冒険者パーティー
俺たち一行がダンジョンに潜ろうとすると、前方に集団を見つける。
また盗賊の類いか。
ハンゾウは忍び刀に手を添えるが、制す。
「悪党ではなさそうだ。もっとも、善人でもなさそうだが」
目の間にいるのは男女混合の冒険者パーティーだった。
五人ほどいるだろうか。
皆、ロングソード、ショートソード、弓、プレートメイル、レザーメイル、チェインメイル、と様々な武装をしている。
俺たちのことを見ても、魔族混合の奇妙なパーティとしか思わなかったようで、無視される。このダンジョンには様々な人物がやってくるようだ。
俺たちも彼らを無視しようと思ったが、思わず彼らの会話が耳に入る。
「さあて、これから地下に潜ってお宝探しだ」
リーダー格の男がそう言うと、残り三人は「おう!」と気合いを込める。
ただ、ひとりだけ。最年少と思われる少年が控えめに言った。
「……あ、あの、リーダー、この洞窟にある『漂流物』が僕たちの目的なんですよね?」
「なんだよ、何度も確認しただろう」
「そうなのですが、その漂流物を得ようと何組ものパーティーが挑んで、皆、死んでいったって聞いたものだから」
「ユーリ、お前はその程度で臆するのかよ。弱虫だな」
ケラケラと笑うリーダー、他の仲間もそれにならう。
「ユーリは弱虫だよな、昔から」
「怖ければ帰ってママのおっぱいでも飲んでいな」
「臆病者は荷物持ちでもしておけ」
と最後はパーティー全員の荷物を押しつけられる。
その光景を見ていて、イヴは、
「どこの世界にも虐めは絶えませんね」
と吐息を漏らす。
ジャンヌもなにか言いたげにしている。仲裁したいようだが、俺はそれを制する。
「トラブルはごめんだ。それにお前たちもあのパーティーのものと変わらないぞ。あの少年を過小評価している」
「過小評価? ですか?」
「そうだ。もちろん、俺たちが漂流物を頂くが、あのパーティーで一番の勇者はあのユーリという少年だよ」
「まさか、あの線の細い少年が?」
「まあ、見ていろ。この先、面白いことが起こると思う」
そう断言すると俺たちはそのまま地下に潜った。
ハンゾウの情報に寄れば、漂流物はこの地下迷宮の第五階層にあるらしい。
そこには膝丈くらいの浅瀬が広がっており、青色に輝く世界が広がっているらしい。
ジャンヌは「素敵なの」と、うっとりつぶやくが、その光景にひたるには第一階層をクリアしなければいけない。
第一階層は比較的手狭であるが、それゆえにモンスターとの遭遇は避けられない。
大蝙蝠、
ホーン・ラビット、
ブルー・スライムなど、
定番のモンスターが現れる。
もちろん、それらは俺らの敵にすらならないが、ジャンヌが疑問を呈する。
「魔王、そういえばこいつらは魔物だから魔王の仲間じゃないの?」
「魔族と魔物は微妙に違う」
良い機会だから説明しておくか。
「魔族とは魔物の中でも強く、知性があるものを指す、あと人型であることも条件かな」
「なるほど」
「魔物とは逆に非人型のものが多い。人型でもオークやゴブリンなど、知性が低いと魔物と呼ばれたりする」
「たしかにオークは馬鹿なの」
この前、足し算を教えたら、神童扱いされたの。
と笑う。
かけ算と割り算ができない聖女様はドヤ顔になるが、その辺は黙っておく。
「魔物の中にも色々いて、ダンジョンや森に住んでいるような、魔王に使役されていないモンスターもいるんだ」
「へえ、野生なんだね」
「そうだな、野生の魔物だ。魔力で服従させることも不可能ではないのだが、まあ、基本、面倒なのでしない」
「どうして?」
「大量の魔力を使うから割に合わないんだよ。それならば素材を集めてクラインの壺で召喚したほうが早い」
「ふうん」
「野生の狼を想像してもらえば分かるかな。野生の狼を飼い慣らすのは大変だけど、犬の子供ならば楽だろう? それと一緒だ」
「魔王が生み出せば、最初から忠誠心があるということ?」
「そういうことだ。もちろん、完璧な忠犬ではないし、時折、噛まれることもあるが、まあ、狼を飼い慣らすよりは楽という話だ」
「なるほど、理解した。魔王は説明が上手いの。天才なの。先生になれる」
「どういたしまして」
と言ったが、先生というのも悪くないと思った。
もしもこの異世界を統一し、隠居してよい状態になったら、身分を隠してどこか小さな村で学校を開くのも悪くないかもしれない。
そこにはイヴのような賢い子、
土方歳三のようなプレイボーイのませガキ、
ジャンヌのようなアホの子がいて、毎日、ガヤガヤ、楽しく勉強をするのだ。
そんな人生も悪くない、そう思っていると、第二階層が見えてきた。
無事、地下を下ることができたようだ。




