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長槍部隊

 こうして諸葛孔明という軍師が俺の配下になってくれた。


 庵で会った彼は髪はボサボサ、衣服は皺だらけで、およそ几帳面さとは無縁であったが、城に出仕してきたときの彼は、髪を整え、皺ひとつない衣服を着ていた。


 主の前に出るのに不格好はできない、と言い張る。


 妓楼から着の身着のままで城にやってくることもある土方歳三とは正反対のタイプであった。


 その真面目さはデカラビア城の太守に相応しいだろう。

 そう思った俺は、居並ぶ武官と文官を集め、彼を城主に任命した。

 魔族、人間、亜人、すべてから非難の声が上がる。


「彼は異世界からやってきた英雄のようですが、それにしてもやってきてそうそう城を任せるとはやりすぎなのではないですか」


 とある魔族の控えめな意見だが、皆の総意でもあった。

 彼らに説明をする。


「この男は異世界で最高の軍師、能吏と呼ばれていた男だ。ただ、皆が言っていることも分かる。それではこうしよう。二週間様子を見る。その間、彼を城主代理とするから、働きぶりを見てくれ」


 主である俺がそこまで言えば、彼らも納得せざるえない。


 結局、その案が採用され、孔明が城主代理を務めることになるのだが、その間、孔明はまったく働かなかった。


 10日、なにもせず城の書庫に籠もって本を読んでいる有様だった。

 それを見かねた城の文官たちが、結託して俺に讒訴状(ざんそじょう)を突きつけてきた。


 彼らの言い分は働かない孔明は城主に相応しくない、というものであったが、その言い分は間違っていない。


 ただ、俺はあと4日ある、と言い切った。


「約束の時間まであと4日ある。それまではこの讒訴は受け付けない」


 そう言い切ると、讒訴状を突き返した。

 文官たちは眉根を潜めた。

 俺に聞こえないように陰口を叩くものもいたが、いや、正直に訴えるものもいた。


「この城はイヴ様により滞りなく運営されておりました。それが孔明殿がきて10日で城の行政が止まってしまった。あと、4日でどうかできるとは思いません」


 そう言い切る文官たちだったが、それは大きな間違いであった。

 孔明は4日でどうにかしてしまったのである。


 俺のもとに讒訴状が届いたことを知った孔明は、「そろそろ仕事を始めますか」と執務室に入ると、たったの三日で山のように詰まれた書類を処理した。


 それも正確に、臨機応変に、何人(なんびと)の目からも公正に。

 たとえば市民から子の親権を争う訴状が届いていた。


 孔明は子の親権を争う男女を呼び出すと、目の前で子供の手を引き合いさせた。

 勝ったほうに子供をやる、と言ったのだが、孔明は負けたほうに親権を与えた。

 綱引きの綱にされ、苦痛を覚えた子供を見て、不憫に思ったほうに子を与えたのだ。



 他にも水の利権などの処理も公明正大に行った。


 水路を作ったとき、それぞれの村から出した人足の数、請け負った水路の区間の距離、水路を作るのに掛かった費用を算出すると、銅貨一枚単位で数値化し、それを村人たちに見せ、水の分量を納得させた。



 その手際を見ていてイヴは、

「……すごい」

 と、つぶやく。


 俺は得意げに、

「これが孔明の真の実力だ。彼がこの街にいる限り、この街は永遠に発展していくだろう」

 と断言する。



 こうして孔明はデカラビア城の城主として、部下からも市民からも認められることになった。


 ようやく、俺の負担が軽減されることになったのだ。


 気をよくした俺はもうひとり英雄を探し出して、エリゴス城も任せたい、と漏らすが、それはさすがに高望みしすぎであった。


 イヴは言う。


「天下の英雄はそうそういるものではありません。地道に人材を増やし、拡張していくしかないかと」


「それもそうか」


 と俺は納得すると、さっそく、地道に拡張することにした。

 デカラビアの城はこの前の戦いで大分、壊されていた。

 城門は無事であるが、城のほうはズタズタだった。

 このままではもしも敵に侵入を許せば、デカラビア城は一夜にして落ちるだろう。

 城を修繕し、外壁も補強したいところであった。

 それには建築資材が必要である。

 それらはデカラビアの城に残されていたわずかな金銀を使う。

 それに街に滞在している商人から金を借りた。

 孔明の有能さを知悉している彼らは喜んで金を貸してくれた。

 残った素材は軍団の拡張に使う。


 そう決めたが、さて、どのような魔物を呼び出すか、悩んでいると孔明が助言をしてくれる。


「魔王様、ここは長槍部隊を編成すべきかと」


「長槍部隊か? どうしてだ?」


「隣国の魔王ザガムは精強な騎馬軍団を持っていることで知られています。その対抗策は必要かと」


「なるほどな」


「デカラビアは言っていました。隣国ザガムに俺の形見を送った、と、どのような形見を送ったかは今、調査中ですが、悪い予感がします」


「それは俺も気になっていた。そうだな。たしかに長槍部隊は必要だろう」


 俺は豊臣秀吉の故事を思い出す。


 彼は主、信長から、「槍試合」を命じられたとき、相手よりも長い長槍を用意した。


 訓練のされていない農兵には、短くて力強い槍よりも長槍のほうが強いことを知っていたのだ。


 俺もその故事にならい、長槍を用意しようと思うが、かの秀吉が用意した槍よりも長いものを用意する。


 その長さ5メートル。


 それを聞いたイヴは、

「そのように長い槍、人間にはもてません」

 と注意してくるが、俺は人間に持たせるとは一言も言っていない。


「魔物に持たせるのですね。それも大型の」


「さすがは孔明だ」


 天才軍師は俺の意図を完全に理解してくれたようだ。

 俺はデカラビア城で得た素材を使うと、大型の魔物を中心に生み出すことにした。

 緑陽石、それにヤクモの巨木をクラインの壺に入れる。

 いつもの演出が始まると、中から出てきたのは、

 見上げんばかりの大型の魔物であった。



【レアリティ】 ゴールド・レア ☆☆☆

【種族】 トロール

【職業】 戦士

【戦闘力】 560

【スキル】 怪力



 トロールと呼ばれる半巨人。

 彼らならば長い槍も使いこなすだろう。


 さっそく、アシュタロト城にいるドワーフのゴッドリーブに長槍を作るように命じる。


 トロールは30体ほど呼び出したから、最低でも30とオーダーしたが、そのような長槍を30も作る日がこようとは夢にも思っていなかったそうだ。


 念話の魔法で「申し訳ない」と謝ると、彼は笑った。


「怒ってはいない。その逆だ。ドワーフの鍛冶屋は技術的に困難なことを要求されると燃える性質なのだ」


 さすがは生まれついての技術屋である。


 さて、部隊の召喚が終れば、あとはこの城は孔明に任せてなんの問題もないだろう。


 数週間後に届くはずの特製の長槍で、対騎馬部隊を編成し、最強の部隊に育て上げてくれるはずであった。


 彼はもう戦争はしない、と言っていたが、戦場に立てないだけで、訓練や部隊編成、それに戦略眼に関しては史上最高クラス。


 これから頼りになる英雄になるのは間違いなかった。

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