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第二十六話 全貌

「……殺しただと?」


 テイルの衝撃的な発言から、数秒の間をあけた後。

 ライザは大いに戸惑いを含んだ口調で問いかけた。

 するとテイルは、軽く胸を押さえて深呼吸をする。

 そして微かなためらいを感じさせながらも、確かな口調で語り始めた。


「もともと、私の父であるエイビスはレオニーダ様の使用人にすぎませんでした。

 しかし、長年の間に情が芽生えて二人は秘密の関係を持つようになったのです。

 当時のレオニーダ様はすでにご結婚されていましたから、まさしく許されざる関係でした」

「……安い話だな」


 いかにも、ゴシップ好きな上流階層の好みそうな話であった。

 そこからどうやって、先ほどの衝撃的な告白に結びついていくのか。

 ライザは剣を構え直しながらも、テイルの話に聞き入る。


「父とレオニーダ様の仲は次第に深まり、いつしかレオニーダ様は私を妊娠しました。

 当初は私のことを夫の子であるとしていたそうです。

 しかし、運の悪いことに私を生む直前に二人の秘密の関係がバレてしまったのですよ」

「それで、どうなったのだ?」

「……上流階層というのは、とかく醜聞を嫌います。

 私は流産したことにされて、そもそもいなかったこととされました。

 そして、家を追放された父のもとで育てられることとなったのです。

 ですが、レオニーダ様は父との関係を諦めきれずにとうとう離婚。

 再び父を使用人として城に戻し、私もメイド見習いとして戻ることとなったのです」


 そこまで言ったところで、テイルは事態を出来事をするように間を置いた。

 やがて彼女は、それまでとは違ってどこか懐かしむように明るい声色で言う。


「それからの数年間は、本当に楽しいものでした。

 ライザ様が来られたのも、ちょうどこの頃だったのですよ。

 当時の私は、一介の使用人見習いでしたので再会の際にお気づきになられなかったようですが」

「む、そうだったのか」

「ええ。しかし、幸せな時間は長くは続きませんでした。

 今からちょうど二年前のことです。

 私は父と共に隣町へ使いに出たのですが、その際に魔物に襲われて……。私は、父を……見殺しに……」


 テイルの眼に、うっすらと涙が浮かんだ。

 しずくがほろりと頬を滴り落ちる。

 彼女の言葉を聞いたライザは、その強さの理由を察した。

 恐らくは、自らの無力さを痛感して修練に励んだのだろう。

 

「それで、殺したと表現した訳か」

「その通り。この娘のせいで、あの人は死んだ!」


 テイルに代わって、レオニーダが叫んだ。

 そのヒステリックな金切り声は、狂気すら孕んでいるようだった。

 するとライザはレオニーダの方を見据えて、怒りに満ちた声を発する。


「それが母親のすることか? それが、この子の父親の望むことだとでもいうのか?」

「お前に説教される筋合いなどない! 私は必ずや、あの人を取り戻して見せる!」


 そう言うと、レオニーダは両手を大きく広げて天を仰いだ。

 そしてさながら女優のように、朗々とした声で語り出す。


「ここまで来たのだ、すべてを語ってあげましょう。

 あの人の死を知った私は、肉体を保存しあらゆる手段で復活させようとした。

 そしてついに見つけたのです、魔力と血を捧げることで死者を呼び戻す古の禁術を」

「何と愚かな……禁術がなぜ禁術なのかわからないのか?」

「わかりますとも。しかし、私にとってはあの人がすべて。

 他のことなど、どうなっても別に構わないのです」


 世にも悍ましい内容を、悪びれることもなく告げるレオニーダ。

 彼女はライザの厳しい視線などものともせず、さらに続ける。


「しかし、一つ課題がありました。

 人を蘇らせるほどの魔力を集めるには、相応の年月が必要だったのです。

 このままでは、あの人が蘇ったところで再会は叶いそうにありませんでした。

 もし会えたとしても、私は歩くことすらできない老婆になっていたことでしょう。

 そこで、二つのものを手に入れようと考えたのです」

「人魚の涙と大悪魔の魔力か」

「ええ、腕力だけかと思っていましたがなかなか察しが良いようで」


 そう言うと、レオニーダはライザを褒めたたえるように手を叩いた。

 彼女はそのまま、高揚した気分を表すかのように甲板の上を歩き出す。


「人魚の涙は失敗してしまいましたが、代わりにベルゼブフォの魔力が予想外に早く手に入りました。

 どうせならばより美しく若返った姿であの人と再会したかったのですが、及第点でしょう。

 今宵、すべては取り戻されるのです!!」


 レオニーダは芝居がかった仕草で、その手をベルゼブフォの方角へと向けた。

 だがその瞬間、強烈な爆風が船体を襲う。

 ベルゼブフォを中心として火柱が上がり、熱気と閃光が容赦なく押し寄せる。

 それに耐えかねたレオニーダは、たちまち倒れて甲板を転がる。


「ノアたちか! 流石だな!」

「バカな! あんな冒険者どもが、いったいどうやって……!」

「ふん、甘く見るからこうなるのだ!」

「下民どもが……!!」


 レオニーダの形相が一変した。

 彼女は髪を振り乱しながら、悪鬼のごとき形相でライザに迫る。

 しかしここで、世にも悍ましい叫びが轟く。


「おのれ、矮小な人間どもめが!!!!」


 大悪魔の力が、拘束を離れた瞬間であった。


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