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エリゴス軍の策略

 緒戦を勝ち、勢いに乗じたアシュタロト軍、快進撃を続けるが、奇妙な感覚を覚える。


 それを言語化する。


「……出てくる敵兵が、皆弱卒だ。ゴブリンにオークばかりだ」


 その疑問にイブが答える。


「それは西からも東からも挟撃されているから、南部戦線に回す兵がないのでないでしょうか」


「ならばいいのだがな」


「御主人様は心配性ですね」


「俺の髪が数本逆立っているだろう?」


 イヴはまじまじと見る。


「ええ、たしかに」


「こういうときはなにかあるんだよな。悪い予感がする」


 イヴは再び笑うと、クシを取り出し、髪型を整えてくれる。


御髪(おぐし)を直しました。さ、これで凶運は振り払いましたわ」


 イヴがそう言った瞬間、スパイ・スライムから通信がある。

 彼? 彼女? に持たしていた通信の護符が、赤くなったのだ。

 今は戦場で《念話》はできないが、なにかあったと見るべきだろう。

 上空にいる鷹に目を付けると、意識を飛ばす。

 一時的に鷹に乗り移り、その視界を借りるのだ。


 がくり、と俺がうなだれると、視界が急に開かれる。《鷹見》、ホークアイの魔法が成功したようだ。


 そのまま西部戦線を視察に行く。

 するとそこは惨憺たるものであった。

 千はいたはずのディプロシアの軍隊が、壊滅しかけ、撤退の準備に入っていた。


「なにがあったのだろう?」


 と近寄ってみると、万に近い死体がうごめいていた。

 ゾンビにスケルトン、ゴーストもいる。

 それらは決して強い魔物ではなかったが、数が膨大すぎる。

 ディプロシアの軍隊は量に圧殺されたのだ。


 悪い予感がした俺は、旋回すると東部戦線も見る。

 するとそこではすでに戦闘が行われていなかった。

 あるいは最初から行われていなかった?


 魔王エリゴスの策略でピンチを演出し、ディプロシアと俺を油断させるための策だったのだろうか。


「一杯食わされたか……」


 と吐き捨てるように言うと、意識を解放し、鷹を自由にする。

 俺は見たままのことを部下に伝える。


「西方戦線が崩れた。ディプロシアの敗北だ」



「なんですって!?」

「なんだって!?」

「まあ……」



 三人の指揮官はそれぞれに驚く。


「万近いアンデッドの軍団がこれから南下してくるだろう。いや、その前に俺の城に奇襲を仕掛けてくるかな」


 予言めいた口調で言うと、その予言は当たる。

 部下からアシュタロト城が奇襲されたと報告される。

 イブたちは顔を青ざめさせたが、彼らを安心させる。


「大丈夫だ。こんなときのためにゴッドリーブに策を授けてる。古典的だが、また落とし穴を使った。それにはまってやつらは全滅さ」


 大言壮語ではない。

 遅れてやってきた第二報で、ゴッドリーブが奇襲してきた兵を倒したことを聞く。

 その言葉を聞いたイヴは賛嘆の声を上げる。


「御主人様は運命を律する神ですか。なんでもご存じなのですか」


「まさか。出立前にこんなこともあるかと、ゴッドリーブと相談しただけだよ。魔王エリゴスにはまだ落とし穴は使ってないからな、通じると思った」


「それにしても神算鬼謀が過ぎます」


「俺の墓碑銘にその言葉を刻んでくれ」


 冗談めかして言うと、今後の展望を話した。


「魔王エリゴスはこのまま南下し、俺の領土を攻撃してくるだろう」


「……おそらくは」


「ならば攻め入ってエリゴスを討ち取るしかないな」


「ですが御主人様、相手は万の軍。野戦では勝ち目がないかと」


「だろうな」


「ならばどうやって?」


「それはこれから考えるが、取りあえず籠城はしない」


 その言葉に歳三が反論する。


「相手は万、こちらは300程度だぞ。死ぬ気か?」


「死に場所を求めてるんじゃないのか?」


「十万の矢玉を食らわせてくれるのだろう?」


「だったな。ならばまだ俺もお前も死なないと言うことだ」


 俺は続ける。


「籠城をしないのは、籠城をすれば民に迷惑が掛かるからだ。エリゴスは残忍な男。街に侵入して乱取りしたり、郊外の青田を刈ったりするだろう。それは忍びない。住民にも死傷者が出るだろうしな」


「たしかに魔王城の防壁は心許ない」


「万の軍勢には薄い布のようなものだよ」


 だからどのみち、籠城は無意味だ、と諭す。


「俺に策がある。万の軍隊にはかなわないが、魔王と魔王の戦いには一発逆転のチャンスがある。俺はそれを狙う」


「是非、拝聴したいが、聞かせてくれるのかね」


 歳三はやや皮肉を効かせ言うが、もちろん、そのつもりであった。


 土方歳三、ジャンヌ・ダルク、イヴ、指揮官三人にだけ秘策を話すと、彼ら彼女らは表情を失った。



 三人、それぞれに言う。



「あんた、馬鹿だと思っていたが、それは間違っていた。あんた大馬鹿者だ。だが、歴史に残る大馬鹿者だ」


 まずは土方歳三が口悪く褒める。


「魔王はすごい。その作戦ならば成功するかも」


 聖女ジャンヌは手放しに称揚。


「危険な賭けですが、もはやそれしか残されていません。イヴは協力いたします」


 メイド軍師は危険性に触れながらも協力を約束してくれた。 

 三人それぞれの声と主張を聞いた俺は、満足すると部隊を再編成させた。



 イヴ率いる特殊部隊。

 彼女にはとある密命を帯びてもらう。

 その密命を「成就」させるために小道具を渡す。

 それは俺が魔王サブナクの死体から作った強力な水晶球だった。


 その水晶球を使えば、とある魔法を一回だけ使うことができる。それはイヴの密命を成功させる必須条件だった。その使い方、使いどきはイヴにだけ教え込む。


 その作戦を聞いたとき、彼女は心底、驚いたような顔をし、俺の顔を見てこうつぶやいた。


「……謀神」

 と。


 かの毛利元就でも思いつかない作戦らしい。たしかにそうかもしれないが、毛利元就と同等と自負するのはこの秘策を成功させてからにしたかった。



 なので西進する部隊にも注力する。

 西進し、エリゴスの軍隊と戦う主力部隊。

 中央は俺が率いる。

 左翼と右翼はそれぞれ歳三とジャンヌに任せる。


 機動力のある魔物は俺たちが、機動力のない魔物はイヴに預け、そのまま西進した。


 強行軍である。

 先ほど鷹で観察したが、西には谷があった。

 そこは狭隘(きょうあい)な地形だった。

 俺はそれを利用して戦うつもりだった。

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