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第七話 姉の進化

「ここを突破すれば、いよいよボスの間だな」


 七番迷宮を進むこと二時間ほど。

 俺の魔力探知とニノさんの探索を頼りに、俺たちは順調に奥へと進んでいた。

 もとより、こちらの戦闘力は基準を大きく上回っているのである。

 油断は禁物だが、きちんと注意して進めばうまく行かないはずはなかった。


「ここのボスは、どんな魔物でしたっけ?」

「オーガスケルトンだ。その名の通り、オーガのスケルトンだな」

「初めての魔物ですね」

「ボクは前に戦ったことあるけど、結構やっかいな奴だよ。力が強いくせに、骨だから軽くて速いんだよね」


 なるほど、オーガの力強さとスケルトンの身軽さを兼ね備えているという訳か。

 ボスというだけあって、他のモンスターとは比べ物にならない強敵のようだ。


「確か、ボスを倒すとショートカットができるようになるんでしたっけ?」

「ああ。次からは転移門でボスの次の階層まで飛べるようになる」

「ほかに、最下層のボスの場合は特別な遺物が手に入ったりするんだよね?」

「そうだ、良く知ってるな」

「ま、勉強してきたから」


 得意げに胸を張るクルタさん。

 流石はAランク冒険者、事前調査もしっかりしているらしい。

 するとロウガさんは、笑いながら言う。


「ジークのためだもんな。そら、気合も入るってわけか」

「ロウガ! 余計なこと言わないでよ!」

「……言っておくが、私は認めないぞ」


 姉さんとクルタさんの間で、またもや妙な空気が漂い始めた。

 ダンジョンの中だというのに、お構いなしである。

 見かねたニノさんが、周囲を見渡して話題を変えるように言う。


「そう言えば、先ほどからあまりモンスターが出てませんね。どこかに集まってたりしませんか?」

「うーん、俺の魔力探知にも引っかかってないですね」


 第七迷宮はそれほど広いダンジョンではない。

 俺はフロア全体に魔力の膜を押し広げるが、モンスターの反応はまばらだった。

 最初に連携を組んで攻め立ててきたのが嘘のようである。


「確かにちょっと少ないな。こういう時は注意した方がいい」

「長年の勘ってやつか?」

「ああ。ライザも警戒してくれ」


 ロウガさんにそう言われ、姉さんは腰の剣に手を掛けた。

 緊張感が高まり、自然と空気が張り詰める。

 それに合わせるかのように、ニノさんとクルタさんも武器を構えた。


「……ダンジョンってのは、独立しているようでいろいろ連動しててな。一つの迷宮で動乱期が始まると、他でも異変が発生することも稀にあるらしい」

「ということは、新しい迷宮が出現したこの状況だと……」

「何かあっても不思議じゃねえな」


 凝り固まった雰囲気をほぐすように、ロウガさんは笑みを浮かべた。

 これが経験に裏打ちされた大人の男の余裕って奴なのだろうか。

 俺も彼につられて笑みを浮かべると、さらに迷宮の奥へと歩を進めた。

 そして――。


「こりゃ厄介だな」

「……大きいですね。これはひょっとして、巨人の骨?」

「かもな、他にもいろいろ混ざってそうだ」


 重厚な扉の先に広がっていた大空間。

 そこで待ち受けていたのは、人の五倍はあるかのような巨人であった。

 オーガと比べてもはるかに大きく、その骨格には様々なモンスターの特徴が見え隠れする。

 大きく尖った肩甲骨、捻じれて突き出した角、剣を思わせる牙、とぐろを巻く尾椎……。

 いろいろなモンスターの良いところだけを集めて組み上げたかのようだ。


「よし、ここは私がやろう。この程度の相手、両断してくれる」


 そう言って、ライザ姉さんが一歩前へと進み出た。

 彼女は剣を抜くと、たちまちのうちに斬撃を放つ。

 吹き抜ける風、駆け抜ける真空の刃。

 巨大な骨の塊が、瞬く間に二つに割れる。


「クオオオォッ!!」


 骨らしからぬ、生々しい断末魔が空間を揺らした。

 その直後、乾いた音と共に頭蓋骨が地に堕ちる。

 流石は剣聖、流石はライザ姉さん。

 未知の強敵を相手に、あっという間に決着がついてしまった。


「大したことなかったね」

「そりゃ、ライザが相手だったらそうもなるだろう」

「いや、まだ粘るみたいだ」

「そのようだな」


 俺とライザ姉さんが言葉を交わした直後、スケルトンが再び起き上がった。

 魔力の流れがまったく衰えていないので、こうなるだろうとは思っていたが……。

 やはり、かなり強力な再生能力があるようだ。

 砕けてしまった骨を捨て、無事だった部分だけで身体を再構成している。


「全身バラバラにするしかなさそうだな」

「俺がやろうか?」

「平気だ、この程度ならば剣でもやれる」


 そう答えると同時に、ライザ姉さんの猛攻が始まった。

 幾重にも重なる斬撃が、瞬く間に骨を砕きスケルトンの巨躯を削っていく。

 しかし、敵もさるもの。

 骨が本格的に不足し始めると、どこからともなく補充されていく。

 蓄えた魔力と迷宮内の瘴気を利用して、骨を生成しているようであった。


「これじゃ、いくら切ってもキリがないね……」

「ライザとは相性の悪い相手みたいだな」


 眉を顰め、困った顔をするクルタさんたち。

 しかしここで、急に姉さんが笑い始める。


「斬っても斬っても再生する相手への対策は、既に考えてある」

「え?」

「この間のスライム、あれに負けたのは屈辱だったからな。私の方でもいろいろ考えていたのだ」


 そうつぶやくと、姉さんは剣を鞘に納めた。

 いったい何をするつもりなのか。

 俺たちが疑問に思っていると、彼女はゆっくりと瞼を閉じる。

 ――沈黙。

 周囲からにわかに音が消え、空気が張り詰めた。

 そして――。


「魔裂斬ッ!!!!」


 抜剣。

 それと同時に、見えない何かが宙を駆け抜けた。

 そして姉さんが剣を鞘に納めると同時に、スケルトンの身体が崩れ落ちる。

 これは……魔力の流れそのものを断ち切ったのか?

 スケルトンは再生することができず、無様にのたうち回る。


「私はもう負けん」


 そうつぶやく姉さんの口調は、いつになく自信に満ちていた。

 

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