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小太郎の悪戯

 こうしてアシュタロト城で起こっていた諸問題を解決する。


 他にも内政に務め、アシュタロト城の発展に尽力していると、ある日、俺の執務室の扉を叩く音が聞こえる。


 このドアの叩き方はイヴではない。


 しかし、この執務室へはイヴ以外の人間が許可なく立ち入れないようになっている。


 俺は机の側に置いてあるロングソードに目をやりながら、入室の許可をする。

 部屋に入ってきたのは、意外な人物であった。

 意外というか、見も知らない人物というか。

 褐色の肌に下着と見間違うばかりの衣装。


 踊り子のような格好をした女は部屋に入るなり、

「ここはアシトという人の部屋ですか?」

 と尋ねてきた。


「ああ、そうだよ」


 と言うと、彼女は良かった、と言う。


「なにが良かったんだい?」


「もしもこれからお相手する相手が、怖そうな魔族の人だったらどうしようかと想って」


「俺は魔族だけど」


「え? そうなんですか? でも、人間みたい」


「よく言われる」


 黒いシャツと外套をしていなければ魔王ぽさがない、とよく土方歳三にからかわれる。


 そんなことを思い出したが、さて、このお嬢さん、なにをしにやってきたのだろうか。


「はい、実はその土方様に頼まれてやってきました」


「歳三に?」


「はい。魔王様は溜まっているだろうから、それを解き放って差し上げろ、とお金を渡されてやってきました」


「…………」


 歳三め。日頃から魔王ならば女遊びのひとつもしろ、が彼の口癖であるが、このような手段に出てくるとは。


 しかし、それにしても美しい娘だ。

 均整の取れた肢体。

 出るとこは出ているし、くびれているところはくびれている。

 褐色の肌も美しく、まるで黒い水晶を溶かして作った人形のようであった。


 俺がもしも謀略の王でなければ、このまま寝室へ連れて行き、そこで寝首をかかれていることだろう。

  

 いや、クナイを首に押しつけられるかな。


 この『男』も俺を試しているだけで、まさか命まで奪おうとはしまい。

 そう思った俺は彼の名を呼ぶ。


「風魔の小太郎よ。毎回、俺を試すのはいいが、こういう色仕掛けはやめてくれないか。イヴかジャンヌに目撃されたらかなわない」


 その言葉を聞いた褐色の女は「ふふふ……」と笑う。


「さすがは魔王。我の正体は見破ったか」


「一応、警備は厳重にしてあってね。易々と突破できるのはお前くらいしかない。消去法だよ」


「高く買ってもらっているようだ」


「ああ、等質量の黄金よりも価値のある英雄だと思っている」


「もったいない言葉だ。しかし、おぬしが女を寄せ付けないのは前から不思議に思っていた。イヴやジャンヌという女ふたりだけで満足しているのか?」


「人をハーレム願望のある王だとは思わないように」


「魔王とは権力を端的に示すため、美女を集めると聞いているが」


「そんな金があるなら戦力を拡張するよ」


「なるほど。まあ、我ならばどのような女にも化けられる。悶々とした夜があったらいつでも呼び出すがよい」


「お前は男だろう?」


「股間をまさぐって確認したのか?」


 と言われてしまえば沈黙するしかない。


 たしかめるには本当に触るしかないだろうが、イヴやジャンヌに見られたら面倒なので、本題に入る。


「風魔の小太郎が悪戯好きなのは分かったが、意味もなくやってくるとは思えない。なにか収穫があったか」


「さすがは我が主だな。その通りだ。魔王ザガムの詳細が掴めた」


「それは有り難い、話してくれるか」


「ベッドの上でなら」


 と褐色の美女は妖艶に微笑むが、そのとき、イヴが紅茶を持ってやってきたので、なんとかなった。


 彼女は見慣れぬ美女が侵入していることに驚いた。懐から短剣を取り出そうとするが、俺が小太郎である、と伝えると短剣をしまう。


 敵意はしまわないが。


 どうやらイヴは小太郎の正体が女だと思っているらしく、俺を誘惑する不届きものだと認識しているらしい。


 女にさえ女だと思われてしまうほどの化け具合なのが小太郎であった。


 ちなみに土方歳三はどちらもいけるらしく、いつかお相手してほしい、と冗談めかしていっていた。


 さて、話はずれたが、小太郎から情報を聞き出す。


「魔王ザガムはここから南にある地方に居を構える魔王のひとりだ。先日倒したデカラビアの領地に接している。その勢力はデカラビアとほぼ互角である」


「ならばデカラビア領を吸収した今、俺のほうが上か?」


「おそらくは。ただし、アシュタロト軍は、最近、勃興し始めた新参勢力。まだまだ地盤は緩い。互角の勢力と勘定するのがいいだろう」


「だろうな。慢心は破滅への一本道だ」


「魔王ザガムだが、普段は人間であるが、その真の姿は雄牛にグリフォンの翼を持った異形である」


「そいつも非人間タイプか」


「普段は人間だ。追い詰めれば真の姿をさらすだろう」


「ならば追い詰めて、解体してやるかな。牛ならば旨いだろう」


「ジャンヌ辺りが喜びそうだ」


 小太郎は冗談を冗談で返す。


 俺は儀礼上軽く笑うと、

「それでデカラビアがザガムに送ったという形見の情報を掴めたのか」

 と核心を突いた。


 小太郎はゆっくりと首を縦に振るう。


「この情報は必須である。これがなければ魔王アシト殿は負ける、と孔明は心配し、城中の資料をすべて目を通し、城から紛失したものを探した。そして孔明殿はたったの三日でそれを見つけた」


 さすがは孔明というべきか。

 速読の技能を十全に活かしている。

 いや、それだけではたったの三日で探し当てるのは難しいだろう。

 それくらいデカラビアの残した置き土産に危険性を感じていたのかもしれない。


 かくいう俺も同じであった。

 ザガムの異形は恐れない。

 ザガムの戦力も怖くはない。その知謀や武勇も敬意は持つが、過大評価はしない。

 俺が恐れているのはすでに死んだ魔王デカラビアの執念だった。

 あの男は今まで出会った魔王の中でも一番しつこく、面倒な相手だった。

 そんな男が残した置き土産だ、きっと尋常ならざるものであろう。

 俺はそう予想したが、その予想は寸分違わず的中することになる。


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