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第九話 驚きの探索者

「いくらあいつがいるとはいえ、初心者が七番なんて大丈夫なのかねえ……」


 商会に併設されている酒場。

 普段より早く仕事を切り上げたラーナは、そこでちびりちびりと酒を舐めていた。

 喧嘩別れに近い状態であったとはいえ、ロウガとは昔馴染みである。

 再会した彼とその仲間のことが気になって、彼女は何となく仕事が手につかなかった。

 元より、働くも働かないも自分次第の探索者稼業。

 ふわふわした気分でダンジョンに潜るよりはと、思い切って休んでしまったのである。


「様子を見に行っただけにしては、遅いね」


 ふと窓の外を見やれば、いつの間にか日が落ちていた。

 仕事を終えた探索者たちで、次第に酒場も賑わってきている。

 普通、初日の肩慣らしならば数時間で終わるもの。

 順調に行ったからと言って、探索のし過ぎはかえって危険である。

 そのぐらいのことは、ロウガも知っているはずなのだが……。

 ラーナはどうにも悪い予感がした。


「あいつ、アタシを驚かせようとでもしてるのかね」


 十年以上も前、ラーナとロウガがペアで活動していた頃。

 ロウガは意地を張って何かと無理をすることがあった。

 もしかして、今日もそうなのだろうか。

 そのようなことを思っていると、帰還する探索者たちに混じってスウッと見覚えのある男が現れる。


「……ロウガ。あんた、初日からずいぶんと飛ばしてるね」

「まあな。今日でボスまで倒してきた」

「……ん?」


 ロウガの言葉を、ラーナは瞬時に理解できなかった。

 やがて言葉をかみ砕いた彼女は、ぶっと吹き出してしまう。

 いくらロウガが引率しているとはいえ、たった一日でボスまで攻略するのはまずありえない。


「ははは、吹かすのもたいがいにしな!」

「そんなことで嘘ついてどうする、本当だ」

「じゃあ、魔石があるのかい?」

「ああ。だがな、その……。ここだと見せられない。外に出てくれ」


 周囲の視線を伺いながら、小声でささやくロウガ。

 それを聞いたラーナは、ははんと何かを察したように笑う。


「あんた、アタシを誘う気かい? ったく、妙な手を使っちゃって」

「はぁ? 今さら誰がお前みたいな年増と……」

「……おい、誰が年増だって? アタシはまだ二十代だよ! それを言うなら、アンタこそオッサンだろ!」

「何を!? 俺はまだ、お兄さんだ!」


 くだらない言い争いを始めてしまうロウガとラーナ。

 外からそれを見ていたらしいジークが、慌ててその間に割って入る。


「落ち着いてください! その、ここだとダメな理由があるんですよ」

「……よく分からないけど、結構真面目な要件みたいだね?」

「ええ、すっごく真面目です」


 ジークがそういうと、ラーナはふんふんと頷きを返した。

 そして、けだるいため息をこぼしながらゆっくりと立ち上がる。


「どれ、見てあげようかね」


 こうして、人目につかない路地裏まで案内されたラーナ。

 そこでキメラスケルトンの魔石を見せられた彼女は――。


「え、えええええっ!!??」


 落ち着いた外見からは似合わない、素っ頓狂な叫びをあげるのだった。



――〇●〇――



「……びっくりしたよ。あんたたち、本当に強いんだね!」


 心底驚いたような顔で告げるラーナさん。

 初心者がいきなりあんな魔石を見せたら、そりゃこうもなるよなぁ……。

 むしろ、マイナスの反応を示されなかっただけ良いだろう。

 嘘だとか言われたら、話しがいろいろとややこしくなっただろうから。


「にしても、良かったのかい? アタシがアンタたちの名誉を貰ったみたいになっちゃったけど」

「それはもう、むしろどんどん貰っちゃってください!」

「え?」

「ボクたち、ちょっと事情があって目立てないんだよね」

「ああ。アエリアに見つかるわけには……」

「姉さん!」


 慌てて口を押えるライザ姉さん。

 危ない危ない、あともうちょっとでとんでもないことになるとこだった。

 この街でアエリア姉さんの名前なんて出したら、どうなることか。


「よく分からないけど、結構な訳ありみたいだね?」

「……そういうことです」

「ま、この街にはそういうやつも多いからね。アタシはそんなに気にしないよ」


 そう言って、カラカラと笑うラーナさん。

 器が大きいというか、豪快というか。

 何ともはや気風のいい人である。


「けど、アンタたちの事情はともかくとして。七番にそこまで強大な魔物が出るなんて、よっぽどだよ」

「そうだな。この調子だと、牡牛も出るかもしれない」

「呆れた。アンタ、ヤツが目当てで来たわけじゃないって言ってたじゃないか」

「口にしただけだ。戦うつもりはない」


 過去に戦ったことをよほど後悔しているのだろう。

 ロウガさんの声は低く、嫌なことを思い出したとでも言わんばかりだ。

 しかし一方で、ラーナさんの方はどこか前向きで楽しげな顔をする。


「アタシの方はそうだねえ……。できるならヤツともう一度、戦ってみたいよ」

「正気か? 多少は腕を上げたのかもしれんが、それで勝てるような相手でもねえだろ」

「それぐらいわかってるよ。アタシだって馬鹿じゃないんだ、少しは考えってもんがあるのさ」

「ふぅん……。まぁ、お前がどうなろうと俺には関係ないけどな」

「そっちこそ、せっかくすごい仲間がいるんだ。足を引っ張るんじゃないよ」


 そういうと、ラーナさんは魔石の代金を置いて去っていった。

 ……このまま彼女を放っておいて、果たして大丈夫なのだろうか?

 すると俺の心配を察知したらしいロウガさんが、笑いながら言う。


「なに、あいつもいい年だ。そうそう無茶はしないだろう。それに牡牛はそうそう簡単に見つかるような獲物でもないからな」


 そういうと、ポンポンと俺の肩を叩くロウガさん。

 こうしてヴェルヘンの夜は、ゆっくりと更けていくのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ねぇねぇ、ロウガさん。 そういうの、なんて言うか知ってる?。 それ、フラグって言うんですよ〜( ´罒`*)✧
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