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第二十四話 悪魔の力

「うお……!!」


 結界が砕け、光の粒となって四散した。

 やがて咆哮と共に姿を現したのは、見上げるような紫の巨体。

 その大きさたるや、軍艦が模型か何かに見えてしまうほどである。

 さらにその眼は金色に輝き、口からは瘴気にも似たガスが漏れていた。

 流石は大悪魔、恐ろしいながらもただならぬ貫禄がある。


「我を目覚めさせたのは、お前か?」


 気だるげにガスを吐き出しながら、ベルゼブフォがレオニーダ様に問いかけた。

 その声はひどく粘着で、聞いているだけで全身を舐めまわされるかのような不快感がある。

 クルタさんやニノさんは思わず顔をしかめて耳を押さえた。

 一方で、レオニーダ様は配下の男に勇ましく号令をかける。


「今だ、船を回せ!!」


 レオニーダ様の命令を受けて、船が勢いよく旋回した。

 帆船にはできない、動力船ならではの機動性である。

 それと同時に、砲門が開いて無数の砲身が姿を現した。

 まさか、この悪魔を大砲で退治するつもりなのか?

 俺がそう思ったのも束の間、レオニーダ様から再び指示が飛ぶ。


「放て!!」


 大砲から放たれたのは、砲弾ではなく銛であった。

 それぞれにワイヤーが結び付けられていて、動きを拘束できるようになっている。

 ――ザシュッ!!

 銛がベルゼブフォの皮膚を貫き、体液が飛び散った。

 その直後、ワイヤーが赤い光を帯び始める。


「これは……!」


 ベルゼブフォの身体から、膨大な魔力が流れ出しているのが感じられた。

 あの銛を使って、体内の魔力を直接吸い出しているようだ。

 ベルゼブフォも銛を引き抜こうと抵抗するが、脱力してしまっているのかうまく行かない。


「ははは、素晴らしい! 流石、コンロンに大枚を払っただけのことはある!」

「ちっ、聞きたくない連中の名前が出てきたな……」


 露骨に顔を歪めるロウガさん。

 コンロン商会と言えば、大陸に深く根を張る闇商人。

 かつて相棒だったラーナさんを通じて、彼とは少なからぬ因縁がある。

 ……もしかして、重税が課されていたのって武具を購入するための資金だったのか?

 ふとそんなことを思うが、今はそれどころではない。

 ベルゼブフォから集めた膨大な魔力を、いったい何に使うというのだろう?


「……レオニーダ殿! これは何のつもりだ!」


 甲板上に立つライザ姉さんが、俺たちを代表して疑問をぶつけた。

 するとレオニーダ様は、何かが壊れてしまったかのように大声で笑う。


「取り戻すのですよ、世界を」

「……何を言っている?」

「最も大切なものを蘇らせるのです。大悪魔の魔力と数多の血を持って」


 そう言うと、レオニーダ様は彼方に輝くエルマールの街を見やった。

 湖畔の大都市は、さながら夜空に煌めく星のよう。

 輝く灯の一つ一つに、人々のぬくもりが感じられる。

 数多の血……まさか住民たちを犠牲にするつもりなのか!?

 

「何と愚かな……。そのようなこと、断じてさせん!!」


 姉さんもまた、レオニーダ様のしようとしていることを察したのだろう。

 その激しい怒りを表すように、靴音を響かせながら距離を詰める。

 そうして彼女が腰の剣に手を掛けた瞬間、テイルさんが割って入った。


「レオニーダ様の邪魔はさせません」

「……私を止められるつもりか?」

「持って、三分といったところでしょうか」


 そう告げると、テイルさんはスカートの中から二振りのナイフを取り出した。

 ライザ姉さんが剣聖であることを知っているというのに、退く気はないらしい。

 その強靭な意志に、多少なりとも感じるところがあったのだろう。

 姉さんは俺たちの方を見ると、すっとベルゼブフォを顎で示す。


「私は二人を止める! ノアたちはあのカエルを何とかしろ!」

「わかりました! そちらは頼みます!」

「ああ、すぐに終わらせるさ」


 こうして俺たちは、改めて船を動かしベルゼブフォの前へと移動した。

 ぬるりとした粘膜で覆われた皮膚に、無数の銛が突き刺さって動きを止めている。

 流石はコンロン商会製の兵器、性能だけは確かだ。

 以前にラーナさんが用いていたナイフも、倫理面を無視すれば有用だったからなぁ。


「こいつが動けなくなってるうちに、とどめを刺しましょう!」

「うん! ボクも最大火力で行っちゃおっかな!」

「私も、これを使いましょう」


 そう言って、ニノさんが取り出したのは爆薬の括りつけられたクナイであった。

 さらに魔力の込められた札が貼ってあり、爆発力を補助しているようである。


「よし、じゃあ一斉攻撃です! 頭を狙っていきますよ!」


 俺の呼びかけに、みんな揃って頷いた。

 ロウガさんも、盾を構えて敵からの反撃に備える。

 さあ、一発で片を付けるぞ!

 俺は黒剣を抜くと、それに炎の魔力を込めた。

 たちまち黒い剣身が赤々と燃えて、火の粉が舞い上がる。

 

「はああああっ!! いっけええええっ!!」


 魔力を最大限に高め、放つ。

 炎が夜空に軌跡を描き、光が炸裂した。

 それに続いてクルタさんたちも攻撃を繰り出し、爆発が連続する。

 ――ズゥウンッ!!

 腹の底に響くような轟音、吹き上がる火柱。

 湖面が赤く照らされ、波紋が広がった。

 衝撃の大きさに船が傾き、飛沫が身体を濡らす。


「……さすがだなぁ! こりゃひとたまりもねえ!」

「ま、ジークだからね!」


 圧倒的な破壊力に、ベルゼブフォの死を確信するクルタさんたち。

 しかし――。


「おのれ、矮小な人間どもめが!!!!」


 爆炎が晴れた先には、怒りに狂う大悪魔の姿があった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ、カエル姿でも大悪魔ですから、そりゃ耐えるわさ
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