ローマンコンクリート
さっそくドワーフの職人たちが地下道の整備を始めたが、俺は彼らを援助してやるため、『ローマンコンクリート』を用意することにした。
「ご主人様? ろーまん……こんくりーと、ってなんですか?」
俺の突拍子もない言葉に、財務卿として控えていたイヴが(またご主人様の妙な知識が始まった)という顔で首をかしげる。
「ああ。イヴ、ゴッドリーブ。視察がてら、現場で説明しよう」
俺は二人を伴い、さっそく地下網の掘削(というより蟻の穴の拡張)現場のひとつに視察に向かった。
地下だというのに、ドワーフたちの熱気と松明の光でむせ返るようだ。彼らは力強い掛け声と共にツルハシを振るい、蟻の穴を「下水道」規格へと広げ、同時に壁面を固める作業をしていた。
「おう、魔王殿! 見てくれ! ワシら秘伝の『ドワーフモルタル』で壁面を固めている最中じゃ! これで水漏れなぞ、100年は……」
「ゴッドリーブ。そのモルタルも素晴らしいが……水、特に『流れる水』の中では、どうだ?」
俺の問いに、ゴッドリーブは立派な髭をしごき、ううむ、と唸った。
「……それは……。固まるまでに時間がかかるし、長年の流水には、さすがのワシらのモルタルも……いずれは削られ、脆くなる。メンテナンスが必須じゃ」
「だろうな。俺が用意する『ローマンコンクリート』は違う」
俺は、熱気あふれる現場を見渡し、断言した。
「水と混ざることで、逆に石よりも硬く、永続的に強度を増し続ける魔法の建材だ」
「「な、なんだと!?」」
ゴッドリーブとイヴの声が、地下道に響いた。
「永続的に……強度を?」 「そんな馬鹿な! 魔術的な触媒でも使うのか!? コストは!?」
イヴが即座にソロバン勘定を始める。
「コストは、ほぼタダだ」
「は?」
「ゴッドリーブ。この近くに火山灰が手に入る場所はあるか?」
「火山灰……? 『ポッツォラーナ』のことか!」
さすがはドワーフの族長、地質学にも明るい。俺の前世の知識のキーワードに、即座に食いついてきた。
「ありすぎるわい! というか、魔王殿! この城下町が乗っておる岩盤そのものが、太古の大噴火による凝灰岩の塊じゃ! 掘ればいくらでも火山灰なぞ……!」
「それだ!」
俺は、ドワーフたちが掘り起こしたばかりの、灰色の土砂を指差した。
「それと、石灰だ。貝殻でも骨でもいい、高温で焼いて粉にしたものを用意しろ。あとは、そこの砕石でいい」
ゴッドリーブは、まだ半信半疑ながらも、職人としての好奇心が勝ったようだ。すぐさま配下のドワーフに指示を飛ばし、俺が要求した「ただの」材料を集めさせた。
イヴが本当にこれで大丈夫なのかと不安げに見守る中、俺はゴッドリーブに指示を出し、ドワーフたちに試作品を作らせた。
凝灰岩の砕石、石灰、そして決め手の火山灰。それらを、あえて浴場から引いてきた排水で練り上げる。
「よし。その練ったやつを、木枠に流し込め」
「う、うむ」
「流し込んだら、その木枠ごと、そこの水溜り(蟻の穴の残骸)に沈めろ」
「魔王殿、正気か!?」
ゴッドリーブが、今度こそ素っ頓狂な声を上げた。
「水中で固まるセメントなど、聞いたこともないわい! 溶けて流れて終わりじゃ!」
「いいからやれ。俺を信じろ。……そして、明日の朝まで待つ」




