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コボルト忍者ハンゾウ

 イヴに素材の目録を持ってこさせる。

 隠密性のある魔物、俊敏な魔物を召喚できるようにするため、素材を厳選する。

 


 北方から産出される黒鉄鉱石。

 ロック鳥の羽毛。

 隼のくちばし。

 雄の三毛猫のひげ。



 その他様々な素材が目を引く。


「なんとなく、隠密性のありそうな魔物を召喚できそうだな」


「そうでございますね」


 とイヴは同意する。


 魔王城にあるクラインの壺に素材を入れ、魔力を込めると、魔物や資材などが手に入る。


 この壺から最初に生まれたのが、目の前にいるメイドのイヴであった。


「そういえば失念していたが、この世界にいる魔物はすべてこの壺から生まれたものなのか?」


 イヴは首を横に振る。


「最初の魔物はもしかしたらそうかもしれませんが、この壺から生まれた魔物同士が交配し、数を増やしていることもあります。それが長年積み重なり、今ではこの世界で生まれた魔物のほうが多いのではないでしょうか」


 正確な統計は分かりませんが、彼女はそう結ぶ。


「なるほどね。まあ、たしかに魔王が全部の魔族や魔物を生み出していたら、いくら素材や魔力があっても足りない」


 道理である。


「ちなみに外の世界で生まれた魔物と、クラインの壺から生まれた魔物に違いはあるのか?」


「基本的にはありませんが、素材から作った魔物は、御主人様のコアを破壊されると弱まるか、ときには死ぬこともあるそうです」


「ふむ、それは魔王エリゴス戦で目の前で見たな」


「御意」


「操っていたアンデッドどもは魔力の供給が絶たれてると、崩壊していた」


「アンデッドは元々、不確かで不安定な存在。魔王の魔力なしには生きられないのでしょう」


「それはイヴも一緒か?」


「いえ、わたくしはこれでも魔族ですから、コアからの魔力がなくても戦えます」


 ですが、と続ける。


「仮にもしも、万が一、絶対ありえませんが、御主人様が亡くなったら、わたくしはその場で自害します。そういった意味ではわたくしと魔王様は一蓮托生です」


「それは困るな。ならば死なないようにしよう」


「絶対、でお願いします」


「分かった。なるべく絶対死なないようにする」


 と折衷案を述べると、イヴはハーブティーを持ってきてくれた。

 この世界独特のハーブティーでとても濃厚な香りがするが、ほのかな甘みもある。


 俺はこのほのかな甘みを堪能するため、このハーブティーを飲むときは砂糖を入れないように注文してある。


 もちろん、有能なメイドであるイヴは覚えているので、毎回、細かい注文をすることはないが。


 ハーブティーの香りを堪能しながら、素材を選び、それをクラインの壺の中に入れる。


 この壺は完全にランダムではなく、ある程度入れる素材によって出てくる魔物が変わる。


 それと召喚主の意向も反映されるようで、大まかな系統は選べるようだ。


 なので城の書庫にあった召喚の書を参考にしながら、隠密に長けた魔物をイメージする。


「――隠密と言えば黒装束。アサシンに忍者だよな」


 これは魂魄召喚ではなく、通常召喚なので、英雄が出てくることはないだろうが、それでも有能なスパイが欲しい。


 そう願いながら、絶対凍土の黒曜石と黒豹の目玉を入れた。


 このふたつを組み合わせたのは、完全に、インスピレーションなのだが、さてはて、結果はどうなるだろうか。


 クラインの壺に注力する。

 壺は禍々しいオーラをまとい、バチバチと電気のようなものをまとう。


 壺の中から煙が出れば成功であるが、なにが出るかはその煙が晴れるまで分からない。


 この演出が面倒という魔王もいるらしいが、俺は嫌いではない。

 いや、むしろ心が躍る。

 煙が充満し、それが晴れると、そこには想像通りの集団がいた。

 いや、想像以上の集団か。

 彼らは皆、黒装束をまとっていた。


 この世界の暗殺者が着るような黒い外套ではなく、俺の知っている異世界日本のような忍び装束だ。


 彼らのステータスを見る。



【名前】 ハンゾウ

【レアリティ】 レジェンド・レア ☆☆☆☆☆

【種族】 エルダー・コボルト

【職業】 ニンジャ

【戦闘力】 745

【スキル】 隠密 暗殺 毒物知識 忍耐 情報収集 変装

  


 まずは彼らの代表、真っ黒な毛並みを持つコボルト。

 彼は一目で凡人ではないと分かったし、事実凡人ではなかった。

 ステータス表記に映し出される☆五つの文字。

 それはイヴと同じレジェンド・レア。

 彼女以来の逸材であると分かる。

 ハンゾウ、と表記されたコボルトに言葉をかける。


「お前の名はハンゾウというのか」


「御意……」


 イヴのような返答であるが、より古風に聞こえた。



「今日からお前は俺の配下となる。不服はあるか?」


「不服などありません。ただし、俺はプロの忍びを自負しています。諜報活動を行うとき、細かな指示をされても従えぬことがあるかもしれません」


「結果を出せば文句はない」


「話の分かる魔王様だ。ならばこのハンゾウとその一党、魔王アシュタロト様に忠誠を捧げます!」


 と彼は片膝を突く。

 すると彼の後ろにいた忍び装束の一団もそれにならう。


 彼とともに現れた10体ほどのコボルト、彼らのレアリティは低かったが、頭領であるハンゾウに対しての忠誠心は高そうであった。


 皆、なかなかにいい面構えをしている。

 こうして俺は諜報専門の部隊を組織した。


 スパイ・スライムの一団、それに人間の中でも草向きの性格の人物を集めると、「諜報部隊」として有機的に活用することにした。


 己の街に放ち、敵に送り込まれたスパイを探すスパイ。

 敵の街で暮らさせ、情報を仕入れるスパイ。

 この世界を旅し、様々な情報を仕入れるスパイ。

 ときには敵将を暗殺するために暗殺部隊を組織することもあるだろう。

 汚れ役であるが、ハンゾウは喜んでそれらを買ってくれるそうだ。


「……忍者とは忍ぶもの、と書く。サムライではないが、サムライ以上に主への忠誠心を見せねばならぬ存在」


 それが彼のポリシーなのだろう。

 彼の忠誠心は、あるいはイヴ並みなのかもしれない。

 このような部下は得がたい。

 大切に使い、天下統一に役立てたかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ハンゾウは最初から名前があるんですね。 イブが最初名前が無かったのは、やはり最初の魔物で女神がクリエイトしたからなのでしょうか?
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