表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/192

冒険者パーティーの危機

お茶会をしながら、少年に話を聞く。


「ユーリはまだ年若いがいくつだ?」


「13歳です」


「若いな」


「でも、もうじき14になります」


 ユーリの体躯は通常の13歳の少年よりも小柄で、童顔、見ようによっては12歳くらいに見えた。


「それにしてもそんなに若いのに冒険者とは、どうしてだ?」


「それは両親を早くに亡くしまして。伯母の家にお世話になっていたのですが、伯母の家も決して裕福ではなくて」


「それで手っ取り早く稼げる冒険者になったのか」


「そうですね」


 と言い切るユーリに悲壮感はあまり感じられなかった。


「僕は立派な冒険者になって、早く独り立ちしたいんです。自分だけでなく、家族も守れるような強い男になりたいんです」


「立派な心がけだ。それは近いうちに達成されるだろう」


「ほんとですか?」


 目を輝かせる少年。


「ほんとだとも君の強さは底がない」


「あなたのような強そうな魔術師にそう言って頂けると嬉しいです!」


 少年ははしゃぐが、ジャンヌが茶々を入れる。


「でも、私のほうが強いけどね」


 と、服の袖をめくり、腕を見せる。

 少年とどっこいどっこいの細さであった。


「まあ、ジャンヌのような英雄は別格として、ユーリは立派な冒険者になるだろう。もしも一廉の戦士となったら、魔王アシュタロトを尋ねなさい」


「魔王……ですか?」


 少年は少し表情を曇らせる。


「たしかに魔王を嫌う人間は多いが、アシュタロト城の城下には様々な種族がいる。アシュタロト城には奴隷はひとりもいない」


「奴隷がいない!? 本当ですか?」


「本当だとも」


「信じられない。そんな慈悲深い王がいるんなんて……」


「まあ、くれば分かる。暮らしやすいはず。そこで兵士に志願するもよし、商売を始めるも良し、冒険者を続けてもいい。近く、人間の街にあるような冒険者ギルドも作る予定だ」


「すごい、まるで人間の王様のようだ」


 前世は人間だからな、とは言えないが、ともかく、オススメしておく。

 少年は「分かりました」と素直に微笑むが、「ただ」とも言った。


「僕はもう少し、このダンジョンを極め、修行をしたいんです。アシトさんのところに行くのは、もうちょっと強くなってからにします。それに今、参加しているパーティーとの契約もありますし」


「律儀な少年だね。あんな糞パーティーに義理立てするなんて」


 ジャンヌはお茶をずずーっと飲みながら、正論を述べる。 

 少年も同意するかと思ったが、苦笑いを浮かべながら、彼らをかばう。


「ああ見えて良いところもあるんですよ」


「たとえば?」


 ジャンヌは尋ねる。


「……ええと、ちゃんとお給料をくれるところとか」


「なにかの名目で引かれてない?」


「え? どうして分かるんですか?」


「なんかそんな気がした」


 どうやらパーティーのリーダーはなにかにつけて、少年の給料を天引きするようで、


 とろいから、

 魚を釣れなかったから、

 鉱石を一個落としたから、

 と給料を満額もらったことがないらしい。


 遅延がないだけましと少年は思っていたそうだが、これは職場環境が悪すぎる。

 少年の上司に一言言ってやろうと思ったが、少年はそれを制止する。


「だ、大丈夫ですよ。これは僕の問題ですから」


 と必死に雇い主をかばうが、そこがけなげであった。

 まあ、少年がそういうのならば仕方ない。


 そう思って茶を口にした瞬間、遠くから爆音が聞こえる。

 いや、遠くというより地下、真下からだ。

 なにがあったのだろう。

 周囲のものは互いに顔を見合わせるが、俺はピンときていた。


 ユーリのパーティーを尾行させていた使い魔からの映像を映し出す。

 そこには一足先に第五階層への近道を見つけた一行がいた。

 彼らは第五階層に到着し、そこでその階層の守護魔獣と遭遇してしまったようだ。

 第五階層、浅瀬のエリアの守護魔獣は、川馬と呼ばれる生物だった。

 ケルピーである。

 川に住むという半魚半馬の生物。

 強力な魔獣であるが、本来ならばそこまで強くないはずである。

 しかし、このダンジョンのケルピーはひと味違った。

 まず大きさが違う。


 ケルピーとは本来、馬程度の大きさなのだが、こいつはカバくらいの大きさをしていた。


 それだけでなく、魔力も強力なようで、《水球》の魔法をいくつも同時に放っている。


 ユーリの上司たちは、その水の玉でいいように弄ばれていた。

 その映像を見たユーリは、雇い主の名を叫ぶ。


「ジェイスさん!」

 と。


 そしてすぐに荷物を背負うと、彼らを助けようと走り出した。

 途中、一度だけこちらを見て、頭を下げるのがユーリらしかった。


 ユーリは脱兎のような速度で走り出すと、数百メートル先にある第五階層への近道に向かった。


 あの速度ならば数分後には、仲間と合流できるだろう。


 しかし合流したところでユーリのパーティーがケルピーに勝てる未来図は見えない。


 パーティーもろとも、ユーリはやられてしまうかも。

 そう思った俺は、イヴとジャンヌ、それにハンゾウを見る。

 彼女たちはすぐにうなずき、歩調を合わせてくれた。

 俺たちも地下第五階層に向かい、彼らを救うことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ボンクラ宮廷魔術師、禁断の書庫で【日本語】で書かれた魔術書を見つけてしまう。~あれ? そういえば俺の前世は日本人だからもしかしてこれで最強になれるんじゃね?~」という作品をカクヨムに投稿しました。
面白いので是非、こちらも読んでくださると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/822139841226123971

↑↑↑上記URLをクリックすると読むことができます。

もしもカクヨムでアカウントをお持ちの際はフォローしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ