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第三話 ロウガさんの過去

「……それで、いったい何があったんですか?」


 商会に併設されていた酒場。

 そこで俺たちは、ロウガさんとラーナさんから事情を聴いていた。

 二人とも、いきなり喧嘩したことについては反省しているのだろう。

 心なしか表情がしおらしい。


「前に、俺も迷宮を探索したことがあるって言っただろ? その時、ペアを組んでたのがラーナなんだ」

「そう言えば、一攫千金を狙ってとか言ってましたね」

「もっとも、あの時のこいつは一攫千金どころか大損してラージャに逃げ戻ったんだけどね」

「だから、余計なことを言うなっての」


 顔をしかめながら、やれやれと肩をすくめるロウガさん。

 以前はすぐに迷宮攻略を諦め、ラージャに戻って来たようなことを言っていたけれど……。

 この調子だと、ラーナさんとはそこそこ長い付き合いがありそうである。

 憎まれ口を叩きながらも、互いに気心が知れているような雰囲気だ。


「しかし、よくこの街に戻って来たね。やっぱり十三番が目当てなのかい?」

「いや、あそことは関係ない」

「そりゃ意外だね。てっきり、あの時のリベンジに来たのかと思った」

「今回、用があるのは俺じゃなくてこいつだよ」


 そういうと、ロウガさんは俺の背中をポンポンと叩いた。

 ラーナさんは「へえ」とつぶやくと、すぐさまこちらに向かって前のめりになる。

 たちまち、値踏みするような容赦のない眼差しが俺に向けられた。

 その視線の鋭さに、俺は思わず緊張して肩を震わせる。


「この子がねえ……。パーティの新入りかい?」

「いや、正確には俺がこいつのパーティだ」

「ん? その言い方だと、この子がメインでアンタがサブみたいだけど」

「……その通りだ」


 悔しそうな顔をしながらも、はっきりと告げるロウガさん。

 それを聞いたラーナさんは眼をパチクリとさせたのち、腹を抱えて笑った。

 俺がリーダーだというのが、よっぽど信じられなかったらしい。


「ははは、アンタも冗談が上手くなったね! いくらなんでも、そりゃないだろう」

「ところがどっこい、本当なんだよな……」

「ふぅん。ということは、あれかい? この子の方が、ロウガより強いのかい?」


 ラーナさんの問いかけに、ロウガさんはよりいっそう渋い顔をした。

 そして囁くような小声で「そうだよ」と言う。

 俺のことを認めてはいても、やはり男としてのプライドにいろいろと障りがあるようだ。

 しかし、それを聞いたラーナさんは容赦なく笑う。


「そりゃ傑作だ! ロウガ、アンタもしかしてまだDランクなのかい? てっきり、Cぐらいにはなったと思ってたけど」

「失礼だな、俺はBランクだよ!」

「ということは、この子はそれ以上ってこと? ちょっと信じられないねぇ……」


 俺の顔を見ながら、訝しげに目を細めるラーナさん。

 まあ、無理もないだろう。

 明らかにベテランのロウガさんと比べて、俺はまだまだ新米感が抜けてないからなぁ。

 そもそも、冒険者になってからまだ一年も経っていないし。


「こう見えても、ジークはめちゃくちゃ強いからね。実力ならSランク以上だよ」

「ははは! そんなわけないだろう、大人をからかうもんじゃないよ」

「む、失礼だなぁ! ボクはもう大人だよ! これでもAランクなんだから!」


 そういうと、クルタさんはすかさず懐からギルドカードを取り出して見せた。

 ちょっとばかり大人げない気もするが、それだけ癪に触ったということなのだろう。

 それを手にしたラーナさんは、クルタさんが本当にAランクだと確認して驚く。


「へえ……本当じゃないか!」

「ふふん、ボクは嘘つかないからね!」

「となると……俄然興味が出てきたねえ」


 不意に色っぽい表情をして、俺に身を寄せてくるラーナさん。

 先ほどまでの豪放磊落とした様子はどこへやら。

 細い腰を捻り胸元を強調したその姿は、何だか妙に艶めかしい。

 

「ジーク君だっけ? この冴えないオッサンは捨てて、アタシを仲間にしないかい? これでも迷宮探索は慣れてるからね、きっと力になれると思うよ」

「おいおい、人の仲間を誘惑すんなよ! ったく、お前は昔っから変わってねーな」

「アタシの色気にコロッとやられたアンタがよく言うよ」

「へえ……色気にコロッと」


 女性陣の目つきが、にわかに冷たくなった。

 特にニノさんは、またかとばかりに呆れ顔をする。

 その寒々しい視線にロウガさんはすぐさま笑って誤魔化そうとするが、それでうまく行くほど甘くはない。


「まったく、ロウガはいつもこうなんですから。学習能力という物がないんですか?」

「余計なお世話だ! 男ってのはな、女に騙されただけ成長するんだよ」

「カッコいいこと言ってますけど、騙されたのに成長してないじゃないですか」

「そ、それはだな……。とにかく昔のことだ、ほじくり返すんじゃない!」


 声を大にして、無理やりに話題を打ち切ったロウガさん。

 彼はフンッとラーナさんから視線をそらせると、そのまま黙ってしまう。


「完全に拗ねましたね。いい年した大人が、みっともない」

「……それより、ラーナ殿はロウガと二人でいったい何を狙ったんだ? 口ぶりからすると、噂になっている十三番とも関係があるようだが」

「十三番とは直接関係はないよ。ただ、動乱期の迷宮には――」

「奴が出るんだよ」


 おもむろに、ロウガさんが口を開いた。

 奴とは、いったい何なのだろうか?

 ロウガさんの重々しい口調に、にわかに緊張感が高まる。

 そして――。


「緋眼の牡牛ってモンスターを、知ってるか?」

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