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タゴン軍団上陸

 魔王ダゴンがいくさを仕掛けてくる。

 それは先刻承知であったが、問題はいつ仕掛けてくるか、だった。

 時間が経過すればするほど、双方の戦力は増強される。


 ダゴンは本拠地である島から、魔族や海賊を呼び寄せる。ベルネーゼ側は周辺都市から傭兵を雇い入れる。


 今のところダゴンのほうが兵力は多く、優勢である。

 俺ならば三日以内に戦を仕掛ける。


 その所見を皆に披露する。俺の言葉を疑うものはいなかったが、あえて質問してくるものもいる。


 マルコ・ポーロである。彼は尋ねてくる。


「敵は堅固な砦にこもっている。その利を捨てて攻めてくるか?」


「攻めてくるでしょう。たしかに砦にこもれば負けないでしょうが、勝てない。時間がたてばダゴン側のほうが不利です」


「その理由は?」


「ダゴンよりもベルネーゼ側のほうが経済的な力を持っているからです。革新派の商人が加わったとしてもその差は埋まらないでしょう」


「なるほど、道理である。評議会の国庫にはたくさんの金貨がある」


「それを利用して傭兵を大量に雇われる前に俺なら勝負を決める。この海上都市は豊かだが、防御力は甘い」


「交易だけを考えているからな。防壁はないに等しい。周辺勢力とは共存共栄することによって平和を保ってきた」


「その周辺勢力からの援軍もあるのですよね」


「ああ。三日以内に到着するだろう」


「ならば敵も三日以内に仕掛けてくるはず。そのつもりでいましょう」


 と、俺は風魔の小太郎を呼び出す。

 彼にはダゴンの島におもむいてもらい、フィアンナ救出を託す。


「可能だと思うが、時間が掛かるかもしれんぞ」


「承知の上だ。無事救い出してくれ」


「御意」


 風のように消える忍者。

 続いて俺はイヴを見つめる。

 彼女は不満げな顔をする。


「厭な予感がします。またお留守番をさせられそうな」


「その予感は外れだ。今回はイヴに軍師役を務めてもらう」


 その言葉ににこりと反応するイヴ。可憐である。


「今回はイヴを参謀に、右翼を土方歳三、左翼をジャンヌ・ダルクという配置にする」


「それは素晴らしい考えですが、リョウマ殿はどうなるのでしょうか」


 リョウマは不平の声を上げる。


「そうじゃ、そうじゃ、わしは商人だが、メイドの嬢ちゃんよりも腕は立つぞ」


「分かっている。だからリョウマには近隣までやってきている援軍を迎えに行ってもらいたい」


「なるほど、ワシがその指揮を執るんじゃな」


「そうだ。伝令を送るから、最高のタイミングで側面攻撃、または背面攻撃を仕掛けて欲しい」


「了解じゃ。任せよ。このリョウマ、他人を出し抜くのは得意技ぜよ」


 期待している、というと彼女は早速旅立った。

 それを見てマルコ・ポーロは感謝する。


「あのように生き生きとしているリョウマは久しぶりに見た。父親が旅立って以来、沈んでいたのだが、今は昔の笑顔を取り戻している」


「あの笑顔は彼女が自身の内側から作っているものです。俺などいなくてもなにも変わりませんよ」


「そんなことはない。女は惚れた男ができると生き生きするものだ」


「失望させないように頑張ります」


 と無難に答えると、イヴに指示を出す。


「出立は明日の朝だ。それまで傭兵たちに英気を養わせておけ。酒も三杯までなら許可する」


 イヴはうなずき、粛々と出陣の準備を始める。

 歳三は三杯までだな、と念を押すと度数の強い酒をあおる。

 ジャンヌは自室に作った即席の教会で神に祈りを捧げていた。

 それぞれの過ごし方で出陣前夜を迎えると、明朝、俺たちの軍は出立する。



 朝出立したベルネーゼの傭兵団は、昼にはベルネーゼの南方にある平原に陣を張った。


 わずかな行軍であるが、元々、革新派とダゴン軍の立てこもる砦は目と鼻の先だった。むしろここまで遭遇せずに行軍できたほうが幸運だったのかもしれない。


 俺たちはちょうど、砦から出陣してきたダゴン軍と戦闘を始める。


 ダゴン軍は街にこもる俺たちを掃討することを想定していたらしく、前面に攻城兵器を展開していた。


 ゆえに野戦を想定していた俺たちのほうが有利に戦えた。


 次々と破壊される攻城兵器、それらを使用しようとしていた敵の技術者も倒れていくが、それも開戦直後までだった。


 すぐに後方からダゴンの精鋭がやってくる。

 海賊、傭兵、魚人、海スライム、巨大海鳥などを主体とする部隊であった。

 彼らは雄々しく、士気が高い。こちらの傭兵部隊は押される。

 右翼を指揮していた歳三は不満を漏らす。


「くそ、ベルネーゼの傭兵と警備隊は弱卒ばかりだな。アシュタロトの連中の爪の垢を飲ませたい」


「そうなの! 私の部下ならばこんなやつら、容易にはねのけるの!」


 左翼の聖女様も呼応する。

 俺は彼らをたしなめる。


「毎回、理想の部下を従えて戦えるとは思わないように。難のある部下を従え、勝利をもたらしてこそ名将だ」


「あいにくと俺たちは名将ではなくてね。旦那ではない」


「そうなの。土方みたいな面倒くさい英雄を従えて勝利を得続けるなんて、魔王はチート過ぎるの」


「そうだぞ。俺は俺みたいな不良サムライを率いて勝ち続ける自信はない」


 歳三はジャンヌの冗談に合わせる。


 いや、冗談ではなく、自覚してるのか。ジャンヌも自分が面倒な英雄だと思っているようだ。


「魔王は英雄の中でも最上級に面倒な私たちを従えながら勝っているの。ならば今回もいつものように奇跡を見せて!」


 要は弱兵でも勝てるように策略を練ってくれ、ということだろう。

 もちろん、それは練っているのでそれを伝える。


「敵軍は海兵が多い。海兵は鎧などは軽装だ。傭兵の中にいる重装歩兵を前面に出しつつ、膠着したところを切り裂け」


「切り裂けってどうやって?」


 と尋ねてくるジャンヌに俺は見本を見せる。


 イヴからロングソードを受け取ると、敵陣に飛び込みながら、ダゴン軍を切り裂く。


 一人目は振り構えた剣を振り下ろす前に太ももを突き刺す、二人目は渾身の突きをいなし、その勢いを逆手にとる。三人目はそのまま首をはねる。返す刀で立ち上がった一人目の腹を切り裂く。

 舞踏を踊るかのような連撃を見せる。


「魔王は剣もすごいの!」


「ああ、チートだな。魔法だけでなく、剣技も一流とは」


「俺は一流かもしれないが、お前らは超一流だろう。前線に出て弱兵を救ってやれ」


 その言葉を聞いたジャンヌと歳三は前線に出る。


 ジャンヌは聖剣の一太刀によって戦局を変え、歳三は和泉守兼定の切れ味によって味方を鼓舞する。


 ふたりの英雄は獅子奮迅の働きで戦況を五分に持って行く。


こうして寡兵にて戦況を五分五分まで持って行ったが、俺が出来るのはそこまでだった。


 戦況はやがて膠着し、数が多いダゴンが有利となっていく。

 ダゴンの伏兵が海から次々と上陸し始めたからだ。

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