表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/301

第四章最終話 華やかなる芸術の魔

「エクレシア……。ひょっとして、大芸術家のエクレシア様ですか?」


 ニノさんが、どこか興奮した様子で尋ねてきた。

 ひょっとして、エクレシア姉さんのファンだろうか?

 世界的な芸術家だけあって、そこら中に根強いファンがいるんだよな。


「……ええ」

「ということは、エクレシア様もジークの身内!?」

「姉ですね」


 俺がそう言った途端、ニノさんの眼がキラキラと輝き始めた。

 一方で、クルタさんたちは「またなのか」と驚きを通り越して呆れたような顔をしている。


「なあ、ジークの家族って本当にどうなってるんだ?」

「そうだよ。明らかに普通じゃないというか……。もしかして、皇帝の隠し子とか?」

「そんなわけないじゃないですか! そりゃ、姉さんたちは特別かもしれないですけど……俺は普通です!」


 俺がそう宣言すると、クルタさんたちは揃って首を傾げた。

 アエリア姉さんも何か言いたそうな雰囲気である。

 あ、あれ……?

 俺ってもしかして、普通じゃないのか?

 いやいや、そんなことはない。

 姉さんたちに引っ張られて、みんなの感覚がおかしくなっているだけだろう。


「……ともかく、エクレシア姉さんが動くとなると厄介ですね」

「ええ。人間相手では、あの子が一番かもしれませんわ」


 手を顔の前で組んで、深刻な顔をするアエリア姉さん。

 一方、クルタさんたちは困惑したような表情をする。


「そんなにヤバいのか?」

「ええ」

「でも、芸術家なんだよね? そんなに危険なイメージはないのだけど……」


 クルタさんの言葉に、俺とアエリア姉さんは揃って深いため息をついた。

 確かに、相手が一般的な芸術家ならば何も恐れることはない。

 けれど、エクレシア姉さんはいろいろと特別なのだ。


「優れた芸術は人の心を動かしますわ。これは分かりますわよね?」

「うん。あんまりそういうの詳しくないけど、綺麗な物を見ると『おおっ!』てなるね」

「真に優れた芸術は、心を動かすだけにとどまらず支配してしまうのですわ」

「なるほど……?」


 アエリア姉さんの言葉に、クルタさんは半信半疑と言った様子で頷いた。

 直感的に理解できないのも無理はない。

 けど、エクレシア姉さんに関しては本当にそうとしか言いようがないからなぁ……。

 彼女の作品は、まさしく魔性と呼ぶのがふさわしい何かがある。


「いずれラージャに行くでしょうから、準備しておくべきですわね」

「わかった。ありがとう、アエリア姉さん」

「まあ、家に戻りたければすぐ戻ってきてもいいですのよ。いつでも待ってますからね」


 そう言って、満面の笑みを浮かべるアエリア姉さん。

 俺は思わず苦笑いをすると、それはまだまだ先の話だと告げる。


「遠慮はいりませんからね」

「あはははは……。ところで、ライザ姉さんはどうしてるんです?」


 それとなく話題を切り替える。

 するとアエリア姉さんは、すぐさま壁の時計に視線を走らせた。

 そしておやっと首を傾げる。


「変ですわね。ここに来るようにと場所を伝えたのですが……」

「ノアアアアァ!!!!」

「わわわっ!?」


 噂をすればなんとやら。

 部屋の扉を押し開き、ライザ姉さんがすごい勢いで飛び込んできた。

 彼女は俺に駆け寄ると、勢いそのままに抱きついてくる。

 突然のことに驚いた俺は、椅子ごと押し倒されてしまった。


「ラ、ライザ姉さん!?」

「……はっ!!」


 みんなから注がれる生暖かい視線。

 場の空気が何とも言えない状態になったことに、流石のライザ姉さんも気づいたのだろう。

 彼女は急いで俺から離れると、取り繕うように咳払いをする。


「げ、元気だったかノ……じゃなくてジーク」

「ライザ姉さんの方は、すごく元気だったみたいですね」

「ま、まあな!」

「当然ですわ。監視していたとはいえ、最高級スイートに居たんですもの」


 へえ……。

 アエリア姉さんも、そういうとこはしっかり配慮してたんだな。

 身内なのだし、当然と言えば当然か。

 

「そうだ、借用書をお返ししますわ。お金はもう口座に戻しておきましたわよ」

「おお!」


 借用書を受け取ったライザ姉さんは、それをその場で破り捨ててしまった。

 そして大きく胸を張ると、高らかに勝利宣言をする。


「ははは、これでもう自由だ! 何も怖くないぞ!!」

「次からはもう、騙されないでくださいましね」

「当然だ。学習したからな!」

「……それが一番心配ですのよ」


 額を押さえ、やれやれとため息をつくアエリア姉さん。

 まぁ、とにもかくにもこれでライザ姉さんの問題もひと段落である。

 無事にお金も戻って来たことだし、円満に解決できてよかった。


「これでまた、ジークたちと一緒に冒険ができるな!」

「うん!」

「剣聖が戻ってきてくれるなら、こんな心強いことはないな」

「頼もしいことこの上ないです」

「あ、そうだ」


 最後に、アエリア姉さんが何かを思い出したように手をついた。

 はて、一体なんだろう?

 何だかこう、ろくでもないことが起きるような気配がするぞ……!!

 嫌な予感がして俺が震えていると、アエリア姉さんは満面の笑みで告げる。


「あのゴーレム、これから改良する予定ですからたまに手伝ってくださいましね」

「え?」

「ノアに勝てるように作り直させるつもりですから」


 だから、たまに戦って性能を確かめさせてと続けるアエリア姉さん。

 やれやれ、負けず嫌いなところは騒動を経ても全く変わっていないようだ。

 この分だといつか、最強のゴーレムを作り出しそうだなぁ。


「……わかった。またね、また」

「では、その時が来たらラージャ支店を通じて連絡しますわ」

「うん!」

「さてと、じゃあそろそろ行こうかね」


 満足げにお腹を擦りながら、立ち上がるロウガさん。

 俺もそれに合わせて、ゆっくりと席を立った。


「戻りますか、俺たちのラージャへ」


 こうして迷宮都市での冒険は終わり、俺たちはラージャへの帰路に就くのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ