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第四話 ヴァルデマールの女帝

「な、なんと!? け、剣聖殿ですと!?」


 ヴァルデマール家の居城。

 そこに通じる門の前で、ライザ姉さんがこっそりと身分を明かした。

 たちまち衛兵たちは騒然となり、わらわらと俺たちを取り囲む。


「……普段は身分を隠しているのだ、そんなに騒がないでくれ」

「これは失礼。しかし、剣聖殿とはにわかには信じがたく……」

「以前にも来たことがあるのだが、覚えていないか?」

「あいにく、ここ最近は使用人の入れ替わりが激しくて。かくいう私も、働き始めたばかりなのです」


 申し訳なさそうな顔をする衛兵。

 ……不可解な増税と言い、ヴァルデマール家に何かよからぬことが起きているのだろうか?

 俺たちは思わず、互いに顔を見合わせた。


「やっぱり、ちょっと嫌な予感がしますね」

「ああ、だがここで帰るわけにもいくまい」


 そう言うと、姉さんは懐から短剣を取り出した。

 その柄にはウィンスター王国を象徴する百合の紋章が刻まれている。

 王家より下賜された、剣聖のみが持つことを許される逸品だ。

 剣としての性能はそれほどでもないらしいが、身分を証明するにはこれ以上ないものである。


「これは……! しばらくお待ちを、すぐにレオニーダ様にお伝えします!」

「ああ、任せた」


 慌てて城の中へと消えていく衛兵。

 しばらくすると、給仕服を着た少女が姿を現した。

 その佇まいには気品があり、彼女がヴァルデマール家に置いてそれなりの地位にあることが窺える。

 しかし、その風体は少しばかり異様な物であった。

 白い仮面をつけて、その顔を完全に覆ってしまっていたのである。


「初めまして、侍従長のテイルです」

「……こちらこそ、剣聖のライザです。そして、こちらが私の弟とその仲間たちです」


 姉さんに紹介され、俺たちはゆっくりと頭を下げた。

 テイルさんの姿に少し引いてしまっているのだろう、クルタさんたちの表情は心なしか硬かった。

 するとテイルさんは、その長い髪をかき上げて微かに笑う。


「ふふ、この姿を見て驚かれたでしょう?」

「ええ、まあ」

「レオニーダ様のご命令なのです。女性の方は、こちらの着用をお願いいたします」


 そう言うと、テイルさんは自身と同様の仮面を姉さんやクルタさんたちに差し出した。

 たちまち、姉さんたちの眉間に皺が寄る。


「……どうして、これを着けなければならないのだ?」

「不可解でしょうね。ですが、これが我が城のルールなのです」

「しょうがないですね……」


 ぶつぶつと不満を呟きながらも、ニノさんが仮面を着けた。

 そうして異変がないことを確認すると、クルタさんと姉さんにも着用を促す。


「まったく、何のためにこんなものを」

「でもちょっと面白いかも。仮装パーティみたいで」

「そうか? 私には邪魔なだけだが」


 どうにも納得がいかない姉さんの一方で、クルタさんはどこか楽しげであった。

 こうして女性陣が仮面を着け終えたところで、俺たちは城の中へと足を踏み入れる。


「おお……こいつはすごい……!」

「うわぁ、ちょっと怖いぐらいだね」


 ライザ姉さんの言っていた通り、城の中は豪華絢爛に改装が施されていた。

 壁や床はもちろんのこと、天井に至るまで丁寧な装飾が施されている。

 さらに、あちこちに置かれた美術品の数々。

 壁に飾られたあの華やかな花の絵は……ゴホンの作品だろうか?

 本物ならば、オークションに出れば一億はくだらないだろう。


「どうぞ、こちらです」


 やがて案内された先は、城の最上階にある部屋であった。

 黒檀で出来た重い扉を開くと、たちまちドレスを纏った女性の姿が目に飛び込んでくる。


「初めまして、当主のレオニーダです」


 そう名乗ると、スカートを押さえて優雅にお辞儀をする女性。

 この人が、ヴァルデマール家の当主か……。

 ロウガさんが大陸一の美女とか言ってたけど、そうかもしれないと思わせるだけの容貌をしていた。

 長く艶やかな紫髪と色白の肌、そして鮮やかな深紅の口紅。

 ともすれば下品になってしまいそうな要素だが、それらが綺麗に纏まっている。

 体型もまたすさまじく、くびれた曲線が艶めかしい。

 ロウガさんに至っては、お辞儀で揺れた大きな膨らみを目で追ってしまっている。


「ロウガ……」

「す、すいません! あまりにもお美しかったので、つい」

「構いませんよ。私の美しさに見惚れてしまうのは当然のことですから」


 そう言って、優雅に微笑むレオニーダさん。

 優しいというか……割と癖のありそうな人だな。

 やがて彼女は、聞いてもいないのにあれやこれやと語り始める。


「私はこれでも三十八歳になります。ですが、軽く十歳は若く見えるでしょう? この美貌とボディラインを維持するために、毎日様々な努力を積み重ね――」

「……おほん! お久しぶりです、レオニーダ殿!」


 止まらなくなってしまったレオニーダさん。

 彼女の話を打ち切るように、ライザ姉さんは大きな声で挨拶をした。

 するとようやく、我に返ったのであろうか。

 レオニーダさんは言葉を止めると、再び優雅に微笑む。


「失礼いたしました。それで、ライザ殿はどのようなご用件で当家へ?」

「実はヴァルデマール家のコレクションの中で、お譲りいただきたいものがありまして」

「……ほう?」


 顔をしかめ、にわかに低い声を出すレオニーダさん。

 その眼の奥にはどこか仄暗い光があった――。

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