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襲撃者

 三人で食事を取り終えると、そのままそこで一泊し、翌日、馬車を移動させる。

 目指すは北にあるサブナク城。

 そこに目当ての商人がいるはずであった。

 そう改めて口にすると、聖女ジャンヌ・ダルクが尋ねてきた。


「そういえばサブナク城に行くのは初めてなの」


「ジャンヌは途中で俺の配下になったものな」


「うん、噂では廃城して、民だけ貰い受けたと聞いたけど」


「その通りだよ。当時はまだ配下が少なくてな。無理に維持するよりも破却したほうがいいと思った」


「魔王は昔から頭良いね」


「どういたしまして」


 と言うとイヴが会話に参戦してくる。


「魔王様は常に正しい選択をします。しかし、それにしても件の商人はなにをしにそのような場所に向かったのでしょうか。敵国のスパイでしょうか」


「あり得るな。あらゆる想定はしておかないと」


 サブナク城は破却したとはいえ、元々、城が建っているような戦略的な重要拠点。

 商人を装ってそこを調査しにきた、という可能性は十分あり得る。


「そうなると商人は敵なのでしょうか?」


「それは分からない。そもそもそれを確かめるためにやってきたんだ」


「そうでした。もうじき、サブナク城に到着しますが、このまま入りますか。それとも馬車を隠して徒歩で接近しますか」


「このまま行こう。アシュタロト城の紋章を堂々と掲げて。もしも商人がスパイならばそれでなにかしらの反応を得られるかもしれない」


「さすがは御主人様です」


 とイヴは荷物入れの中から紋章を取りだし、それを馬車の幌に着ける。

 アシュタロト軍のマークが燦然と輝く。

 それを見てジャンヌは「格好いいの。威風堂々なの」と、テンションを上げる。


 子供のようにはしゃぐジャンヌを横目にしながら、俺たちは旧サブナク城の城下に接近した。


 サブナク城は破却したが、その周辺にあった城下町は特に破壊しなかった。


 サブナクは城下を発展させるタイプの魔王ではなく、建物自体、しょぼかったからだ。


 破壊しなくてもそのまま風化して朽ちる程度の建物しかなかった。


「石造りの立派な魔王の城下町とは雲泥なの」


 とはジャンヌの言葉であるが、実際、旧サブナクの城下町はぼろかった。

 今にも朽ち果てそうなほど老朽化している。


「建物は人が住まないとすぐに傷みます」


 とは建物管理のプロであるメイドのイブの言葉であるが、実際、その通りだった。

 ゴーストタウンとはこのような都市を指すのだろう。

 今にもアンデッドが出てきそうな雰囲気だった。


「そういえば魔王との最初の旅でも市街戦になってゾンビに襲われたの」


「今回はそんな目には遭わないと思うが」


 それでもたしかに今にもゾンビが出てきそうな街角であった。

 そんなことを言われると身構えてしまうが、それがある意味功を奏す。


 警戒をし、《察知》の魔法を掛けていたお陰でこちらに敵意のある人物を補足できたのだ。


 建物の物陰、数十メートル先に赤いオーラを感じた。

 敵意ある生命が潜んでいるという合図である。

 そのオーラは、十数体ほどあった。

 注意深く探ると、そのオーラの形が人型をしていることに気が付く。


 そのことをふたりに伝えると、イヴは緊張した面持ちになり、ジャンヌは即座に己の剣のつかに手を触れる。


 さすがは魔王軍のメイドと戦士である。

 普段は緊張感がないように見えるが、いざ、戦闘となれば即応することができた。

 ただイヴだけはその覚悟があるだけで戦力としては勘定できないが。


 いつものように短剣を抜き放つと、それを首もとに添え、足手まといになれば死ぬ覚悟がございます。


 と、ぷるぷると震えていた。

 相変わらずの忠義心であるし、挺身の心構えである。

 彼女のような有能なメイドを自殺させるわけにはいかない。

 そう思った俺は、右手に力を込める。

 伏兵どもがいつ襲ってきても応戦できるように魔力を込めたのだ。


 こうなってくると馬車にロングソードを置きっぱなしにしたのが悔やまれるが、幸いとオーラの強さはそれほどでもなかった。


 徒手空拳でも十分対抗できるだろうと思った。

 そうつぶやいた瞬間、物陰からぞろぞろと現れる無頼漢ども。

 皆、傭兵風の格好をしていた。

 山賊ではなく、傭兵風だ。

 どこかの都市に雇われたものたちだろうか。


 それは定かではなかったが、傭兵たちは先ほどまで持っていた敵意をさらに先鋭化させた。


 なんの前口上もなく、腰のものを抜き始める。


「おいおい、こちらはただの旅の商人だぞ。それをいきなり襲うのか」


 盗賊たちは返す。


「お前らがアシュタロト城のものだとは確認済みだ。アシュタロトの紋章がある馬車に乗っていた」


「なるほど、なかなかの観察眼だな」


 これ見よがしすぎたか、商人から反応が得られると思ってやった行為だが、裏目に出た。


 いや、これこそが商人の反応なのかもしれないが。

 尋ねる。


「お前たちは旅の行商人に雇われたものか?」


 傭兵たちは素直に答えてくれる。


「そのものは誰かは知らないが、我々の任務は黒髪の行商人の確保。そのものが魔王アシュタロトと出会う前に始末しろ、というものだ」


「なるほど、そういうからくりか」


 どうやら、旅の商人は他者に恨みを買うような人物らしい。


「それにしてもよく詳細まで教えてくれるな」


「なあに、ここでお前たちを始末すれば、このことはアシュタロトの耳にも入るまい。簡単な計算だ」


「なるほど、意外と冴えているな。ただ、ひとつ問題がある」


「というと?」


「それはお前たちの目の前にいるのがその魔王アシュタロトってことだよ」


 傭兵たちが「なにッ!?」と言った瞬間、旧サブナク城の城下町に爆音が鳴り響いた。


 俺の火球が炸裂したのである。

 その一撃によってふたりの傭兵が火だるまとなった。

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