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ロズネーの逃亡

 幽霊船長フランシス・ロズネーは巨体に似合わない速度で接近してくる。

 警備隊たちはその速度に驚くが、ジャンヌや歳三も驚いているようだ。

 ロズネーはぽかんと口を開けている警備兵を粉砕する。

 警備兵の首根っこを掴むと地面に接吻させ、頭蓋骨を割る。

 背中から生えているタコの足によって首をねじ切る。

 その蹴りによって腹を突き破る。

 やりたい放題であるが、歳三が即応する。


 警備兵を救うため、恐慌状態になっている警備兵とロズネーの間に入ると刀を向ける。


「海賊の本領は弱いものいじめではなかろう。俺の相手をしてくれ」


 その不適な挑戦にロズネーは舌なめずりをする。


「東洋のサムライ。しかも異世界の英雄と見た。相手に不足はないな」


 と触手を伸ばす。


 ロズネーの背中から蠢く触手が歳三を襲う。歳三はそれを一刀のもとに斬り伏せるが、背中から伸び出る触手はいくら切ってもきりがなかった。


 切りがないどころか、切った触手は己の意思を持っているかのように歳三に襲いかかる。


 歳三は危うく後れを取りそうであったが、それをフォローしたのはジャンヌだった。彼女は蠢く触手を聖剣でなぎ払う。


 聖剣の聖なる力で浄化されるとやっと触手は消えるが、それでも本体にはなんの影響もない。


 ジャンヌはロズネーにめがけ、聖剣を振り下ろす。


「無敵の身体を持っていると言ってたけど、試させてもらうの」


 たしかにマルコはそのようなことを言っていたが、果たしてそれは真実なのだろうか。


 俺はジャンヌの一撃でそれを確認するが、どうやらマルコの情報は真実だったようだ。


 ジャンの聖剣はロズネーの身体を両断しかけるが、切ったと同時に泡を立て、傷口が塞がれていく。


「ほんとだったの! 化け物め!」


 とジャンヌはさげすむ。彼女は神の摂理に反する生き物が嫌いなようだ。

 それは俺も同じだったので攻撃を加える。


 手のひらに《火球》を作るとそれをロズネーにぶつけるが、やつは火だるまになっても平然としていた。


 部下の半魚人が水を掛けるまで平然と火の暑さに耐えていた。


 これは『普通』の方法では絶対に倒せないやつだ。そう思った俺は禁呪魔法を使う決意をするが、それが放たれることはなかった。


 禁呪魔法を唱えると、ロズネーが撤退の命令を下したのだ。


 俺の禁呪魔法を察知したのか、それとも形勢が不利だと悟ったのか。どちらかは分からないが、後方を見ると海上都市側の増援がきていた。


 俺はほっと安堵の息を漏らすが、血気盛んな聖女様はまだまだ戦い足りないようだ。


「逃がさないの!」


 とロズネーの背中を追うが、俺はそれを止める。


「待て、ジャンヌ。ロズネーは逃げるようだ。わざわざ追わないでいい」


「でも、逃がしたらもったいないの」


「もったいなくはない。この戦闘で向こうも大損害をこうむった。痛み分けだよ」


 と言うと、俺はジャンヌを押し倒す。

 ジャンヌは珍しく慌てて。


「あわわ、魔王が興奮したの。発情したの」


 どうしよう、と彼女は頬を染めるが、それは勘違いなので訂正する。

 俺は先ほどまでジャンヌがいた場所を本人に見せる。


「あれ、穴ぼこがあるの」 


 あれはなに? きょとんとするジャンヌ。俺は彼女に説明する。


「どうやらあの男は手に大砲を隠しているようだな。まったく、タコみたいなのに、手だけはハイテクだ」


 見ればロズネーの左腕がぱかりと開き、そこから煙が上がっている。

 やつはちいっと舌打ちをしていた。外したことを嘆いているようだ。


「あれがやつの秘策のようだが、秘策の他にもやつの秘密が分かったぞ」


「というと?」


 ジャンヌは尋ねてくるが、そこでそれを披露するとそのまま斬りかかりそうだったので、概略だけ。


「やつの不死身の身体の弱点が分かったぞ」


「なんと、すごいの。どこどこ?」


「まあ、それは秘密だ。次の戦闘のとき、教える」


 ジャンヌにはそう言うが、やつを注視する。俺はやつがジャンヌを狙うとき、左の目が赤くなったのを見逃さなかった。先ほどの戦闘でやつが身体を再生させるとき、左目が輝くところを見逃さなかった。


 魔力を発動するとき、やつの目は光る。つまり、そこがやつの魔力の源であり、やつの弱点だろう、という結論になる。


 もう一度戦えばそこを付けるかもしれないが、今はこちらにも余裕はない。


 負傷した警備隊の隊員が目の前で苦痛に喘いでいた。彼らを見捨てることは俺にはできなかった。


 俺はロズネーの撤退をそのまま見逃すと、傷ついた警備隊員に回復魔法を掛ける。

 魔王が回復魔法とは変であるが、俺は意外とその手の魔法が得意だった。

 死にかけていた警備隊員が回復していく。


 ただ、それでも負傷者の数が多く、俺ひとりでは治療しきれない。聖女であるジャンヌも聖女モードになって回復魔法を掛ける。


 俺とジャンヌ、それと援軍の中にいた司祭が懸命に回復魔法を掛け、隊員たちの命を救う。


 その努力が実ったのだろうか、負傷した隊員たちの過半は命を取り留めた。


 あとは医者の出番である。当面の危機を脱した負傷者を医者に託すと、俺はマルコの屋敷に戻る。


 そこで待っていたのは、港を守った俺に対するねぎらいの言葉だった。



「魔王殿の働き見事である。我が保守派の商人は皆、アシト殿に心服した。これでこの都市の半分は貴殿に従うだろう」



 次いでリョウマから提案をされる。


「魔王殿、つまりこれでスポンサーが揃ったということじゃき。凄腕の傭兵を雇って、今度はこちらから打って出るぜよ」


 その言葉を聞いた俺はゆっくりとうなずく。


 幽霊船長ロズネーは倒さなければならない存在。やつを野放しにすれば海上都市はそのまま革新派のものになる。


 俺は海上都市の富を収奪するつもりはないが、そこに住まう商人の信頼は得たいと思っていた。


 彼らの信頼を得、交易をし、アシュタロトの街をもっと豊かにしたかった。


 そのために俺は海賊を討伐する。その決意を表明すると、俺の部下たちは改めてその決意を賞賛してくれた。



「魔王様のためならばこの命も惜しくはありません」

 


 イヴはそう結んでくれた。

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