表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
190/301

第六話 脱出大作戦!

「何だこの数は……!?」


 空を埋め尽くすドラゴンの群れに、俺たちは思わず息を呑んだ。

 まさか、これほどの数のドラゴンと遭遇しようとは。

 予想をはるかに上回る出来事に、思考が停止してしまいそうになる。


「前に来た時は、ワイバーンがいただけだったのに……!!」

「そうなんですか、お姉さま?」

「じゃなきゃ、ボクが依頼達成なんてできないよ!」

「今はそんなこと言ってる場合じゃねえ! 逃げるぞ!!」


 全速力で走り出す俺たち。

 しかし、何体かのドラゴンが崖に向かってブレスを放った。

 響き渡る爆音、崩れ落ちる大岩。

 崖際の道がたちまち土砂で塞がれ、俺たちは退路を失ってしまう。


「くっ! まずいな!」

「見て、あそこ!」


 そう言ってシエル姉さんが指さしたのは、崖にできた大きな裂け目であった。

 入口こそ横になって入れる程度の幅しかないが、奥はそれなりに広そうである。

 こうなったら、ひとまずここに逃げ込むしかないな!

 俺たちが大慌てでその中に滑り込むと、即座にシエル姉さんが結界を張る。


「ノアも手伝って!」

「はい!」


 俺も姉さんに手を貸して、強力な魔力の壁が入り口に展開された。

 これで、しばらくの間は持ってくれることだろう。

 とりあえずの危機を脱したことで、俺たちはほっと胸を撫で下ろす。


「何とか全員無事だったな」

「ああ。しかし、まさかあれほどの数のドラゴンがいるとはな」

「うん、明らかに何かおかしいよ」


 すっかり困り顔のクルタさんたち。

 するとライザ姉さんが、結界越しに外の様子を伺いながら言う。


「あそこにいる赤い鱗のドラゴン、あれは火山地帯に住むファイアドラゴンだな」

「言われてみればそうね。雪山にいるような種じゃないわ」

「ほかにもあの緑の鱗は、大森林のフォレストドラゴンじゃないのか?」

「そうね……言われてみれば……」


 ドラゴンの群れを見ながら、意見を交わすライザ姉さんとシエル姉さん。

 どうやらあの群れには、本来はララト山に住んでいない種が混じっているらしい。


「つまりそれって、大陸中のドラゴンが集まってるってことですか?」

「……そういうことになるわね」

「何だか大ごとになって来ましたね。もしかしてこれも、魔族の影響でしょうか?」


 不安げな顔でつぶやくニノさん。

 彼女の言う通り、こんなことをするのは魔族ぐらいしか考えられなかった。

 けど、ドラゴンたちを一か所に集めて何をするつもりなんだ?

 まさか、ドラゴンの大群を先兵に人間界へ戦争を仕掛けようとでもいうのだろうか。

 あんなものが山を下りて暴れたら、国の一つや二つは吹っ飛ぶぞ……!


「とにかく、ここはひとまず撤退だな。いくらなんでもあの数は厳しいだろ」

「そうだな……。ノアとシエルと私で五体ずつ倒しても少し足りないな」

「五体ずつって、いくら何でも無茶だよ。俺は三体ぐらいじゃないかな?」

「そうか? 行けると思うがな」

「いやいや、そういう問題じゃないだろ……」


 俺たちの会話を聞いて、何故か呆れた顔をするロウガさんたち。

 あれ、また変なこと言っちゃったかな?

 軽く首を傾げると、話題を切り替えるようにクルタさんが言う。


「それより、早くここを出ないと。さっきから揺れてるよ!」

「このままだと、天井が落ちてくるかもしれませんね……」


 ニノさんがそう言った瞬間、ドォンと雷鳴にも似た音が響いた。

 それと同時に、天井からパラパラと小石が落ちてくる。

 結界の強度を察したドラゴンたちは、そこではなく周囲の崖を攻撃し始めたようだ。

 幸い、この辺りの岩はかなり頑丈なようなのだが……。

 先ほど見た崖のように、いつ崩れ落ちてもおかしくない。

 

「まずいわね。このままじゃ生き埋めになるわ」

「だが、外に打って出るわけにもいくまい」

「そうね、何かあいつらの気を引くようなものでもあれば……そうだ!」


 そう言うと、シエル姉さんはマジックバッグの中から大きな人形を取り出した。

 これはゴーレムの一種……なのだろうか?

 男の子の姿を模しているようで、ご丁寧にきちんと服まで着せられている。

 手足の球体関節を見なければ、人間と間違えてしまいそうなほどだ。


「何ですか、これ」

「アエリアに頼まれて作った人形よ」

「へえ、マネキンにでも使うんですかね?」

「さ、さあ! 私は言われたとおりに作っただけだから!」


 何故か、人形の顔を執拗に手で隠しながら顔を赤くするシエル姉さん。

 まだ製作途中で、恥ずかしいのだろうか?

 シエル姉さんって、完璧主義だからそういうこと気にするもんなぁ。

 俺がそんなことを思っていると、ライザ姉さんが心底呆れたように呟く。


「アエリアはまたそんなものを作ったのか……」

「まあいいじゃない。今回ばかりは助けられたわ」

「でも、そんな人形一体でドラゴンの気を引けるの?」


 人形を見ながら、訝しげな顔をするクルタさん。

 彼女の言う通り、たった一体の人形でドラゴンの群れを引き付けられるものなのだろうか?

 するとシエル姉さんは、ふうっとため息をついて言う。


「それについては平気よ。この人形の動力には、高純度の魔結晶が使われてるの。

 間違いなくドラゴンを引き付けられるわ」

「けど、すぐに壊されたりしない?」

「そこも心配なし、姉さんのオーダーですっごく頑丈にしてあるから」


 いったい、そんな人形を何に使うつもりだったんだ?

 俺は思わず首を傾げたが、再び姉さんに「知らなくていい」と釘を刺されてしまった。

 知らなくていいって、それってシエル姉さんは理由を知ってるってことじゃないか?

 さっきと言ってることが矛盾してるぞ。

 俺の中でますます疑問が深まっていくが、ここでライザ姉さんがポンと俺の肩を叩く。


「いいか、ノア。知らなくて良いことを知るのも、大人になるということなんだ」

「はぁ……」

「とにかく、その人形でドラゴンどもの気を引いて一気に逃げるぞ! 時間がない!」


 そう言って、場を取りまとめたライザ姉さん。

 こうして俺たちは竜の谷からの脱出作戦を開始するのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >ドラゴンの群れを見ながら、意見を交わすライザ姉さんとクルタ姉さん。 クルタ姉さんでは無く、シエル姉さんでは無いでしょうか? [一言] いつも楽しく読ませてもらっています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ