピクピクと震えていた。


「わたくしのどこが、年寄り臭いんですの?」

「少なくとも、私たちの中では一番年上」

「そうは言っても、わたくしはまだ二十代前半ですのよ? 世間一般的に見て、まだ娘と称されるような年齢であって年寄りとは――」


 じりじりと距離を詰めながら、勢いよく捲し立てるアエリア。

 しかし、エクレシアも負けてはいない。

 彼女はクイッと眼鏡を持ち上げると、アエリアの着ている服を見て言う。


「前から思ってた。服のセンスも古い」

「ふ、古い!? 違いますわ、これは大人っぽいんですの! お子様なエクレシアとは違いましてよ!」

「エクレシアの方がモードに合ってる。それにアエリア姉さんは、化粧も派手すぎ」

「そんなことありませんわよ! むしろエクレシアは、気を遣わなさすぎですわ!」

「何もしなくても卵肌だから、いらない」


 そう言うと、つるりとした肌を誇示するようにエクレシアは頬を指でなでた。

 彼女が自慢するように、色白の肌はきめが細かく艶がある。

 一方で、アエリアの肌は日頃の激務のせいか最近は少し調子が悪かった。

 健康管理には気を遣っているため、年相応以上の状態を保ってはいるが……。

 姉妹の中で最も時間的にゆとりのあるエクレシアに自慢されると、何とも言えず腹が立ってしまう。


「むぐぐ……! わたくしだって、もう少し時間があれば……」

「時間は作るものって、前に姉さん言ってた」

「それにも限度があるんですの! だいたいあなたこそ、仕事はないんですの?」

「アイディアの沸いたときだけ働いてる」

「だから、芸術家という人種は好きじゃないんですのよ! 羨ましい!」


 そのままああだこうだと言い争いを加速させていく二人。

 やがて見かねたファムが、無理やりに割って入って言う。


「落ち着いてください! こんな喧嘩しているところ、ノアが見たらどう思うでしょうか?」

「……つい、子どもっぽくなってしまいましたわ。失礼しましたわね」

「エクレシアも少し、からかいすぎた」


 ファムの聖女らしく威厳ある声に、しぶしぶながらも非を認める二人。

 こうして場が落ち着いたところで、ファムはやれやれと額に手を当てる。


「ノアがいないからといって、また姉妹がバラバラになってはいけませんわ。そんなことになったらノアが悲しんでしまいますもの」

「その通りですわ。ノアがいなくても姉妹仲良くやっていかなくては」

「ノアだって、またいつ戻ってくるかわからない」


 そう言うと、先ほどまでのいさかいは嘘のようにケーキを分け合う姉妹たち。

 ノアが戻ってくるまでの間、姉妹仲良くしっかりと家を守ること。

 それだけが、今日の集まりで唯一決まったことだった。


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