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第十四話 長女、来る

「……それで、急にレストランに呼びつけたんですね」


 姉さんの話を聞いて、俺たちは数日前の出来事を思い出した。

 あの日、俺たちはいきなり「宴を開くぞ!」と休んでいたところを呼び出されたのだ。

 ドラゴン肉がたらふく食べられるということで、みんな集まったのだけれど……。

 あれにそんな裏があるとは、今の今まで知らなかった。


「あのドラゴン、姉さんが狩ってきたんじゃなかったんですね」

「そうだ。さすがの私も、休みが一日しかないのにドラゴン狩りにはいかんぞ」

「……それ、何日かあれば行くってことじゃないですよね」


 呆れたようにつぶやくニノさん。

 まあ、姉さんは修行が半分趣味みたいなものだからな。


「それでその日の夜、宿に泊まろうとしたらな。手違いで予約が被ってしまったとかで、部屋をアップグレードしてもらえたんだ。スペシャルロイヤルスイートという部屋に泊まれたぞ」

「何だか、めちゃくちゃすごそうな部屋ですね」

「というか、宿にそんな部屋あったか?」


 ふと、疑問を呈するロウガさん。

 言われてみれば、この街で姉さんが泊まっているのは俺たちと同じ宿屋である。

 それなりに大きな宿屋ではあるが、そんなすっごい部屋があるようなところではなかったような……。

 ごく普通のグレードの宿だったはずだ。


「ああ、緊急で隣のホテルを借りてくれたんだ」

「んん? いくら何でもそこまでするか?」

「ちょっと怪しいような」


 普通ではありえない対応に、俺たちは少し疑念を抱いた。

 単に運が良いというだけではなさそうな感じだ。


「その後も、何かありました?」

「翌朝、財布を拾ったな。百万ゴールドも入った奴だ」

「そんなのを落としますかね……?」


 百万ゴールドともなれば、結構な重量があるはずだ。

 落としたら流石に気づくのではないだろうか?

 俺たちの違和感がさらに増したところで、畳みかけるようなことを姉さんは言う。


「それで、拾ったらすぐに持ち主が現れてな。気前よく財布の中身を全部くれたんだ」

「ぜんぶ!?」


 いや、いくらなんでもそれは明らかにおかしいぞ!

 拾ってくれた人に中身をすべて渡してしまうなんて、何がしたいのかよく分からない。

 

「姉さん、それは普通じゃないですよ」

「私も怪しいとは思ったが、いかにも金持ちそうな男だったからな。さほど気にしなかった」

「いや、気にしてくださいよ!」


 戦いのときはどんな些細な変化にも気づくのに、日常だとどうしてこうなのか……。

 姉さんのすっとぼけた返答に、俺は思わず頭を抱えた。


「明らかに何かありますね」

「ああ。だが、いったいどうやったんだ?」

「特殊な魔法でも掛けられてるんじゃないのかなぁ、その人形。人を操る魔法とか」

「でも、何の魔力も感じられないですよ」


 もう一度調べてみるが、人形からは何の魔力も感じられなかった。

 そもそも、人をそこまで自由自在に操れる魔法などこの世に存在しないだろう。

 まして、それをごく普通の人形に込めるなんて不可能に近い。

 

「ううーん、謎だね。どうみても、その占い師ってのが何かしたようにしか思えないけど」

「本当に幸運を呼び寄せているだけじゃないのか?」

「それはない!」


 俺たち全員の声が揃った。

 運を呼び寄せただけにしては、あまりにも不自然なことが多すぎる。

 きっと何かしらの仕掛けがあるはずなのだ。

 しかし、魔法が使われていないとするとどうやってそんなことを可能としているのか。

 少し考えてみたが、俺にはどうにも見当がつかなかった。


「……話をいったん、切り替えましょう。それで、幸運を体感した姉さんはまた件の占い師の元へと出かけたんですね?」

「ああ。そこで、魔石の先物取引の話を切り出された。ニョッキの代金はいらないから、投資に協力して欲しいと」

「おかしいとは思わなかったんですか? だって、本当に幸運を引き寄せたり未来を予知する力があるなら、わざわざ人からお金を集める必要ないじゃないですか」


 俺がそういうと、姉さんはハッとしたような顔をした。

 今更そこに気付くのか……。

 みんなが呆れた顔をすると、姉さんは顔を赤くして反論する。


「だ、だってだな! それだけ幸運なことが続けば、何かしらの力はあると思うだろう? 現に、お前も人形の秘密がわからないではないか」

「確かに。そもそも、それだけのことができるなら姉さんの財産を狙わなくても……んん?」


 ちょっと待てよ。

 犯人の目的が、そもそもお金ではないとしたらどうなのだろう?

 例えば、借金をさせることで姉さんの動きを封じることが目的だとすれば……。

 頭の中で、様々な可能性が浮かんでは消えた。

 そしてある考えに思い至ったところで、俺はハタと動きを止める。


「そうか、それなら全部つじつまが合うぞ……!」

「何かわかったのか?」

「ええ! 俺たちの動きは、とっくの昔にアエリア姉さんにバレてたってことですよ!」

「な、なんだと!? それはいったいどういうことだ!?」


 声を荒げ、前のめりになって近づいてくるライザ姉さん。

 俺は両手を広げると、ただならぬ様子の彼女をどうにか制止しようとした。

 するとここで、どこかで聞いたような笑い声が聞こえてくる。

 これは、これは……!!


「久しぶりですわねえ、ノア!」


 数名の護衛を従え、優雅に扇で口元を隠す妙齢の女性。

 その女王を思わせるような威厳のある姿は間違いない。

 アエリア姉さんの登場だ……!

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