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第二十七話 蛙の子は……

「人間どもめ!! 許さんぞぉ!!」


 怒りに身を震わせ、頭を大きく持ち上げるベルゼブフォ。

 突き刺さっていた銛が吹き飛び、にわかに魔力が膨れ上がる。

 やがてその後頭部から二対の角のような突起が伸び始めた。

 そして紫の巨体が、徐々に赤みを増していく。


「こりゃ、ずいぶんとお怒りの様だぞ……」

「まずいね、さっきの攻撃は全然効いてないみたい」


 異様な雰囲気を纏い始めたベルゼブフォに、引き攣った表情をするロウガさんたち。

 かつて湖を支配していたという大悪魔の怒気に、完全に気圧されてしまっているようだった。

 俺も、ベルゼブフォの顔を視界に収め続けるのがやっとである。

 

「スオオオォ……!!」


 湖の水を大きく吸い込み、みるみるうちに頬を膨らませるベルゼブフォ。

 そして俺たちの船に狙いを定めると、一気にすべてを吐き出す。


「グアオッ!!!!」


 解き放たれた水弾。

 それはもはや、水鉄砲などという生ぬるいものではなかった。

 俺たちはとっさに船から飛び降りると、たちまち水弾が船体をへし折る。


「俺の船が!!!!」


 あっけなく消し飛ばされてしまった船を見て、同乗していた漁師さんが声を上げた。

 これまで大人しくしていた彼であったが、流石に大事な船が吹き飛んでは黙っていられなかったらしい。

 しかし、続けて放たれる攻撃にすぐさま押し黙ることとなる。


「消し飛べっ!!!!」


 ベルゼブフォは口に含んだ水を、今度は幾度かに分割して吐き出した。

 分割されたと言っても、その威力はすさまじい。

 以前に戦った眷属の軽く数十倍はパワーがありそうだ。

 巨大な水弾が着弾するたびに、湖面が波立つのを通り越してえぐられたようになる。


「ははは! 踊れ踊れ、人間ども!」

「ちっ! カエルの癖に舐めやがって……!」

「両生類が生意気です」

「でも、どうやって攻撃しますか? あれで効かないとなると……」


 こうして俺たちがああでもないこうでもないと話していた時であった。

 なかなか攻撃が当たらないことに焦れてきたらしいベルゼブフォが、不意に水弾を吐き出すのをやめる。

 そして前足を持ち上げて二本足で湖底に立つと、腹を大きく擦り始めた。


「何だ? 悪いものでも食ったのか?」

「ちょっと苦しげだね」


 ヒュウヒュウと弱々しく息を吐くベルゼブフォ。

 魔力を吸われた影響が、早くも出てきたのだろうか?

 それとも、今ごろになって俺たちの攻撃が効いて来たとかか?

 注意深く観察していると、次第に腹が膨れ始めた。

 その内側で、魔力が蠢きながら渦を巻いているのが感じられる。


「げっ! 貯めて一気に来る気だ!!」

「おいおいおい! ここら一体を吹き飛ばす気かよ!」

「俺も連れて行ってくれ!!」

「アンタ漁師だろ、泳ぎは得意じゃないのか?」

「ああ、そうだった!!」


 大慌てでその場から撤退しようとするロウガさんたち。

 漁師さんも彼らと一緒になって、全速力で泳ぐ。

 しかし、ベルゼブフォの様子を見ていた俺はそうではないことに気付く。


「待ってください! 違います、これは……!!」

「グオアァッ!! ゴハッ、ゴハッ……!!」


 やがてベルゼブフォが吐き出したのは、ぬるりとしたゼリーのような塊であった。

 さらにその中では、無数の黒い粒が蠢いている。

 間違いない、卵だ!

 しかも、黒い部分はこうして見ている間にも急成長していく。

 やがて尾のようなものが生え、膜を突き破って飛び出してきた。


「さあ行け、我が子らよ! 生意気な人間どもを食らいつくせ!」


 一斉に襲い掛かってくるオタマジャクシたち。

 その大きさは既に、人間の大人と同じぐらいに達していた。

 もはやオタマジャクシというよりも、巨大なナマズか何かのようである。

 しかも恐ろしいことに、その口には立派な牙が生えていた。


「ひいぃっ!! 気持ち悪っ……!!」


 人間サイズのオタマジャクシが、群れを成して襲ってくる異様な光景。

 それにクルタさんがたまらず悲鳴を上げた。

 しかし、手を止めている暇などない。

 ぼんやりしていたら、あっという間に食いつくされてしまう。


「みんなで背中合わせになりましょう! 漁師さんは、俺たち四人の内側に入ってください!」

「は、はい! すぐに!」


 こうして俺たちは五人で集まり、少しでも隙をなくした。

 本当は結界を張れると一番なのだが、あいにく時間がない。

 そうしている間にも、オタマジャクシたちが迫ってくる。


「どりゃあっ!!」

「やっ! はっ!」


 ロウガさんの盾がオタマジャクシを吹き飛ばし、クルタさんの短剣が黒い皮膚を割いた。

 さらにニノさんが追撃を加え、クナイが容赦なく降り注ぐ。

 俺が攻撃に参加するまでもなく、周囲のオタマジャクシが殲滅された。

 しかし、敵の数は無尽蔵。

 たかだか十匹ほどを倒したところで、次々と押し寄せてくる。


「これじゃキリがねえぞ!」

「また来るよ! 備えて!」

「クッソォ! こんなところで死ねるかよ!」

「こっちにもドンドン回してください!」


 力を振り絞り、オタマジャクシを懸命に処理する俺たち。

 しかし、水中で戦い続けるのにはやはり無理があったのだろう。

 徐々にみんなの動きが悪くなっていく。

 そしてとうとう、ニノさんの手が止まる。


「くっ!」

「大丈夫、ニノ!?」

「平気です、お姉さま。ちょっと攣ってしまっただけです」

「まずいですね、このままだと……」


 何とかみんなに時間を稼いでもらって、大魔法を使うしかない。

 広範囲で敵を殲滅することができれば、戦況は間違いなくこちらに傾くはずだ。

 けど、今の状況でそんなことをする余裕は……。

 こうして、俺が思案を巡らせている時であった。


「はああああぁっ!! 飛撃乱閃!!」


 無数の斬撃が湖面を薙ぎ払った――。


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