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謀略の王の悪巧み

 こうして勇者ユーリの『処理』を終えた俺、日本の伝説的な忍者風魔小太郎も手に入れ、より諜報能力と謀略能力が増した。


 こうなってくると周囲に攻め込みたくなるのが人のサガだった。

 いや、魔王の宿命か。

 戦争はあまり好きではないが、いつかしなければならないこと。


 それにユーリのような少年が平和に暮らして行くにはこの世界を統一し、世界をひとつにまとめあげたほうがいい。


 もしもそれに相応しい王がいれば、その覇業を手伝うのもひとつの手だが、残念ながら人間にそんな聖王はいなかったし、魔王の中にもこれといった人材はいなかった。


「やはりここは御主人様が立って、この世界をリードしてくださいまし」


 とメイドであるイヴは言う。


「それしかなさそうだな」


 と返すと、俺はハンゾウを呼び出す。


 ハンゾウを呼び出したのは、風魔小太郎は気分屋で、この城に常駐していないからだ。


 常に動き回り、情報を集めているともいえる。


 一応、彼が諜報部隊を取り仕切り、ハンゾウがその副官を務めているのだが、どちらが指揮官ぽいかといえば、真面目な分、ハンゾウのほうが指揮官らしかった。


 ただ、それでもハンゾウは、一瞬で風魔小太郎の実力を見抜き、彼の指揮下に入ることを厭がらなかった。


「風魔小太郎様とともに、魔王軍の謀略の要となって見せます」


 と言い切る。


 そしてさっそく謀略のヒントとなる情報を持ってきてくれた。


「魔王様、恐れ入ります」


「挨拶など無用だ。なにかいい情報を手に入れたのだな?」


 ハンゾウに尋ね返すと、彼は「御意」と言った。


「周辺の魔王すべての戦力が分かりました」


「それは有り難い。して、周辺の魔王で一番弱いのはどこだ?」


「それは南方にある魔王デカラビアです」


「ああ、この前、ダンジョン捜索のときに領地の境目を通ったな」


「御意。あの魔王がこの周辺で一番弱いかと。実力はFランクです。先日戦ったエリゴスよりも弱いです」


「ならばなんとかなりそうかな」


「ですが、我がアシュタロト軍も強勢ではありません。実力はほぼ互角」


「そうか。まあ、俺はまだ生まれたばかりだからな。街も小さく、軍団も非力だ」


「ですが、御主人様は謀神でございます」


 とは横から口を挟んできたイヴの言葉である。


「はかりごとが多ければ勝ち、少なければ負ける。互角の戦力ならば御主人様が負けるわけがありません」


「できればそうあって欲しいが、兵法の常道を行くのならば、自分よりも格下と戦いたいんだよな」


「ですがそのような勢力はありません」


 ハンゾウは言い切る。


「ならば謀略によって相手を俺たち以下にするしかないな」


「御意。しかし、そのような方法があるのでしょうか」


「ある」


 と、言い切る俺。


 報告書に寄れば、敵対する予定の魔王デカラビアはこの辺でも有数の経済都市らしい。


 街道がいくつも交わる地点に魔王城を立てており、その立地によって自然と税収が高いようだ。


「ならば敵を弱めるにはその税収を絶てばいい」


「そんなことが可能なのですか?」


「可能だ。ただし、ドワーフの族長ゴッドリーブ殿の協力がいる。呼んできてくれまいか?」


「御意」


 と深々と頭を下げ、イヴが命令を実行すると、数分後、ゴッドリーブがやってきた。


 彼は幽体なので、城下町には住まず、この城に常駐している。

 城の一角を工房に改築し、そこで新兵器を作ったり、実験したりしていた。


 彼の科学的な知識、それと俺の魔力が合わされば面白いものを作れるはずであった。


 

 ゴッドリーブが足音もなくやってくると、彼はにやりと笑った。


「魔王殿、なにか面白いことをしようとしているな」


「ああ、退屈はさせないよ。ところでゴッドリーブ殿は偽金を作れるか?」


「偽の金貨のことか?」


「平たく言えば」


「作れないこともないが、すぐにばれる粗悪品か、あるいは実際の金貨を作るよりもコストが掛かるぞ」


「どうしてだ?」


「通常、金貨の真贋をするには、重さを計るのだ。オリジナルの金貨を用意し、それと同じ重さならば本物。ということになる」


「なるほど」


「無論、金より重い金属はあるが、それは金より高い。つまり金よりコストが掛かる、ということじゃ」


「ならば数週間だけでも重さが同じならば欺ける、ということだな」


「そのような強大な魔力を発揮できれば、の話じゃがな」


「できるよ。ここに魔王の素材がある」


 と以前戦ったエリゴスの右目を取り出す。


 瓶に入り、液体に漬けられていた。


「これを素材にし、数週間だけでも金と同じ重さの金属を作り出せばいいというわけだ」


「それに金メッキを施すというわけか」


 ふむ、とゴッドリーブは自分のあごひげに手を添えると、ならば可能かもしれない、と言った。


 最高の技術者が可能だというのならば、あとはその便利な金属を作り出すだけだ。

 クラインの壺の間に行くと、そこにエリゴスの右目を入れる。


 途中、イヴが、

「この素材で金目のものを生み出したほうがお得なのではないでしょうか?」

 と守銭奴らしいことを言う。


「たしかに金銀財宝を召喚できるかもしれないが、はした金には興味はない。10000枚の金貨よりも魔王デカラビアの交易都市がほしい」


 金貨は一度使えばなくなるが、交易都市は永遠に富を生み出し続けるのだ。

 どちらが貴重であるか、考えるまでもなかった。


 その考えを披瀝すると、イヴは頭を下げ、

「さすがは御主人様です」

 と賞賛した。


「褒めるのは成功してからでいいかな」


「絶対に成功するので前渡しにしました」


 と微笑むイヴ。


「なんでもかんでも成功するわけじゃないぞ」


「ですが、御主人様は今まで一度も失敗したことがありません」


「なるほど、だが、実績だけじゃ次の作戦が成功する担保にはなり得ない。最後まで気を抜かないようにするよ」


 と、俺は魔王エリゴスの素材をクラインの壺に入れ、魔力を込める。

 今回、欲しいものは魔物ではなく、素材。

 それも完璧に用途が決まっているので、出すことは簡単であった。


 しかもその金属は永遠に存在する必要はなく、ほんのわずか、数週間だけ形をたもっていればいいのである。


 だからだろうか、金と寸分違わない重さの金属という無茶なオーダーも容易に再現してくれた。


 うずたかく積まれる灰褐色の金属。

 これからそれらを溶解し、型に流し込み、金メッキを塗る。

 さすれば偽金のできあがりである。


 溶解する作業、型に流し込みコインを作る作業、金メッキを塗る作業は、職人であるドワーフに一任すればなんの問題もないだろう。


 事実、ゴッドリーブはたったの三日でその作業をこなした。


 イヴ風に言うならば、

「さすがはドワーフ様」

 であった

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