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少年の秘められた力

 第二階層に潜ると、そこで再び先ほどのパーティーを目撃する。

 彼らは巨大な赤ガエルと戦闘をしていた。


 リーダーと思わしき男が剣を振るうと、魔法使いと思わしき女が《雷撃》の魔法をかけ、僧侶と思わしき男が仲間に加護を与えている。


 少年は例の如く、荷物持ちをさせられていた。


「ユーリ! 斧を持ってこい!」


 リーダーにそう言われると最速の動きで斧を持ってくる。


「ユーリ、油だ! 油をかけて燃やすぞ!」


 ユーリは油を取り出し、それを掛ける。

 なかなかにすばしっこいというか、はしこい動きでだった。


 それは仲間も認めるようで、

「最高のぱしりだな、ユーリは」

 とゲラゲラと笑っていた。


 それを見てイヴは、

「下品な笑いですが、たしかにあの少年はサポートが上手いようですね」

 と評した。


「慣れているのでしょうか? 従卒としてスカウトするのもいいかもしれません」


 と結ぶ。


 俺は「従卒で収まる器じゃないよ」とイヴに聞こえないように漏らすと、彼らの戦闘を無視し、そのまま地下に潜った。


 彼らを手助けする理由はなかったし、また、手助けする必要もなかった。

 このまま順当にいけば、彼らは難なく第五階層にいけるだろう。


 問題はそこまでどちらが早く行けるか、『漂流物』を守護しているモンスターをどちらが先に倒せるか、であった。


 無駄な戦闘やお節介などに手を焼いている暇はなかった。





 第四階層までたどり着く。


 魔王と英雄、それにコボルトの忍者にとってこのダンジョンはさして困難な道ではなかった。


 これは簡単に第五階層にいけるかな、というとイヴも同意してくれた。


「御主人様のような魔術師にはいささか退屈なダンジョンかもしれませんね」


「そうでもない。面白い少年とも出会えたし」


「先ほどからあの少年を買っておりますが、そんなに有望なのでしょうか」


「底が見えないよ。あの動き、すごかっただろう」


「たしかにすごいですが、常識の範疇では?」


「そうかな。確かめてみるか」


 と俺が言うと、少年に声を掛ける。

 あのパーティーの少年がとぼとぼと歩いていたからだ。

 はぐれてしまったわけではないようだ。

 荷物持ちを押しつけられているために、足取りが遅れているように見える。


 それに薪拾いも命じられているようで、ダンジョンに落ちている薪を拾いながらの行脚だった。


 そんな中、本も読んでいる。


 まるで二宮尊徳の像のような少年だな、と思ったが、二宮尊徳を知ってるのは土方歳三くらいだろう。


 なので代わりにこう言った。


「少年、励んでいるな」


 その言葉を聞いたユーリ少年はこちらを向くと、ぺこりと頭を下げた。

 礼儀正しい少年だ。


「あ、先ほどからよく見かけるパーティーの方々ですね」


「こちらもよく見かける。ところで少年、君はすごいな」


「え? 僕のどこがすごいんですか?」


 きょとん、としている。

 どうやら彼も自分の才能に気が付いていないようだ。

 イヴたちもきょとんとしているので、この際だ、彼の才能の一端を紐解く。

 俺は少年を茶に誘う。

 ここらで一時、休憩を取り、イヴに茶をいれてもらうことにした。


 ユーリ少年は、

「僕なんかがご一緒したら悪いですし、それに仲間ともっと離れてしまいます」

 一度、固辞する。


「大丈夫、君の仲間は500メートルほど先で、昼飯を食べているよ。ここで君が休んでも差は広がらない」


 証拠、とばかりにその光景を魔法で映し出すと、少年はお腹をぎゅる~と鳴らした。


 仲間が食事をしている映像を見て、腹を空かせたようだ。

 イヴはくすくす微笑むと、荷物からクッキーを広げる。

 バターと砂糖の甘い香りが広がり、少年の食欲を刺激する。


 イヴの菓子の魅力に抗しきれなくなった彼は、紅潮を強めながら、

「……ご相伴にあずからせてください」

 と言った。


「素直なのはいいことだ」


 と俺が言うと、忍者のハンゾウに彼の荷物を半分持つように命じる。

 地面に下ろすのを手伝わせた。


 ハンゾウは当然のように命令に従うが、荷物を持った瞬間、

「……うっ」

 と顔を歪め、腰をカクンとさせる。


「な、なんだこの重さは!?」


 と驚いているようだ。


 ジャンヌも気になったようで荷物を持ち上げるが、彼女の場合は、持ち上げることさえできなかった。


「ま、魔王これは?」


「その中にはこのダンジョンで産出される鉱石も入っているようだな」


「たしかにこのダンジョンでは鈍色鉱石がよくとれるってゴッドリーブが言ってたの」


 それにしても、とジャンヌは言う。


「この少年はこの重さの荷物を抱えながら、あんなに動き回ってサポートしていたの? ……化け物?」


 少年は「人間ですよ」と抗弁するが、その華奢な身体のどこにそんな力があるのか、皆が興味を抱いているようだ。


 視線が集まるとさらに気恥ずかしくなったようだ。可哀想なので詮索はここでやめ、お茶会を始める。


 すでにイヴはテーブルを用意し、紅茶を注いでいた。

 かぐわしい香りが広がる。

 ダンジョンの探索で疲れた俺たちはそれを飲みながら、体力を回復させる。


 少年はイヴの用意したクッキーを特に気に入ってくれたようで、「こんなに美味しいものを食べたのは初めてです」と破顔していた。


 なかなかに可愛らしい少年であった。


 俺は彼とお茶を飲みながら彼の話を聞きたかったが、その前にジャンヌが尋ねてくる。


「魔王はすごいの。どうしていつも人の才能を見抜くの?」


 それが王として必要な能力だからさ、と、うそぶくが、一応、観察眼には自信があった。


 階層が進むごとに膨れ上がる少年の大型リュック、そこからは鈍色の鉱石の一部がこぼれ落ちることがあった。


 それになによりも少年は面構えが良かった。

 彼の仲間の顔は一瞬で忘れてしまうが、少年の顔は一目見ただけで覚えられた。

 きっと大物になるだろう。出会った瞬間からそう感じていた。


 それを聞いたイヴは、冗談めかして、

「お稚児(ちご)さんにされますか?」

 と笑った。


 そういう趣味はないし、聖女様とメイド長殿で手一杯だよ、と冗談で返すと、ダンジョンの中に笑いが広がった。

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