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縦横無尽の指揮

 中型竜の群れを倒した俺たち。

 しかも心強い仲間、ロビン・フッドとの再会も果たす。

 さらにいえば彼が我がアシュタロト軍に加わってくれるという。


 これは望外中の望外で、とても僥倖なことなのだが、祝杯を挙げている暇はなかった。


 そのロビンがこう言ったからだ。


「おれが風魔の小太郎に呼ばれているとは言ったな。その小太郎経由の情報だと、お前の軍師がお前を救うため、イスマリア城に向かっている」


「イヴのことだな。まあ、当然か、脱出に失敗してしまったからな」


「メイド軍師はイスマリア伯爵を野戦で破り、この城を包囲するようだ」


「それは助かるな。さすがはイヴだ」


 と褒めると、ロビンは、

「それでは行こうか」

 上層階を指さす。混乱に乗じて城から脱出するようだ。


 なかなかに手際がいいが、少し待ってもらう。


「なにを迷っている?」


「迷っているのではない。先ほど歳三と一緒に戦っていた老人を探しているのだ」 

 見ればひょっとこ齋どのはいつの間にかいなくなっていた。そのことを歳三が説明してくれる。


「あの爺さんならば旦那が二つ名ドレイクを倒した瞬間、『さすが』と言い残して去って行ったよ。この地下迷宮にきた目的はすべて果たしたらしい」


「別れも言わずにか」


「ああ、どうせまた会えると言っていた」


「たしかに会えるだろうが、次は味方かな……」


 低音の言葉だったので歳三たちには届かなかったようだ。だが、ロビンの恋人カーバンクルのスゥに届いたようで、心配げに俺の肩に登る。


 俺は彼女の喉を撫でながら、「心配しないでいい」と、ささやくとそのまま彼女を乗せ、上層階に向かった。


 森エリアの次は出口のはずであるが、その予想は見事に当たる。ロビンに連れてこられた出口はイスマリア城の中庭だった。


 しかも見張りはいない。


 イヴが軍事行動を起こしてくれたおかげで警備が手薄になっているようだ。


「イヴ様々だな」


 感想を漏らすと、そのまま城壁を駆け上がる。

 歳三とロビンに飛翔の魔法を掛けるとそのまま壁を乗り越え、城の外に出る。


 ロビンの情報によると東南の方向からイヴは攻め寄せるようだ。ならばそちらに行けば合流できるだろうが、同時に伯爵の軍隊と出くわす可能性があった。


 それを指摘されるが、俺は豪胆に返答する。


「出くわしたらそれはそれだ。イヴと交戦中ならばそのまま後背を付く。俺たちのほうが先に出くわしたら敵陣を乱し、イヴがやってくるのを待つ。なにを逡巡する必要がある」


 その言葉にロビンは「ほう」と感嘆する。


「さすがは新進気鋭の魔王様だな。作戦が大胆だ」


「賭け事をするときは全額ベットが基本なんだ。特に俺のような持たざる魔王は」

「それに勝ち続けているのは大したもんだ」


「ああ。自分でもそう思うが、幸運はいつまでも続かない。しかし、今回に限ってはなんとかなると思う」


「根拠は?」


「それは世界一の弓使いが配下に加わってくれたからだ」


 俺がそう言うとロビンは「なるほど」と笑った。




 

 さて、結果から言えば伯爵の軍隊とは出くわした。

 彼らの後背を付くことに成功する。つまりイヴと交戦中だったのだ。


 俺の兵を率いて待機していたイヴは、俺が脱出に失敗したという情報を聞くと、兵を動かした。


 俺を奪還する作戦を練ったようだ。

 いや、作戦というよりももはや『扇動』だったようだ。


「御主人様を奸計に落とし込んだイスマリア伯爵に正義の鉄槌を。その首と胴を切り離せ!」


 イヴは激情に駆られながらそう叫んだという。


 冷静なイヴらしからぬ台詞であるが、俺をダンジョンに落としたことを相当怒っているようだった。


 その怒りが部下たちに伝わり、なかば弔い合戦のようになっていたようである。

 アシュタロト軍は少数であるにも関わらず伯爵の兵を圧倒していた。


 ただ、やはり直情的な動きで、すぐにイスマリア軍にその動きを読まれてしまうだろう。


 ひとりの将としてそう観察していたが、それはなかば当たっていた。後方から観察すると、遊撃部隊がアシュタロト軍の後ろに回り込もうとしていた。


 このままではアシュタロト軍は虚を突かれ、崩壊するかもしれない。

 そう思った俺は歳三とロビンに命令を下す。


「あの遊撃部隊の指揮官の首を持ってこい」


 歳三は闊達に、

「あいよ」

 と受ける。


 ロビンは仰々しく、

「御意」

 と受ける。


 両者返答に性格がよく出ていたが、気にせずに後方から督戦する。

 まず歳三が遊撃部隊に切り込む。


 切り込むといっても遊撃部隊は一〇〇に近い。それにひとりで突っ込むはさぞ勇気のいることだろうが、肝っ玉が服を着ているような歳三にとってはなんの造作もないようだ。


 横に矢が飛び交おうが、足下に魔法が炸裂しようが、平然と人間の兵を斬り捨て、前に進む。


 一方、知恵ものの風格のあるロビンは突出せず、後方から兵を射貫く。歳三の死角を付こうとする雑兵の目玉、額、喉笛に、的確に弓を当て、倒していく。

 歳三は「余計なことを」と言うが、内心かなり助かっているようだ。


 やはり俺の見立て通り、このふたりは最高のコンビだった。剣の土方歳三、弓のロビン・フッドとなってくれるだろう。


 あとは馬と槍と斧の異名を持つ配下を揃えたいところであるが、今は贅沢を言っているときではない。


 俺は歳三たちが遊撃部隊を壊滅することを確信すると、そのまま《飛翔》し、 イヴのところへ向かう。


 兵たちの頭を越えて飛ぶのは危険であったが、俺は弓矢を魔法で防御すると、イヴの横に降り立つ。


 驚いている彼女に向かって言う。

「ただいま。――とても心配を掛けたようだね」

 その言葉を聞いたイヴは、涙目になると、

「お会いしとうございました」

 と頭を下げる。


「大げさだな。まだ数日しか離れていないだろう」


「そうですが、その数日でもイヴの心には巨大な空虚が生まれてしまったのです」


「ならばその心の隙間を埋めてあげたいが、街に戻ったらなにか贈り物でもしようか」


「贈り物よりも、御主人様に紅茶を注ぎたいです」


「……今、ここでか?」


「はい」


 戦場で指揮官が紅茶をいれるなど聞いたことがなかったが、イヴらしいといえばイヴらしかった。


 歳三たちの乱入で戦局に変化はないだろうと踏んだ俺は、彼女の願いを叶える。彼女に五分ほど時間を与える。


 イヴの護衛であるサキュバスたちが、テーブルと椅子を持ってくると、それにテーブルクロスを掛ける。イヴはお湯を沸かしながら繊細に温度を確認していた。


 彼女たちの心遣いによって注がれた紅茶はとても美味しかった。

 俺は紅茶の香気を堪能しながら戦場を眺める。


「かつてこのように優雅に戦場を見つめた将などいないだろうな」


 そのような感想を述べると、イヴは言った。


「恐れながら御主人様のような名将はあとにも先にも存在しないでしょう」


 それは買いかぶりであるが、否定はしない。否定するよりも頭を動かし、自軍の損害を最小限に抑えつつ、最大限の戦果を得たかった。


 イヴに指示する。


「ちょうど今頃、歳三が遊撃部隊の指揮官の首をはねるか、ロビンが目玉に弓を突き刺しているはずだ。余勢を駆ってイスマリア軍の側面を突くだろう。さすれば敵の戦線は崩れるはず」


「そこを一挙に突くのですね」


「ああ、左翼の兵がやや余っているな。そこから兵を分け、中央に移せ。あとは力押しをすれば敵軍は崩壊するはず」


「さすがは御主人様です」


「さすごしゅは、勝ってからにしてもらおうか」


 戯けながらそう言うと、作戦が伝達されるのを待った。

 一〇分後、俺の作戦が伝達されると、敵軍は浮き足だった。


 俺の予言のような言葉は真実となり、敵軍は瓦解していく。これ以上士気を保てなくなったと判断したイスマリア軍は、撤退を始めた。


 イスマリア城に籠もるようだ。

 このように野戦はアシュタロト軍の圧倒的勝利で終った。

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