祭壇の間
二足歩行の雄牛を倒した俺たちであるが、探索が終わったわけではない。
このダンジョンにもぐった理由は、リョウマの父親である英雄坂本龍馬を探すことである。
俺たちはまだ目的を達成していなかった。
この先にいるはずの坂本龍馬を見つけ出し。初めてミッション達成なのである。
が、ここにきてジャンヌが皆が感じていた疑問を口にする。
「ねえ、ここにリョウマのお父さんがいたとしたら、とっくにさっきの化け物に食べられているんじゃ……」
その言葉を聞いてリョウマは眉をひそめる。小声で反論する。
「大丈夫じゃき、父上は要領がいい。あんなのは回避してダンジョンの奥でなにかしてるはずぜよ」
「そうなの? 坂本龍馬はなにをしているの?」
「このダンジョンの奥にある秘宝を探しているはず」
たしか死んだ人と再会できるという古代の鏡を探しているはずであるが。
そう思った俺たちはその古代の鏡を探すのが坂本龍馬に会う近道だと考えた。
もしも古代の鏡がなければすでに龍馬はこのダンジョンにいないということになるし、まだ残っているのならばそこで待っていれば坂本龍馬のほうからやってきてくれるはずである。
二段の構えというか、最良の方法であるが、問題は鏡をどうやって探すか、だ。
「こういうときに忍者のハンゾウや風魔小太郎様がいてくれれば便利なのですが」
イヴは、ふうっとため息を漏らすが、いくらため息を漏らしても忍者が湧き出るわけでもない。
彼らに留守役を命じた自分の先見性のなさをなじりたくなってくるが、いくらなじっても仕方ないことであった。
そうイヴに漏らすと、『彼女』は「そんなことはないぞ」と反論した。
ちなみに反論した彼女はイヴではない。似たようなメイド服をまとい、美しい女性であったが、イヴではなかった。
彼女はメイド服をまとっているがメイドではない。
おそらく女でもない。
彼は日本の戦国時代、相模国で暴れ回った忍者、風魔小太郎であった。
突然、現れた風魔小太郎は、にやり、という擬音が似合いそうなほどの会心の笑みを浮かべ、こう言った。
「我は影。常に主に従う影のような存在。主が必要なときに現れ、不要なときに消える。それが忍びというもの」
その台詞を聞いたイヴは「素晴らしいですわ」と賞賛する。
忍び道とメイド道には通じるところがあるようだ。
だから風魔小太郎はメイド服を着ているのかな、そんな感想が漏れ出るが、それが真実かは不明である。
ただ、ひとつ分かることは、風魔小太郎がやってきてくれたからには古代の鏡は見つかったも同然ということであった。
風魔小太郎の探索能力は、アシュタロト軍団でも随一なのである。
最高の探索者が加わってくれた我がパーティー、それでもこのダンジョンは広いので人数を分けて捜索する。
前回、イヴとジャンヌの相性が思いのほか良いというか、競争させると成果を上げると分かったので今回もその手を使う。
ジャンヌは不満げな顔をしたが、イヴがうやうやしく一礼し、受諾すると渋々ながら従ってくれた。物分かりのいい娘だと思われたかったのだろう。
そうなると俺とリョウマが組むことになるが、ハーフエルフの娘はにんまりとしている。
「こりゃあ、父上と会うときは、孫が腹の中で動いているかもしれんの」
と言った。
暗がりに入ったら押し倒されそうなので、風魔小太郎も同伴させる。
小太郎は、
「御意」
と静かに従ってくれた。
リョウマは残念そうであるが、小太郎の手際の良さを見ると変心する。
「こりゃあ、すごい。これが噂に聞く忍びというやつか」
小太郎はダンジョンの壁に耳を当てると奥に隠し扉がないか確認する。
地面に耳を当てるとダンジョンの構造を把握する。
その様は常人が見れば神業であった。
やはり探索には忍者が最適である。
改めてそう思っていると、風魔小太郎の動きが止まる。
遠方に岩を見つけると、それが怪しい、と言い出した。
たしかにダンジョンの地下にこのような大岩があるのは怪しいが、この中に太古の鏡があるのだろうか。
小太郎は「おそらくは」と肯定すると、岩を調べ始めた。
罠や仕掛けの有無を探っているようだが、特になにも仕掛けられていないように見えた。
――のは素人の浅はかな考え、小太郎が岩に触れるとそこから槍が突き出してきた。
鋭い槍が小太郎のメイド服を貫く。
「小太郎殿!」
とリョウマは声を上げるが、彼女の肩を叩く。
「大丈夫、最高の忍びがあんなので死ぬわけがない」
実際、よく見れば槍が刺さっているのは木の丸太だった。
忍者がよく使う手であるが、あの丸太はどこで入手したのだろうか。
まさか持ち歩いているのか?
無傷で平然と調査を再開している風魔小太郎を見るが、彼は無表情でなにも語らなかった。
そんなトラブルはあったが、小太郎がトラップを全部解除すると、ちょうどジャンヌたちも合流する。
メンバーも揃ったことだし、大岩の中に入るが、そこは岩をくり抜いた祭壇になっていた。
「古代人たちが祭司に使った場所のようですね」
とはイヴの言葉であるが、それは正しいようである。
いたるところに古代魔法文明の意匠、紋様などが見られる。
「不思議……、なんだかとても神聖な気持ちになる場所なの」
古代魔法文明の祭司場は竜脈や地脈が通っている箇所に設置されることが多い。俗に言うパワースポットというやつでその場にいるだけでなにかを感じ取れることが多かった。
「たしかに厳かな気持ちになるな」
俺も同様の言葉を漏らすと、岩の奥に進んだ。
岩の中はどこまでも広い。まるで小さな屋敷のようだが、それにしても長い階段が続いた。
明らかに物理法則を無視しているが、おそらく、この空間は特殊なのだろう。
空間がねじ曲げられ、広さという概念を壊しているのだ。
やはり古代魔法文明はすごいが、それでも三分ほど歩くと祭壇が見えてくる。
おそらくではあるが、そこに古代の鏡が置かれているのだろう。
死者と対話できるという鏡が鎮座しているのだろう。
鏡自体、坂本龍馬という英雄と会うための付属品であるが、俺は魔術師、古代のアーティファクトがそこにあると思うとどうもテンションが上がる。
俺はイヴに、
「御主人様も子供のようにはしゃがれるのですね」
そんな台詞を言われてしまうくらいに気分を高揚させながら、祭壇の間に足を踏み入れた。




