技術者といえばおなじみの種族
俺が原案を考え、歳三が横やりを入れ、イヴがまとめ上げた都市計画書ができあがる。
もしもこの都市が完成すれば、アシュタロト城の城下町は数千人まで収容できる街となる。
そこそこの規模であるし、そこから得られる税収はなかなかだろう。
ただ、問題があるとすれば、その都市が完成するのに半年は掛かるということだろうか。
難民があふれ、労働力には困らないが、それでも足りないものがある。
それは技術者だった。
労働者はいても建築家が不足しているのである。
もちろん、募集はしているが、最近できたばかりの魔王の城にやってきてくれる技術者は少ない。
どうするべきであろうか。
「基礎工事はいまの段階でもできます。地盤検査なども。それをやっている間に技術者を呼ぶというのが得策でしょう」
イヴは言う。
「それがいいな。良案というか、唯一の選択肢だ。しかし、技術者はどこにいる?」
「魔族の優秀な技術者はすでに他の魔王に雇われているでしょう」
「ならば人間か?」
「優秀な人間の技術者も人間が押さえています」
「ならば亜人か」
「必然的に」
「どの亜人がいい?」
「この世界ではドワーフが優秀な建築家として有名です。技術者としても、ですが」
「我が町にドワーフは何人いる?」
「10人くらいかと」
「足りないな。質量ともに」
「御意」
「募集するにしても時間が掛かりそうだ。ここは直談判すべきだろう」
「つまりドワーフの里を急襲し、彼らを奴隷にするのですね」
「まさか、奴隷は作らないと言っただろう。里におもむき、移住してもらうように頼む」
「秘策はあるのですか?」
「ドワーフって伝承では酒好きなんだよな?」
「御意」
「ならば新しい街に酒蔵をいっぱい作るっていえばきてくれるんじゃ」
「さすがです。御主人様」
冗談なのに目を輝かされてしまった。こほん、と咳払いをし、真面目に話す。
「……ともかく、会って話を聞くよ。たぶんだが、なんらかの報酬を約束することになると思う。しかし、それで技術者が手に入るのならば安いものだ」
「たしかに良い考えではあります。ならばここに行かれるのがいいかと」
イヴは懐から地図を取り出す。
「イヴ、最初から俺の結論を予測して用意していたな」
「御主人様の考えることが最近、分かるようになりました」
と微笑むメイドさん。
「この丸印の場所にドワーフがいるのだな」
「はい。これは未確認なのですが、最近、その里からドワーフが流民としてやってきます。なにか事情があるのではないかとわたくしは愚考します」
「なるほど、それはなにかありそうだな。ともかく、一度、偵察に行こう」
と言うと、イヴは忙しなく準備を始める。
「…………」
沈黙しながら彼女を見つめるが、数分後、一応尋ねる。
「なにをしているんだ?」
「旅の準備でございます。御主人様の身の回りのものを集めています」
「それは見れば分かるが、その右手に持っている鞄は女ものに見える」
「さすがは御主人様、慧眼です」
「褒めてもらって嬉しいが、もしかして、イヴも付いてくる気か?」
「御主人様は自分で洗濯ができますか? 料理を作れますか?」
「できない。作れない」
「ならば身の回りの世話をする女性が必要でしょう」
「小間使い代わりにゴブリンの従卒でも連れて行こうと思っていたのだが」
「彼らは川魚を生で食べます。肉にも火を通す習慣がありません。腰蓑は一ヶ月に一回、洗濯しただけで仲間から潔癖症として扱われるそうですよ」
「……是非、イヴに付き添ってもらおうか」
「恐れ入りたてまつります」
本当は女性を危険な旅に同伴させたくないのだが、彼女も魔族、多少の危険は回避できるだろう。それにいざとなれば俺が救ってやればいいことだった。
人間の盗賊団くらいならばひとりで蹴散らせる自信がある。




