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第十二話 謎の占い師

 時は遡り、一週間前のこと。

 いつものようにノアたちと探索を終えたライザは、一人で街に繰り出していた。

 最近はノアと行動を共にすることの多い彼女であるが、もともとは一匹狼のような気質である。

 見知らぬ酒場にふらりと立ち入って、ゆったりと一人で酒でも飲みたくなったのだ。


「しかし、ノアの奴もだらしがない。あれぐらいでクタクタになるとは」


 まだ迷宮探索に慣れていないせいであろう。

 すっかり疲れた様子のノアは、宿に戻ると早々に床についてしまった。

 まだまだ体力の有り余っているライザからすると、情けないと言いたくなるところではあるが……。

 あまりきつく言いすぎても、また飛び出してしまうかもしれない。

 それに――。


「ま、下手に力を持て余して夜遊びされるよりはマシだな」


 ロウガの姿を思い浮かべながら、やれやれとつぶやくライザ。

 そろそろ中年と言っていい歳なのに、彼は今日も元気に夜の街へと繰り出していった。

 体力はつけてもらいたいが、ああなって貰っても困る。

 ただでさえ、クルタという変な虫がくっついて困っているのだから。


「お? なかなかいい雰囲気の店だな」


 こうして、あれこれ思案に耽りながら裏路地を歩いていると。

 ほんのりと甘い酒の香りが漂ってきた。

 見上げれば、ドワーフの盃と書かれた看板が目に飛び込んでくる。

 名前からして、酒に相当のこだわりがある店のようだった。


「どれほどのものか、試してみるか」

「もし、そこのあなた」


 いきなり、ライザは後ろから何者かに呼び止められた。

 慌てて振り返ると、そこにはフードで顔を隠した怪しげな女が立っていた。

 その身体つきはしなやかで、薄衣越しに美しいボディラインが浮かび上がっている。

 ひどく魅惑的で、それでいてどこか危うい雰囲気を漂わせていた。


「私に何の用だ?」

「その店に今入ってはいけません」

「なに? どういう意味だ?」

「そのままの意味です。今入れば、悪いことが起きますよ」


 女がそう告げた直後、ライザの背後で大きな物音がした。

 店の看板が外れて、地面に落ちてしまったのだ。

 もしあのまま店に入ろうとしていたら、頭をぶつけていたかもしれない。

 二つに割れてしまった看板を見て、ライザはふーむと唸る。

 これでどうにかなるほど柔な彼女ではないが、予想がぴたりと当たったのは興味深かった。


「貴様、何者だ? 只者ではないようだが」

「私はただのしがない占い師でございます」

「占い? まさか、それで未来を予知したとでもいうのか?」

「ええ、その通りでございます。予知と言いましても、おぼろげなものではございますが」


 にわかには信じがたい話であった。

 しかし、この占い師は実際にライザの身に起きることを言い当てている。

 あれがただの偶然だったとも思えない。


「あなた様には、いま不吉の影が出ております。このままですと、あなたの大切な人に何かよからぬことが起きるかもしれません」

「大切な人?」

「ええ。これは……男性でしょうか。それも、あなた様よりかなり年下のようですね」

「なっ!?」


 明らかにノアのことであった。

 ここまで正確に言い当てるとは、ますます只者ではない。

 ライザは警戒感を強めながらも、占い師の話に聞き入る。


「このままですと、あなた方は暗い地の底……これはダンジョンでしょうか。そこで強大な敵と戦い、この少年は大怪我を……いえ、ひょっとすると命を落としてしまうかもしれません」

「な、なんだと!?」


 ノアが死ぬかもしれないと聞かされて、にわかにライザの顔色が変わった。

 彼女は女の肩を掴むと、凄まじい形相で詰め寄る。

 ドラゴンでも逃げ出しそうなその迫力に、女はひっと小さな悲鳴を上げた。

 しかしすぐに深呼吸をすると、どうにか平静さを取り戻す。


「お、落ち着いてください。事態を回避する方法はあります」

「それを早く言え! 危うく心臓が止まるかと思ったぞ……」

「それを言うならわたくし……こほん、私の方が怖かったですよ」


 占い師はそういうと、懐から小さな人形を取り出した。

 芋虫を模したようなそれは、どことなく不気味であまり触れたくないような印象だった。

 

「これは幸運の人形、ニョッキと言います。これを持てば不幸が回避されることはもちろん、あなたに様々な幸運が訪れることでしょう」

「……こんな人形でか?」

「ニョッキを馬鹿にしてはいけません、罰が当たりますよ!」

「す、すまない。だがなぁ……うーむ……」


 見たところ、布で出来たただの人形にしか見えないニョッキ。

 これにそんな特別な力があるとは、にわかには信じられなかった。

 こうしてライザが怪訝な顔をしていると、占い師は諭すように言う。


「いきなり信じろと言うのも無理な話でしょう。ですので、ニョッキのお代は特にいただきません」

「いいのか?」

「ええ。代わりに、三日が過ぎたらまたこの場所を訪れてください。その時、またお話をしましょう」

「三日後だな、わかった」


 金も何も要らないならばと、了承するライザ。

 彼女はニョッキを懐にしまうと、そのまま立ち去ろうとした。

 するとここで、占い師は最後に一言告げる。


「そうだ、忘れておりました。今日のことは、できるだけ話さないようにお願いしますね」

「わかった。もとより、このようなこと他言するつもりはない」


 そう言って、占い師の元を立ち去るライザ。

 彼女が手に入れた人形、ニョッキ。

 それがいかなる運命をもたらすのかを、まだ誰も知らない……。


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