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第二話 冒険者と探索者

「こんにちは! フィオーレ商会へようこそ!」


 ヴェルヘンの市街地の中心部。

 フィオーレ商会の支部である三階建ての建物に入ると、さっそく受付嬢さんが声をかけてきた。

 この街では、商会がギルドの代わりを果たしているとは聞いていたけれど……。

 まさしくその通りで、建物の中はギルドそっくりな雰囲気だ。

 受付があって酒場があって、集う人々の様子もよく似ている。

 強いて違いを言うならば、壁の掲示板が小さいことぐらいだろうか。

 恐らくは、ラージャと比較すると依頼が少ないことからこうなっているのだろう。


「えっと、ここへ来るのは初めてなんですけど……ギルドとだいたい同じですか?」

「もしかして、他の街から来た冒険者さんですか?」

「ええ。俺たち全員、ラージャの街から来ました」

「なるほど。そういうことでしたら、ギルドとほぼ同じ利用方法で問題ないと思います。ここヴェルヘンでは、我がフィオーレ商会がギルドの業務のほとんどを委託されておりますので」


 自信ありげに語る受付嬢さん。

 フィオーレ商会の象徴である花束を模したエンブレムが、誇らしげに輝いて見えた。

 では逆に、ギルドと違う点は一体どこなのであろうか?

 すかさずクルタさんが尋ねると、受付嬢さんはすぐに街の地図のようなものを取り出す。


「これはこの街の地図なのですが、ダンジョンの場所がそれぞれ赤いバツ印と青いバツ印で示してあります。うち、青いものが商会の管理する迷宮で赤いものが冒険者ギルドもしくは領主様の管理するものです」

「すごいな、大半が青いじゃないか」

「はい。ここ三年ほどの間に権利の買収を進めまして、現在は十三か所存在するうちの八か所が商会の管理となっています」

「さすがアエリアだな。伊達に年がら年中働いているわけではないか」


 うんうんと満足げに頷くライザ姉さん。

 思い返してみれば、アエリア姉さんはいつも忙しそうにしてたからなぁ。

 義父さんの跡を継いで会頭となってからというもの、まとまった休みを取っていた記憶がない。

 その猛烈な働きぶりの成果が、ここに現れているといったところだろうか。

 一方、ライザ姉さんの方は割といつも暇そう……。


「む、何だその顔は? いま私に対して、失礼なこと考えなかったか?」

「あはは……」

「まったく。怯えなくなったのはいいが、最近のジークは私を舐めていないか?」

「そ、そんなことないよ!」

「あの、先ほど『アエリア』とおっしゃられましたが……。会頭とお知り合いなのですか?」


 そう言って、軽く首を傾げた受付嬢さん。

 しまった、姉さんも迂闊なことを言ってしまったな。

 俺がそっと目を向けると、彼女はどことなく挙動不審な様子で言う。


「いや、そんなに深い関係ではない! 以前にその……仕事の関係で少しな!」

「そう……ですか」

「それより、お勧めの迷宮とかはないか? 俺たち、潜るのは久しぶりでな」 


 ロウガさんがそれとなく助け舟を出してくれた。

 大人なだけあって、なかなか手慣れた対応である。

 それを聞いた受付嬢さんは、気を取り直したように街の端にある迷宮を指さす。


「でしたら、この三番迷宮はいかがでしょうか。この街にある迷宮の中では、最も攻略しやすい初心者向けの迷宮です」

「へえ……。ちなみに、推奨ランクはどのくらいなの?」

「Dランクですね」

「む、それはちょっと低すぎるかもですね。私たち、全員がBランク以上ですから」

「え? 俺は……」

「実質Bランク以上ってことだから!」


 話がややこしくなる、とばかりに告げるクルタさん。

 その口調の強さに、俺は思わず言葉を引っ込めてしまった。

 実質Bランク……。

 戦闘力だけで見れば、そういうことになるのだろうか。


「なるほど。でしたら、七番迷宮あたりが……」

「ちょっと待ちな!」


 後ろから不意に大きな声が聞こえてきた。

 振り向けば、小麦色の肌をした大柄な女性がこちらを見ている。

 年の頃は三十歳前後と言ったところだろうか。

 目鼻立ちのハッキリとした美人で、目力がとにかく強い。

 気風も良さそうで、姐御とか呼びたくなるタイプの人だ。


「初心者に七番なんて勧めてるんじゃないよ。迷宮と外は違うんだ、命が惜しけりゃ三番からにしな!」

「忠告はありがたいが、俺たちは……ん?」


 女性と相対したロウガさんが、にわかに驚いたような顔をした。

 彼につられるようにして、女性の方もまた大きく目を見開く。

 

「もしかしてアンタ、ロウガかい?」

「そういうお前は……ラーナか?」


 互いに名前を呼び合うロウガさんとラーナさん。

 雰囲気からして、二人は古い知り合いか何かだろうか?

 予想外の事態に姉さんやクルタさんと顔を見合わせていると、二人は距離を詰めて……。


「はっ、よく戻ってこれたな! 迷宮なんてもうこりごりだって逃げ出したくせに!」

「ラーナこそ、良く生きてたもんだ! この命知らず女!」

「んだと! へっぴり盾野郎!」

「ああ?」

「やるか?」

「わわ! 喧嘩しないでください!!」


 慌てて二人の肩を掴み、引き離す俺たち。

 最初にやらかすとすれば姉さんだと思っていたけど、これは思わぬ方向で問題が起きたなぁ……!

 ロウガさんを制止しながら、たまらず顔をしかめるのだった。


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