表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/194

蝙蝠退治

 こうして水場を確保した俺たち。

 まずは飲み水を補給、その後、水浴びと洗濯をする。

 この洞窟に入って以来、身体を洗っていなかったので皆、多少、匂っていた。

 それでも女性陣は香水などを付けて匂いを隠しているのだから偉いものである。

 俺はそれすらせず、ただ、汗臭さをまき散らしていた。

 というわけで水場で行水をする。


 まずは王である俺からするが、皆が背中を流したいと喧嘩を始めたので、使い魔を召喚するとそいつにやらせる。


 以前、クラインの壺で召喚した骸骨戦士をこの場に召喚すると、背中を洗わせた。


 カタカタと震える骨が、海綿(スポンジ)で俺の背中をこする姿は奇妙であったが、幸いと見物人はいないので気にしない。


 その後、ジャンケンで勝利したジャンヌが入る。

 彼女は覗いてもいいよ、と鷹揚に言うが、もちろん、そんな真似はしない。

 俺は紳士なのだ。

 イヴは慎ましやかに首をこくりと縦に振っただけで静かに行水にいく。

 かぽん、という桶の音が風流に聞こえるくらい静かに行水をする。

 逆にこれくらい静かなほうが色々なことを想像してしまう。

 日本語でいうと風流という言葉がぴったりの行水であった。


 一方、リョウマのほうが豪快で、ざぱー! という音と「くぁー! 気持ちいいぜよー!」という声が聞こえてくる。


 彼女には日本人の血が流れているが、日本人的な繊細さは感じなかった。

 四者四様の入浴の仕方であるが、身体を清めてすっきりすれば腹も減る。

 というわけで食事であるが、ここはダンジョンなので味気ない。

 持ってこられる食材が保存食に限られるからだ。

 なのでさして豪華ではない、ただイヴの心のこもった料理を食べる。

 彼女は長期保存用の塩辛いベーコンやウィンナーでさえご馳走に変えてしまう。

 その塩味を活かし、最高のパスタ料理を仕上げる。

 その味は海上都市で旨いものを食べ慣れているはずのリョウマさえうならせる。


「メイドのお嬢、もしも魔王殿のところにいるのに飽きたら、わしのメイドになるがぜよ」


 とヘッドハンティングをする。

 彼女のような有能なメイドを引き抜かれるのは、国家的な損失なので留意するが、イヴはにこやかに微笑み、


「わたくしは常に御主人様とともにあります」


 と俺に対する忠誠心を示すだけだった。


 リョウマは心底残念がるが、それ以上無理強いはせず、最適の塩気のパスタを頬張る。


「それにしても、こんなに深く潜ったけんど、父上の痕跡は見つからなかったのぉ」


「まあ、ちょんまげの一部が落ちてたり、これ見よがしに服の一部が落ちていたら、それはそれで怪しいが」


「ですが、本当に龍馬様はこの地にいるのでしょうか? すでに旅立たれたあとかもしれません」


 とはイヴの言葉。


「その可能性はあるが、まあ、手がかりはここにしかない。最下層に行ってそれを確かめるしか方法はないき」


 リョウマは吐息とともに言うが、思わぬ人物が口を挟む。


 一心不乱にパスタを食べていたジャンヌが、急にフォークを置くと、目をつむりながら言った。


「さっき、神のお告げが聞こえたの。ここに坂本龍馬がいるかは分からないけど、この最下層に『答え』があると言ったの」


 その敬虔な態度に目を丸くするリョウマ。彼女は聖女であるジャンヌを見たことがないのだ。


「この金髪の娘は正真正銘の聖女でな。神の言葉を聞ける。その精度は今のところ100パーセント」


「おお、金髪の嬢ちゃんはすごいぜよ。まさか本当に聖女とは」


 その言葉にジャンヌは、えっへん、と胸を反らすが、たしかに誇っていいことかもしれない。


 彼女の神託には何度も助けられた。

 今後も、いや、今日の神託もきっと俺たちを導いてくれるだろう。

 そう思った。

 その後、食事を終えた俺たちは寝袋に入り、じっくりと休む。


 ここが正念場であり、最下層になにが待ち構えているか分からない、と、皆も悟っているのだろう。いつものように俺の隣の取り合いにはならなかった。


 皆静かに体力を回復する。

 翌朝、昨晩の残りを口にすると、そのまま最下層の扉へ向かった。

 最下層に到着すると、そこは一面に砂漠が広がる荒野であった。





 最下層は砂漠のような地形だった。

 ただ、普通の砂漠と違うのは日がないことであろうか。

 天井も見えることから、どこか空虚に見える。

 最下層は思ったほど暗くない。

 天井に発光する虫がおり、まるで砂漠の夜の星空のようであった。

 ただ、光量は十分ではないため、イヴが荷物から松明を出す。

 彼女は自分には戦闘力がない、とそれを持つ役目を引き受けてくれる。

 有り難いことである。

 彼女に感謝をすると最下層を進む。


「魔王殿は結構手慣れれちょるのぉ。ダンジョンにはよくくるがかえ」


「まさか。一応、王だからな。ダンジョンに入り浸ることはできない」


「ほほぉ」


「今回で二回目かな。前世でもあまり潜ったことはないはず」


「ぜんせ?」


「こちらのことだ」


 イヴ以外の人物にはあまり前世のことは話さないようにしている。


 前世の記憶がある、などと真顔で語るのは不思議ちゃんかヤバイやつと相場が決まっているのだ。


 リョウマの父親は日本人の坂本龍馬だから、「輪廻転生」という概念は知っているかもしれないが、正確に言えば輪廻ではないのでその辺の説明もややこしい。


 こういう秘密は口をつぐんでおくに限る。

 と、前世のことは内密にする。


 それを見ていたイヴはおかしげに口元を緩ませるが、そんな中、大蝙蝠の襲撃を受ける。


 大蝙蝠はダンジョンでよく見るタイプのモンスターであるが、この階層にくるまであまり見かけなかった。


 上層階には照明が設置されており、大蝙蝠には辛い環境だったのかもしれない。

 そんな考察をしていると、一匹の蝙蝠がイヴを襲う。

 どうやら光源を絶ちたいようだ。

 あるいはそれは飛んで火に入る夏の虫なのかもしれない。

 こちらにいるのは最強の剣士と魔術師、それに世にも珍しい拳銃使い。

 大蝙蝠など敵ではなかった。

 一匹目の蝙蝠は聖女様が一閃で倒す。

 背中から聖剣を解き放ち、それで一刀両断。まるで蚊でも払うかのようだった。

 二匹目はリョウマが打ち落とす。


 かなり高速で接近してくるのにも関わらず、一撃で頭部に銃弾を撃ち込むと、大蝙蝠を殺した。


 これでは俺の出番はない。

 彼女たちは次々と蝙蝠を始末する。


 ジャンヌが五匹、

 リョウマが三匹、


 数を競い合うかのように落とす様は、異世界のゲームのボーナスステージのようである。俺自身、プレイはしたことはないが、文献では見たことがあった。


 一応、どこかに得点が表示されていないか、観察したが、どこにも数字はない。

 なぜかほっとするが、俺はとあることに気が付く。


 うずたかく積まれる大蝙蝠の死体が動いていることに気が付いたのだ。

 最初はリョウマの拳銃が非力で仕留めきれなかったのかと疑ったが、違った。

 ジャンヌの両断した大蝙蝠の死体もうごめいていたのである。

 大蝙蝠の死体はまるで地虫のようにうごめくと、ひとつの形になっていく。


 まるで悪夢を見ているかのような光景だったが、蝙蝠の死体を寄せ集めてできあがったのはまさしく化け物であった。


 巨大な牙、口は耳まで裂けている。

 両眼は真っ赤に血走っている。

 雄牛に筋力強化の魔法を掛け、二足歩行にしたような化け物がそこにいた。

 牙から涎をたらし、こちらを睨んでいた。


「こ、これは?」


 いつもは冷静なイヴが珍しく声を震わせる。

 ジャンヌやリョウマもいつにもまして真剣な表情をしていた。

 それだけこの化け物がヤバイということだろう。

 大蝙蝠の死体はやがて獣の形となる。

 雄牛を二足歩行にしたような獣となり、うなり声を上げた。



「うぉぉーーーん!!」



 その咆哮は五臓六腑に響き渡るくらいの迫力があった。

 俺は部下たちより一歩前に出ると、戦闘を準備するように伝えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ