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ロビン、再来!

 明けの明星は全身真っ赤のドレイクだった。目まで真っ赤で普通のドレイクとは違うなにかを感じさせる。


 そんな化け物と対峙すると、自分が矮小な魔族であることを思いだしてしまう。

 こういうときは嘘でもいいから気持ちを奮起させるべきだった。


 俺は呪文を一小節ほど詠唱すると、《魔矢》の魔法を放つ。エナジーボルトの魔法であるが、これは初級の魔法だった。


 初級ではあるが、俺のは特別製だ。同時に10近いエネルギーの矢を作り出し、それでドレイクを串刺しにする。


 ――はずであったのだが、ドレイクは魔法の矢などものともせずに突撃してくる。

 目を血走らせ、牙をむき、俺を喰らおうとする。

 颯爽とやつの牙を避けると、ドレイクを倒す算段を付ける。


 禁呪魔法を唱えればダメージを与えられそうであるが、ドレイクにはどの禁呪魔法が効果的だろうか、考えてしまう。


 が、それも数秒。長考して歳三たちに迷惑を掛けたくなかった。


 歳三たちならば何匹でもドレイクを殺すだろうが、万が一ということもある。それにちんたらやっていれば、あとで文句を言われて酒を奢らせられることは必定であった。


 酒くらい奢るのはやぶさかではないが、どうせ奢るなら気持ちの良い祝杯を挙げたかった。


 なので一気に片を付けることにする。


「そうだな、久しぶりに召喚魔法を使うか」


 サブナクという魔王を倒して以来、久しく呼んでいなかった精霊王を召喚する。


「ドレイクは火竜の一種だから、氷の精霊を呼ぶか」


 単純な発想だが、その分、効果はてきめんだろう。

 そう思った俺は呪文を詠唱する。


「大気に宿りし無尽蔵の水、この世の狭間に蠢く極低温の邪気。

 汝らの祝福されざる婚姻を承認する。

 出でよ! 氷の女王 フェンリオーネ!」


 呪文を詠唱し終えると、辺りの気温が下がり、半人半獣の女が出てくる。

 とても美しい女だが、とても冷酷で気高そうだった。


 どんな強者にも尻尾を振らない気高さを持った女王は、真っ青な唇で精霊言語を唱えると。舞うようにドレイクに近づいていく。


 そのまま死の接吻を与えるため、ドレイクに抱擁を強いる。


 氷の女王に抱かれた箇所は、あっという間に氷結する。二つ名ドレイクは雄叫びを上げるが、氷の女王は気にせず、とどめの一撃を与える。


 明野の明星のまぶたにキスを強いると、ドレイクの眼球は即座に氷結し、砕ける。

 ドレイクは脳まで凍り付かせると、反撃も咆哮もやめ、地面に倒れる。


 ドレイクの王の死を看取った女王は、不敵な笑みを浮かべると粉雪舞う空の中に消えた。


 こうして二つ名ドレイクを倒したわけであるが、俺はとあることに気が付く。


「おかしい。遠方からまだドレイクの援軍が。それに歳三たちはまだ抗戦しているようだ」


 二つ名ドレイクを倒せばドレイクたちの組織的反抗が終ると思っていたが、なにかおかしい。


 そう思った瞬間、脳裏に危険信号が駆け巡る。


「しまった! 二つ名ドレイクはこいつだけじゃなかったのか」


 瞬間、森のひそみから二匹目のドレイクが現れる。先ほど倒したやつと瓜二つのやつが。


「つまりこいつらは双子ということか」


 そう悟ったが、それが分かった瞬間、俺は後ろを取られていた。

 ドレイクの強烈なかぎ爪が襲う。

 一瞬、死を想起したが、このようなところで死んでいられない。


 俺は諦めが悪かった。せめて致命傷は回避すべく、防御魔法に注力するが、その対応は一歩遅かった。


 ドレイクのかぎ爪が俺に届いたわけではない。その一歩手前でドレイクが悶え苦しみだしたのだ。


 見ればドレイクの右目には矢が刺さっていた。なにものかが放った矢が俺を救ってくれたのだ。


「何者!?」


 と慌てふためく必要はなかった。


 このような場所、このようなタイミングで、正確に矢を放てるような弓使いはそうそういない。


 俺はその弓使いの名を叫ぶ。


「ロビンフッド!」 


 彼の名を叫んだ瞬間、彼は森の奥から自分の存在を知らせる。

 大木の枝の上から大声で叫ぶ。


「久しぶりだな、魔王よ。約束通り、お前の部下になるため戻ってきた」


 不敵に笑うロビンフッド。肩にはカーバンクルのスゥもいる。


「まるで計ったかのようなタイミングだな。小説のようだ」


「否定はしない」


「しかしあまりにもタイミングが良すぎる。昨今の読者はひねくれているから苦情がくるかもな」


「それも否定しないが、なんの標もなくやってきたわけではない。お前の忍者に報告を受けた」


「つまり風魔小太郎が知らせてくれたのか」


「ああ、我が主が地下迷宮でさまよっていると言われた。それでここにきて見ればこの有様」


「面目ないが、ロビンがきてくれて本当に助かった」


「家臣の活躍は主の功績だ。気にするな」


「その口ぶりだと俺に仕える決心をしてくれたか」


「ああ、勿論だとも。ようやくこの弓を捧げる決心がついた。おれの弓は魔王アシュタロトのために存在する」


「その言葉なによりも有り難い」


 素直に漏れ出た言葉を噛み締めると、俺は右手に魔力をまとわせた。それを暴れ狂う二匹目の二つ名ドレイクに目掛けて射る。


 魔力の矢はまっすぐ竜の心臓に飛んでいく。ドレイクは咆哮をあげながら倒れるとその場に静寂が訪れる。


 次いで遠方から聴こえていた戦闘音が収まる。


 二つ名ドレイクをすべて倒したことにより、統率を失ったドレイクたちは散開を始める。


 歳三たちに背を向け、逃げ始める。歳三たちは逃げる竜たちを深追いするようなことはなくこちらにやってくる。


 彼らは俺の顔を見るなり、

「さすがは旦那だ。二つ名ドレイクを二匹も仕留めるとは」

 と称賛する。


 ドレイク討伐は俺だけの力ではなく、ロビンの援護なども大きいのだが、と説明すると歳三はロビンに視線をやる。


「む、この男はベルネーゼでともにダゴンを倒した弓使いじゃないか」


 歳三はロビンを覚えていたようだ。


 ロビンも忘れていなかったようで互いに握手をするが、歳三は際どいジョークを言う。


「魔王軍に入るようだが俺のほうが先達だからな。それに旦那とは互いに裸で語らい合った仲だ」


 先程の温泉のことを言っているのだろうが、歳三が言うと冗談に聞こえない。それにロビンも悪乗りする。


「恋人がいるゆえ、魔王とはそういう関係になれないが、剣の歳三、弓のロビンと呼ばれるような武人になりたいものだ」


 ロビンがそう言うとふたりは再び笑顔を漏らした。

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