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ロビンフッドへの手紙

 海上都市ベルネーゼの民は、俺とその部下を英雄として扱い、賓客として持てなしてくれた。


 まるで竜宮城に来たかのように連日、宴と席を用意されたが、いつまでもここに滞在するわけには行かなかった。


 アシュタロト城に帰り、政務や軍務をこなさなければならないのだ。


 事実、昨日から留守居役のゴッドリーブから早く戻ってこいという手紙を何通も受け取っていた。


 俺はこの都市にきた当初の目的、通商条約を結ぶ。


 海上都市ベルネーゼに集結する農産物を適正価格で買う条文にサインをすると、この都市での用件をすべて終える。



 あとは馬車でアシュタロト城に帰るだけだが、ひとつだけやり残したことがあるとメイドのイヴは言った。


「御主人様の足下にいる緑色の生き物の処遇です。その畜生は御主人様以外になつきません」


 俺はナッツをカーバンクルに与えながら、「そうかな?」と返した。


「わたくしが餌を与えると尻尾を立てて興奮します。ジャンヌ様に至っては全身の毛を逆立てます」


「ジャンヌの場合は生存本能だろう。あいつはスゥを食べ物としてみている」


「わたくしは?」


「美人過ぎて緊張しているのさ」


 とお世辞でお茶を濁すと、俺はこう言い切った。


「スゥの問題はすぐに解決する」


「断言なさいますね。先ほどから書いている手紙と関係あるのですか」


「ある。この手紙には魔法でロックがしてあって、二通目は時間が経たないと見えないようになっている」


「変わった細工をされるのですね。どのような文面なのですか」


 珍しくプライベートに干渉してくる。俺が連日の宴でベルネーゼの貴婦人にモーションを掛けられているのが影響しているようだ。


 忠実で麗しいメイドに隠し事はしたくなかったので、手紙を開示する。

 イヴは一通目の手紙を読み上げる。


「我が友人ロビンよ、旅は楽しんでいるか? この手紙をスゥに届けさせる。やはりスゥはお前の側に居るべき存在だ」


 イヴは手紙を読み終えると、これはロビン様への手紙なのですね。そしてそのカーバンクルはロビン様の元に返すのですね、と続けた。


「ああ、スゥとロビンはふたりでひとつだ」


「二通目にはどのようなことが書かれているのですか」


「二通目は数ヶ月後に解除できるようになっている。ロビンが気が付いていないスゥの秘密を書く」


「スゥの秘密? ですか」


「ああ、彼女には秘密がある。ダゴンと戦ったとき、俺にささやいた言葉。普通のカーバンクルではないと思ったが、調べてみたら案の定だったよ」


「彼女にどのような秘密が?」


 イヴが尋ねてくるので、俺はその秘密を文字にしたためる。


 俺が羽ペンを数分揺らすと、魔法によって書かれた文字が光り始める。これが読めるのはあと数分だけ。便せんにしまい込む頃には消え去る。再び読めるのはスゥがこの手紙をロビンに届け、一緒に旅をし、その心の傷が癒えたころのはずだ。


 ロビンは必ず立ち直る。恋人を失った心の傷を癒やし、スゥとともに旅をするはずだった。


 スゥによって心を癒やされたロビンは数ヶ月後、なぜ、自分の心を癒やされたか知ることになるだろう。


 緑色の幻獣がどれほど大切な存在か再認識することだろう。

 俺はそれを証明する一文をイヴに見せる。

 手紙にはこう書かれていた。



「そこにいる幻獣のスゥは、君の愛するフィアンナの生まれ変わりだ。彼女は君を愛するあまり、獣の姿になって君の前に現れた。もう二度と大切な人を放さないように――」



 その手紙を見たイヴはその大きな目を一際ぱちくりとさせ、「御主人様……」と、つぶやいた。


 俺は無言でスゥの背中に手紙を入れた筒をくくりつけると、スゥを窓から逃がした。


 彼女はすたすたと窓から出る。その瞬間、ぺこりとお辞儀をしたような気がした。


 俺は小さな生き物の後ろ姿を見えなくなるまで見送ると、そのまま視線を港に移した。


 綺麗な港町が眼下に広がる。

 市民たちが熱気に包まれながら仕事をしていた。

 彼らを見ていると自分の支配地、アシュタロト城の民が懐かしくなる。


 一刻も早く自分の民に再会したくなった俺は、予定よりも早くベルネーゼを旅立った。


 リョウマやマルコは別れを惜しんでくれたが、アシュタロトへ続く馬車の中、俺は想像する。


 俺の友人であるロビンとその恋人であるスゥが仲睦まじく、アシュタロトの郊外で暮らす姿を。彼らが暮らすアシュタロト森の美しさを想起する。


 俺はイヴにアシュタロトの森や湖を保護する条例を提案する。


 彼女は満面の笑みで、

「承りましたわ、御主人様」

 と、装丁のしっかりとしたメモ帳に書き込んでくれた。


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100万回しんだカーバンクルを読んだジャンヌはなぜ食い時があるのだろう。
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