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勝負のゆくえ

 試合が開始した瞬間、まず攻めたのは意外にもジャンヌだった。

 普段の温和で柔和な性格から想像できないような厳しい表情で、突撃する。


「私が魔王の同行者になる! 一緒にダンジョンに潜るのは私!」


 そんなかけ声で突撃する。


 応戦する土方は、

「もはや同行なんてどうでもいいが、お嬢ちゃんには負けられないな。本気でいくぜ」

 と竹刀を振るう。


 ふたりの竹刀は竹刀とは思えないような音を発する。



 ぶおん!



 空気を切り裂き、真空刃が発生しそうな剣戟であった。

 もしもまともに食らえば、竹刀とはいえただではすまないだろう。


 見ているだけで肝を冷やすが、両者の剣は身体には当たることなく、つばぜり合いとなる。


 ばちん、と火花が出そうなつばぜり合いだった。


 歳三は大柄ではないが、それでもジャンヌよりは大きいので、歳三が覆い被さる形になる。


 体格差、男女差、その双方が歳三有利に働く、皆がそう思ったが、ジャンヌは意外と足癖が悪い。


 力勝負が不利だと悟ったのだろう。蹴りを入れる。


 聖女とは思えぬ戦いぶりであるが、彼女はフランスで戦場を駆け巡った聖女様。そこまでお上品ではないようだ。


 歳三もその性格を見抜いていたようで、蹴りをかわすとそのまま距離を取る。

 この一連の動きだけでも一分も消費していない。

 圧倒的な早業で、流れるような作業だった。

 観客たちは息をするのも忘れている、そんな感じであった。

 それは俺も同じか。

 ふたりの英雄の動きの虜になっている自分に気が付く。


 その後、ふたりは激しい剣戟をかわす。

 数にして30合はあっただろうか。

 どちらの一撃も身体には入らず、終わりは見えない。

 実力が伯仲し過ぎているのだ。


「これは千日手になりますでしょうか?」


 イヴが尋ねてくるが、俺は首を横に振る。


「もうすぐ決まるぞ。勝負はジャンヌの勝ちのようだ」


 なぜ、分かるのですか? イヴは目を丸くしているが、種明かしをするよりもジャンヌの動きを注視したほうが分かりやすい、と告げる。


「あの竹刀はそれなりに丈夫だが、さすがに剣豪ふたりの打ち合いには耐えられない。次で壊れる」


 そう予言すると、それが見事に当たる。

 歳三とジャンヌの竹刀は、互いに触れた瞬間、ぐにゃりと折れる。

 それを信じられないような目で見るイヴ。


「御主人様は予言者ですか」


「そんな大層なもんじゃないよ。さて、これで勝負は終わりかと思うが、一度火の付いた戦士が、このまま収まるわけがない。やつらはまだ戦うぞ」


 と俺が言うと歳三とジャンヌは同時に竹刀を捨て、近くに置いてあった己の獲物を取る。


 歳三は和泉守兼定。

 ジャンヌは聖剣ヌーベル・ジョワユーズ。

 そして互いに真剣で相手を狙った。

 それは相手が憎いからではなく、闘争心からくるものであった。

 戦士の闘志を打ち消すことは誰にもできない。

 審判役のゴブリンの制止を振り切り、ふたりは剣を振るう。

 互いの身体をめがけ、剣を振り下ろすが、一撃目は致命傷にはならなかった。

 ジャンヌの脇腹の横を和泉守兼定が通り抜け服を切り裂く。


 歳三の頬の横を聖剣ヌーベル・ジョワユーズが通り抜け、皮膚をわずかに切り裂く。


 だが、二撃目、それは両者、先ほどよりも殺気がこもっていた。

 互いに急所を狙うかのような一撃が飛び交う。

 このままふたりは相打ちになる。

 誰しもそう思った瞬間、俺は転移魔法を使い、彼らの間に入った。

 右手で和泉守兼定を掴み、左手の防御壁で聖剣ヌーベル・ジョワユーズをいなす。

 ふたりの攻撃を同時に無効化した瞬間、俺は叫んだ。


「ここまで!」


 と。

 その大声でやっとふたりは冷静さを取り戻したのだろう。

 剣を収めた。


 歳三は、

「……少しムキになりすぎた」

 とニヒルにつぶやき、


 ジャンヌは

「……熱くなりすぎたの」

 と神に懺悔していた。


 こうして英雄ふたりの勝負は形式の上は「引き分け」ということになった


 賭けをしていた連中は落胆しているが、観客はふたりの激闘に満足したようで、歓喜の声を上げている。



「ジャンヌ! ジャンヌ! ジャンヌ!」

「土方! 土方! 土方!」



 両者を称える歓声は鳴り止まなかった。

戸惑っている彼らに手を振るように指示をすると、最後に彼らはそれに応える。

 観客はさらに歓声を浴びせ、最後に俺の名を叫んだ。



「魔王! 魔王アシュタロト! 我らに豊穣をもたらしてくれる最強の王よ!

 その存在、永遠たれ!!」


 群衆の声はいつまでも止まなかった。

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