冒険者パーティーの危機
お茶会をしながら、少年に話を聞く。
「ユーリはまだ年若いがいくつだ?」
「13歳です」
「若いな」
「でも、もうじき14になります」
ユーリの体躯は通常の13歳の少年よりも小柄で、童顔、見ようによっては12歳くらいに見えた。
「それにしてもそんなに若いのに冒険者とは、どうしてだ?」
「それは両親を早くに亡くしまして。伯母の家にお世話になっていたのですが、伯母の家も決して裕福ではなくて」
「それで手っ取り早く稼げる冒険者になったのか」
「そうですね」
と言い切るユーリに悲壮感はあまり感じられなかった。
「僕は立派な冒険者になって、早く独り立ちしたいんです。自分だけでなく、家族も守れるような強い男になりたいんです」
「立派な心がけだ。それは近いうちに達成されるだろう」
「ほんとですか?」
目を輝かせる少年。
「ほんとだとも君の強さは底がない」
「あなたのような強そうな魔術師にそう言って頂けると嬉しいです!」
少年ははしゃぐが、ジャンヌが茶々を入れる。
「でも、私のほうが強いけどね」
と、服の袖をめくり、腕を見せる。
少年とどっこいどっこいの細さであった。
「まあ、ジャンヌのような英雄は別格として、ユーリは立派な冒険者になるだろう。もしも一廉の戦士となったら、魔王アシュタロトを尋ねなさい」
「魔王……ですか?」
少年は少し表情を曇らせる。
「たしかに魔王を嫌う人間は多いが、アシュタロト城の城下には様々な種族がいる。アシュタロト城には奴隷はひとりもいない」
「奴隷がいない!? 本当ですか?」
「本当だとも」
「信じられない。そんな慈悲深い王がいるんなんて……」
「まあ、くれば分かる。暮らしやすいはず。そこで兵士に志願するもよし、商売を始めるも良し、冒険者を続けてもいい。近く、人間の街にあるような冒険者ギルドも作る予定だ」
「すごい、まるで人間の王様のようだ」
前世は人間だからな、とは言えないが、ともかく、オススメしておく。
少年は「分かりました」と素直に微笑むが、「ただ」とも言った。
「僕はもう少し、このダンジョンを極め、修行をしたいんです。アシトさんのところに行くのは、もうちょっと強くなってからにします。それに今、参加しているパーティーとの契約もありますし」
「律儀な少年だね。あんな糞パーティーに義理立てするなんて」
ジャンヌはお茶をずずーっと飲みながら、正論を述べる。
少年も同意するかと思ったが、苦笑いを浮かべながら、彼らをかばう。
「ああ見えて良いところもあるんですよ」
「たとえば?」
ジャンヌは尋ねる。
「……ええと、ちゃんとお給料をくれるところとか」
「なにかの名目で引かれてない?」
「え? どうして分かるんですか?」
「なんかそんな気がした」
どうやらパーティーのリーダーはなにかにつけて、少年の給料を天引きするようで、
とろいから、
魚を釣れなかったから、
鉱石を一個落としたから、
と給料を満額もらったことがないらしい。
遅延がないだけましと少年は思っていたそうだが、これは職場環境が悪すぎる。
少年の上司に一言言ってやろうと思ったが、少年はそれを制止する。
「だ、大丈夫ですよ。これは僕の問題ですから」
と必死に雇い主をかばうが、そこがけなげであった。
まあ、少年がそういうのならば仕方ない。
そう思って茶を口にした瞬間、遠くから爆音が聞こえる。
いや、遠くというより地下、真下からだ。
なにがあったのだろう。
周囲のものは互いに顔を見合わせるが、俺はピンときていた。
ユーリのパーティーを尾行させていた使い魔からの映像を映し出す。
そこには一足先に第五階層への近道を見つけた一行がいた。
彼らは第五階層に到着し、そこでその階層の守護魔獣と遭遇してしまったようだ。
第五階層、浅瀬のエリアの守護魔獣は、川馬と呼ばれる生物だった。
ケルピーである。
川に住むという半魚半馬の生物。
強力な魔獣であるが、本来ならばそこまで強くないはずである。
しかし、このダンジョンのケルピーはひと味違った。
まず大きさが違う。
ケルピーとは本来、馬程度の大きさなのだが、こいつはカバくらいの大きさをしていた。
それだけでなく、魔力も強力なようで、《水球》の魔法をいくつも同時に放っている。
ユーリの上司たちは、その水の玉でいいように弄ばれていた。
その映像を見たユーリは、雇い主の名を叫ぶ。
「ジェイスさん!」
と。
そしてすぐに荷物を背負うと、彼らを助けようと走り出した。
途中、一度だけこちらを見て、頭を下げるのがユーリらしかった。
ユーリは脱兎のような速度で走り出すと、数百メートル先にある第五階層への近道に向かった。
あの速度ならば数分後には、仲間と合流できるだろう。
しかし合流したところでユーリのパーティーがケルピーに勝てる未来図は見えない。
パーティーもろとも、ユーリはやられてしまうかも。
そう思った俺は、イヴとジャンヌ、それにハンゾウを見る。
彼女たちはすぐにうなずき、歩調を合わせてくれた。
俺たちも地下第五階層に向かい、彼らを救うことにした。




