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第十八話 新たなる迷宮

「さてと……これからどうする?」


 ライザ姉さんがアエリア姉さんに連れて行かれた翌日。

 俺たちは商会の酒場に集まり、今後のことについて話し合っていた。

 とはいっても、やることは既に決まっている。

 十二番迷宮の奥にある隠し通路を攻略し、聖剣を手に入れるのだ。

 これをしないことには、何も始まらない。


「とにかく、聖剣を一刻も早く手に入れましょう」

「ライザはどうする? 連れ戻さなくていいのか?」

「聖剣さえ手に入れれば、解放してくれると思います」

「そもそも、戻ってこなくてもいいんじゃない? そっちの方が、ジークものびのびできるだろうし」


 そう言って、さらりと腕を絡めてくるクルタさん。

 ……考えてみれば、そもそもライザ姉さんと一緒に冒険する予定はなかったしなぁ。

 今ではなし崩し的に仲間のようになっているけれど、いない方がいいのかも。

 ライザ姉さんがいると、ついつい頼ってしまいがちだし……。


「うっ、でも放っておくとそれはそれで……」


 ふと脳裏に、拗ねるライザ姉さんの顔が思い浮かんだ。

 大人が拗ねると厄介だけど、姉さんの場合はもっと質が悪い。

 一応、ことが終わったらちゃんと迎えに行ってあげよう。

 じゃないと、後がすごく怖い。


「どうしました? 顔が青いですよ?」

「いや、姉さんが拗ねるとこ想像しちゃって。……ちゃんと迎えには行きましょう」

「むぅ……いない方がいろいろやりやすいのになぁ」

「へ?」

「何でもない、こっちの話だよ」


 何やら思案に耽るクルタさん。

 よく分からないが、関係ないと言われれば関係ないのだろう。

 それよりも今は、これから先の迷宮攻略だな。

 俺はロウガさんにそっと視線を送る。


「んー、第七も深層まで行ったしな。そろそろ新しいとこに行ってもいいか」

「どうせなら、十三番に行きませんか?」


 せっかく、新しい迷宮が見つかったばかりなのである。

 たぶん、俺たちが生きている間に次が見つかることはないだろう。

 姉さんが指定した期限までにはまだ時間もあるし、行ってみてもいいのではなかろうか。

 俺だって冒険者だ、未知の迷宮と聞いて胸躍るものだってある。


「そうだな……。ちょうどいい機会だし、入ってみるのもありだな」

「じゃあ、早速行こうか」

「どんな迷宮なのか、楽しみだねー」

「……言っておくが、俺が危険だと判断したらすぐに引き上げるからな?」


 意気揚々と歩きだした俺たちを見て、注意を促すロウガさん。

 こうして俺たちは、十三番迷宮へと向かったのであった。



――〇●〇――



「ここが十三番……意外と街中ですね」


 十三番迷宮の入口があったのは、市街地北部の住宅街と商店街のちょうど境界付近であった。

 最近見つかったということで、もっと人気のない場所かと思っていたけれど……。

 なかなかどうして、栄えた場所である。

 これなら、もっと昔に発見されていてもおかしくないのに。

 俺がそんな疑問を抱くと、クルタさんが笑いながら言う。


「迷宮ってのは、突然現れるんだよ」

「え?」

「いきなり、それまで何もなかったところに出現するんだって」

「へえ……いきなりですか」

「そ。聞いた話だと、十三番があった場所はもともと空き地だったらしいよ。家を建てる途中で事故が起きて、工事が中断してたところで迷宮が出来ちゃったんだとか」


 なるほど、いきなり出現するのか。

 けど、土地の持ち主の人からしてみたらたまったもんじゃないな。

 迷宮が出来てしまっては、もう家を建てるどころの騒ぎじゃないだろう。


「ま、街から補償金を貰って逆に儲かったらしいけどね」

「へえ……。でも、迷宮ってでっかいですよね? 上はともかく、地下は大丈夫なんですか?」

「この街の地下は基本的に開発禁止だから。どうしても迷宮に出現されたくない場所には、特別な結界を張ってるらしいし」


 こうして話をしていると、見覚えのある顔が目の前を通り過ぎた。

 ロウガさんの古い知り合い、ラーナさんである。

 これから迷宮へと向かうところなのであろうか。

 酒場で見た時よりも、重厚で物々しい装備に身を包んでいる。


「ラーナさん!」

「おい、やめろ!」


 声を掛けようとした俺を、ロウガさんは慌てて止めた。

 どうやら、ラーナさんとあまり関わり合いになりたくなかったらしい。

 しかし、その声はいささか大きすぎたようだった。

 すっかりこちらの存在に気付いたラーナさんは、からかうような笑みを浮かべて近づいてくる。


「ロウガたちじゃないか。結局、あんたたちも来たのかい?」

「ええ、まあ。せっかくですし」

「ちっ……まさかばったり会っちまうとはな」

「そんなに嫌そうな顔するんじゃないよ。こんな美人に会えて、幸運じゃないか」

「自分で言うなっての。だいたい年増じゃねえか……」

「誰が年増だって!?」


 ロウガさんに掴みかかるラーナさん。

 まったく、放っておくとすぐ喧嘩するんだから!

 俺は慌てて二人の間に入ると、どうどうと彼らをなだめる。


「落ち着いてくださいって。二人ともいい大人なんですから」

「しゃーねえなぁ……」

「ま、今更こいつとどつき合ってもしょうがないしね」

「それで、ラーナさんはここへ何しに来たんです?」


 俺がそう尋ねると、ラーナさんはアハハッと豪快に笑った。

 そして胸に手を押し当てると自信ありげに言う。


「もちろん、牡牛を倒しに来たのさ」


 そういうラーナさんの眼は鋭く、剣呑な光に満ちていた。


12月1日より本作のコミカライズがマンガUPにて始まりました!

素晴らしい作画で生き生きと描かれた漫画となっておりますので、ぜひご覧ください!

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