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第十五話 種明かし

「アエリア……!?」


 いきなり姿を現したアエリア姉さんに、驚きを隠せないライザ姉さん。

 受付嬢さんも、眼を見開いて凄い表情をしている。

 一方で、クルタさんたちは誰が来たのかと不思議そうな顔をしている。


「ひょっとして、あれが噂のお姉さん?」

「ええ。うちの長女のアエリア姉さんです」

「お姉さんって、ひょっとして会頭のご家族だったんですか!?」

「ええ、まあ……」


 ここまで来てしまったからには、素直に認めるよりほかはないだろう。

 俺が頷きを返すと、受付嬢さんはものすごい勢いでこちらに平伏してきた。

 それを見たクルタさんたちも、戸惑ったような顔をする。


「またとんでもない大物が……」

「縁があるってこのことかよ……すげえな」

「ジークの家族って、いったいどうなってるんです?」

「あはは……。まあ、姉さんたちはすごいんですよね」


 俺がそう言ったところで、アエリア姉さんがこちらに近づいて来た。

 彼女は呆然とするライザ姉さんの顔を見て、ふふふっといたずらっぽい笑みを浮かべる。


「まさか……あの占い師の正体は、アエリアだったのか!?」

「ええ。姿と声を変える魔道具を使っていたとはいえ、気づくのが遅いですわ」

「むむむ……!! だが、いったいどうやって? アエリア、まさか魔法が使えたのか?」


 ライザ姉さんがそういうと、アエリア姉さんはやれやれとばかりに肩をすくめた。

 そして、うんざりしたようにため息をつく。


「まったく、呆れてしまいますわ……。普通はそろそろ種に気付きますわよ?」

「な、なに!?」

「ノア、教えてあげなさいな」


 そういうと、実にいい笑顔で促してくるアエリア姉さん。

 細められた瞳の奥に、ただならぬ殺気のようなものを感じるが……。

 ひとまずそれは置いておくとして、俺は軽く咳払いをして言う。


「……ようは、お金を使ったんですよね?」

「ええ、その通りですわ。流石はノア」

「つまり……どういうことだ?」


 まだわからない様子のライザ姉さん。

 頭の中が疑問で一杯なのか、ぽかんとした顔をしている。

 一方で、流石にクルタさんたちは言葉の意味を理解したのだろう。

 アエリア姉さんのしたことの荒唐無稽さに、唖然とした顔をした。

 やがて、クルタさんが恐る恐ると言った様子で尋ねる。


「えっと……街中のお店に裏から手を回して協力を依頼したってこと?」

「そうですわ。この街の店のほとんどにはうちの資本が入っておりますから、さほど難しいことではありませんでした」

「ひょっとして、くじ引きに並んでいたお客とかも……」

「もちろん、臨時で雇ったアルバイトさんですわ。賞品もこちらで手配したものでしてよ」


 さらりとした口調で言ってのけるアエリア姉さん。

 しかし、それだけの手配をしようとするといったいどれだけの手間とお金がかかるんだ……?

 流石におかしいと思ったのか、ロウガさんが尋ねる。


「……待ってくれ。そんなことしたら、どれだけ金がかかるんだ? 百万や二百万じゃ利かねえだろ」

「そうですわね……。人件費などもろもろ入れますと……一億ぐらいはかかったかもしれませんわ」

「い、一億ぅ!!」


 あまりの金額の大きさに、ロウガさんは雷にでも打たれたかのような勢いで仰け反った。

 そりゃそうだ、ライザ姉さんをはめるためだけにお金を掛け過ぎである。

 一億ゴールドあれば、いったい何年生活できるのか……。

 そう考えただけでも、気が遠くなってしまうような金額だ。

 しかし、アエリア姉さんはこともなげに言う。


「むしろ、とっても安く済みましたわ。うまく行かなかったら、もっと色々する予定でしたもの」

「……謝れ!今すぐ庶民に謝れ!! 俺なんて、貯金五万しかないぞ!」

「そうですよ! 私だって、先月に貰ったボーナスもう残ってないんですから!!」


 それは二人とも、無駄遣いしてるのが原因なんじゃないか……?

 特にロウガさんは、まとまったお金が入るとすぐに豪遊する悪癖があるからなぁ。

 それがなければ、一流冒険者である彼はかなり楽に暮らせていただろう。

 クルタさんとニノさんも同じことを思ったのか、やれやれと呆れた顔をする。


「ロウガは無駄遣いしすぎです」

「お小遣い制にでもした方がいいんじゃない?」

「あ、それはいいですね。流石ですお姉さま」

「おいおい、勘弁してくれよ!」


 話が予想外の方向へと転がったことに戸惑うロウガさん。

 この際だし、ニノさんにいろいろ管理してもらった方が彼のためになるかもしれない。

 俺はそんなことを思ったが、流石にかわいそうなので黙っておいた。


「とにかく、ですわ。これでライザはもう、わたくしに逆らうことはできませんわよ」


 そういうと、アエリア姉さんは懐から一枚の契約書を取り出した。

 大きな文字でサインがされたそれは、どうやら借用書のようである。

 うわぁ……すっごい魔力が込められてるな。

 ライザ姉さんが力技で契約を破ることがないように、特注で用意した代物だろう。

 これを作るだけでも、追加で一千万とかかかってそうだ。

 国同士の約束でも、なかなかこんなの利用しないんじゃないか……?


「ぐぐぐ……! きょ、姉妹で借金なんて無効だ!」

「そんなことありませんわ。それに、しばらく大人しくしてくれれば借金はチャラにしてあげます」

「ふん! この私がそれぐらいのことで……」

「待って! ここで逆らったらまずい!」


 俺が止める間もなく、アエリア姉さんは契約書を高々と掲げた。

 たちまち、契約書に込められていた魔力が放出されライザ姉さんを縛り上げる。


「うおっ!? な、なんだこれは!? う、動けん……!」

「特注の魔法契約書ですわ。借金が完済されるまで、ライザは私には逆らえませんの」

「なにを……この程度……!!」


 力技で突破しようとするライザ姉さんだったが、やはり無理だった。

 やがて力を使い果たした彼女は、へなへなとその場に座り込む。


「む、無念……!」

「これで、一番厄介なライザは封じ込めましたわ! おほほほほ!」


 優雅に笑うアエリア姉さん。

 これは……かなり厄介なことになってきたぞ!

 俺は思わず、固唾を呑むのだった。



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