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火竜の尻尾のゆくえ

 拠点であるアシュタロト城に帰ると、留守役の土方歳三が出迎えてくれた。


 彼は仏頂面で俺たちを出迎えると、

「今度は女ではなく、ドワーフたちを口説いてきたのか」

 と茶化してきた。


 ドワーフの民を引き連れていることを指しているのだろう。


「お前さんは女だけじゃなく、男にももてるねえ」


 と言う歳三。


「俺に惚れるなよ、歳三」


 と冗談を返すと、ドワーフの民たちをキャンプに案内した。

 そこには魔王サブナクの城から連れてきた住民がたくさんいた。

 難民キャンプは広めなのでドワーフを収納しても問題なかった。

 ただ、先達の住人とトラブルにならないように、細心の注意が必要だろう。

 その辺の機微は歳三やジャンヌには無理だろうから、イヴに一任する。


 イヴはうやうやしく頭を下げると、

「お任せくださいませ、御主人様」

 と言った。


 こうしてドワーフの民を無事、城に連れて帰ったが、彼らの中から技術者を集め、町作りを始めたかった。


 そのことをドワーフの代表に伝える。

 彼らは困った表情を浮かべる。


「どうした? 君たちは建築家ではないのか?」


「我らは確かに建築家ですが、建物レベルの設計はできますが、町作りレベルになるとどうも」


 どうやら自信がないらしい。


「それは困ったな。今までお前たちはどうやって町を作っていたのだ?」


「それは前族長の指示です。彼は天才的なエンジニアであると同時に、天才設計家でもある。すべて彼に頼っていました」


「なるほど……」


 よくあることだ。指導者があまりに優秀すぎるから、部下がその人物に頼りすぎてしまい後進が育たないのだ。


 そういった意味ではこのアシュタロト軍も似ていて、俺がいなくなればすぐに壊滅するかもしれない、とはイヴの口癖でもあった。


「しかし、困ったではすまされない。なんとかしないとな」


 そう悩んでいると、そのイヴが解決方法を提示してきた。


「御主人様、差し出がましいかもしれませんが、魂魄召喚をされてはいかがでしょうか?」


「魂魄召喚? 漂流物はないが?」


「漂流物ならばあるではないですか。今、御主人様が懐に入れているそれが漂流物と同じ役割を果たします」


「これが?」


 懐にある友人の形見を服の上から触る。


「このひげを使うのか?」


「はい。そのひげは英雄のひげ。民を守るために己の身を捧げた英雄の身体の一部」


「このひげを使えば彼を復活させられるのか?」


「それは五分五分です。ですが、英雄のひげを素材にすれば、きっと素晴らしい人物を召喚できます」


「……分かった。どうせ形見として後生大事にしても仕方ない。わずかでも彼が復活できる機会があるのであれば、それに賭けよう」


「さすがは御主人様。素早い決断力です」


「して、このひげをそのままクラインの壺に入れればいいのか?」


「はい。ただし、それだけでは依り代として弱いかもしれません。なにか強力な素材も同時に入れたほうがいいでしょう」


「ふむ」


 あごを触り考え始める。


「俺が召喚したいのはドワーフの族長にして友のゴッドリーブ。つまり彼に関連するもののほうがより、彼を呼び出すチャンスが生まれるのだろうな」


「その通りでございます」


 その会話を聞いていたドワーフの青年が間に入ってくる。


「魔王様、ならば以前、我が族長が鍛えたという武器を使ってはいかがでしょうか?」


「なんと、ゴッドリーブ殿は鍛冶屋でもあるのか?」


「万能の天才です。族長は」


「それならば確実だ。して、その武器はいずこに?」


「族長は最近、武器を鍛えていませんでした。手元にはありません。それに素材とするならば彼の最高傑作を使うべきではないでしょうか」


「一理あるな。さっそく探させよう。して、その武器の名前と現在の持ち主は分かるか?」


「その武器の名は、火竜の尻尾。ファイア・ドラゴン・アックスと呼ばれています。その武器はアザゼルという魔王の城下町にある武器屋に納められました」


「アザゼル? 聞いたことがない魔王だな」


 イヴに見せてもらった周辺地図にはない名前である。

 遠方にいる魔王だろうか。

 ならば時間が掛かるな、と歯ぎしりすると、イヴが種明かしをしてくれる。


「その魔王は御主人様がこの世界に誕生する前に滅んだ魔王です。その魔王が滅んだ跡地に生まれたのが、稀代の最強魔王でございます」


「ん……? どういう意味だ?」


「その魔王の後釜が御主人様でございます。つまり、その武器屋はこの城下町にあります」


「そういうことか」


 ならばそうだと早く言ってほしかったが、叱っても仕方ない。さっそく、その武器屋に向かう。


「御主人様みずからおもむかれるのですか?」


「そうだが?」


「使いのものを出して接収させればいいではないですか」


「それでは魔王そのものではないか」


 イヴは御主人様は魔王では、という目をする。

 彼女に説明する。


「俺はたしかに魔王だが、悪党ではない。現実主義者だ。ここで城下の人間から武器を奪い取るなんて、愚策だよ、愚策。これから多くの人間を集めるのに、そんな悪評を立てられない。普通にお金を出して買うよ」


「なるほど、そんな深慮遠謀が」


 イヴという少女は感服すると素直に頭を下げる。


「さて、これから買い付けに行くが、一応、護衛を連れて行くか」


「ならば知勇兼備のわたくしに」


 イヴは挙手するが、知のほうはともかく、勇のほうはいささか頼りない。


 それに難民の世話や、この町の行政は彼女の担当。ドワーフの里に行っている間に山積した書類の処理もやってもらわねば困る。


 という理由で帯同を不許可にすると、彼女は「いけず……」と恨めしそうにこちらを見た。


 ただそれでもすぐに城の執務室へ向かい、仕事をするのは、彼女が働きもので真面目な証拠であろう。


 彼女のような優秀で有能なメイドを得られたことは僥倖である。


 そんなふうに思っていると、当然のように土方歳三とジャンヌ・ダルクがやってくる。


 歳三は、

「二回連続でお留守番はないよな?」

 と、笑みを漏らし、


 ジャンヌは、

「私が魔王の横にいるのは神の思し召し」

 と、言い切った。


 脳みそが筋肉でできている彼らを残しておいても仕方ない。


 自分の城下町でトラブルが起きるとは思えなかったが、それでも彼らを同行させることにした。


 そのことを彼らに伝えると、

「さすが魔王様」

 と、ほぼ同時に笑った。

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