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理解できない。  作者: 篠宮 楓


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22/26

桑島登場の理由と、とりあえずの終了。

「んで。今日、ここに呼ばれたのはなんで?」

 一通り驚き終えた田所が、まだショックから立ち直れていない土井を慰めつつ不思議そうな表情を浮かべて俺を見た。

「清宮が集合掛けたんだから、喧嘩する前に理由言ってくれないと。俺達何がなんだかよく分からないよ」

「ごもっとも」

 思わず頭を下げる。

 田所は、そんなのはいいから……と続きを促した。

「まぁ、ようするにな。えーっと、一週間前のあの昼休み……木ノ本先生と話しただろ?」

「うん」

「で、皆が教室に戻って行った後、少し先生と話し合ったんだよ……」


 ちらりと視線を走らせると、桑島は風紀委員桑島のままにやりと口端をあげた。

 ……あー! 何でこいつこんなにむかつくんだろう。シメるか。




 そう、あれは大騒動(自分が墓穴を自ら掘ったともいう)の後―――― 






 色々と大変だった昼休み。話したいことはたくさんあったが午後の授業が迫っていた為、田所の話を聞いた後すぐに解散した。

 それぞれの教室に向かおうと風紀委員室を出たところで、俺だけこっそりと木ノ本先生に呼び止められた。

「対抗策を考えた方がいいと思う。それも、風紀上部で」

「風紀上部? って……?」

 おうむ返しに口にすると、木ノ本先生は少し面倒くさそうに頭を掻いた。

「学校の運営陣も教師陣も、来栖の事には関与しない。まぁ……その事だけじゃなく、生徒間の事にはいじめとか深刻な状況じゃなければ関与しないんだが……」

「あぁ、まぁそうですよね。入学時の契約書に書いてありましたし」


 最初の頃にも言ったが、この学校は富裕層と一般生徒(スカウト組)に分かれる。割合としては富裕層が多いわけで、多分一般的な学校と比べたら多少常識がずれている部分があると思う。

 大体、一般入学を許可していないところでもその常識を垣間見れるだろう。


 要するに、富裕層にとっては大人になる前の「唯一の遊び」の期間であり、そしてそれ以上に社会に出た時に役に立つ様に色々なものを「学び取得する期間」でもある。

 それは資格や人格形成(忍耐力や動じない性格)などでもあり、人脈や味方を「取得」する事も含まれる。

 スカウト組にとっても自分の能力を伸ばせるだけではなく、それを生かして富裕層の生徒に認められれば……自分が信頼する人間がいれば……将来の安定を手に入れられることができる。良い成績や功績を残せば、この学校法人からスカウトが来る場合もある。


 良い事ばかりに思えるが、その為に制約されている事も多い。その一つが、教師陣からの「生徒への不関与」。

 先程も言ったが、いじめや権威を振りかざしての暴力などの深刻な状況以外は教師は関与しないという事。まぁ実際のところそんな事したら人脈も能力の取得もあり得ないことになるから、やる奴はほとんどいないけど。

 名門名家のネットワークは恐ろしいのだ。一つの噂に沢山のヒレが付きまくって拡散されていく。きっと来栖の事は、今一番の話題になっているだろう。



 そこまで考えて、視線を上げた。


「風紀上部って……、でも木ノ本先生は教師の方に含まれてますよね?…」

 そう、契約から言えば木ノ本先生は手を出せない案件。だから自分も来栖に狙われていても、逃げるしかできなかったわけだ。

 普通なら他教師の立会いのもと、ちゃんと話して分からせて、学年主任や風紀……は自分だから……の担当教師に報告するのが一般的じゃなかろうか。

 一応教師陣にはそれとなく話しているみたいだけれど大事にせず逃げ回っていたのは、対象が自分だからだろう。どんなに気を付けていても来栖から違う話を流されてしまったら、異性の教師の立場からして噂だけでも不利になる。


 木ノ本先生は、まぁな……と呟くと肩を落として息をついた。


「だから俺は出ていくことはできない。フォローはするけど、裏方専門」

「じゃぁ、上部……って……」

 そこまで言って、気が付いた。

 無意識にしかめっ面になっていたらしく、木ノ本先生が苦笑する。

「お前は苦手かもしれないけどな、ここは我慢しなさい」

 その言葉で、考えが確信に変わった。

「桑島ですか!? 上部って、確かにあいつ来年風紀委員長だけど、二年ですよ? 委員長と次期委員長は、一緒に行動しないんじゃなかったでしたっけ?」

 むしろそれを確約されたから、桑島の次期委員長就任を了承したんだけど!!


 俺の嫌悪感丸出しの表情を見て苦笑するも、木ノ本先生は意見を変える事はない。ほんわりとした雰囲気を醸し出しつつも、やっぱり教師なんだと思わせる。そして自分がまだ子供なんだと。


「分かりました、今回は妥協します。確かに桑島よりも来栖の方が問題が大きいですから」

「来栖とレベル並べなくても」

「桑島も話は通じないけれど、理解はしてくれますからね。理解した上で、俺の意図しない動きをするところは、来栖そっくりだと思いますが」

「清宮にとっての桑島って……」

 呆れ混じりの言葉に、きっ……と木ノ本先生を見る。

「関わりたくない知人以下」


 どんだけだよ……と笑い声を漏らす木ノ本先生を後に、俺はその場を辞したわけだ。





「ものっすごく嫌だけど、心底嫌だけど、来栖対策に連れてきた桑島だ。この騒動がひと段落ついたら関わることはない。願い下げだ」

「まったく蒼ちゃんってば、どーしてそんなに俺を嫌がるかなぁ」

「まぁ、そういうところだろうね」

 桑島の楽しそうな声に、田所が素早く答えを投げつける。

「嫌がられたくなかったら、やめればいいと思うけど」

 田所が呆れたように声を掛けると、桑島は真顔で俺を見た。

「嫌がってるのを見るのもまた楽し」

「どこにこいつを好く要素があるんだよ、まったくないからな! 「俺」が壊れる!」


 そう嘆いた俺をぽかんと口を開けてみていた土井が、思わず噴き出した。

「俺が壊れるって、委員長……なんですかそれ」

 笑いを治めようとしているけれど、まったく止まっていない。肩を震わせて、押し留めたように笑うその姿は、余計笑われているようでむぅっと口を閉じた。

 土井はすみませんと言いながら、咳ばらいをした。

「いいんじゃないですか、桑島さん。ちょっとびっくりしましたけど、委員長が高校生なんだって事気付かせてもらえましたし」

「まて。俺は最初から高校生だ」

何を突っ込んだらいいのかわからないが、まずはそこだ。桑島がいいとかそこは論外。


 土井はその切り替えしにまた楽しそうに笑みを零すと、少し考える様に人差し指を口元に当てた。

「委員長って、どこか膜を張ったような……一枚人の皮をかぶったような……」

「土井、その例え怖い」

 人の皮ってお前。

「すみません。要するに、素の委員長を見られて嬉しいってことですよ」

 ……

「は? う、嬉しい?」

 俺の素を見られて嬉しいって。え? それってどういう……。


 内心ドギマギしてきた俺から、田所に視線を移した土井はだって……と口を開く。

「田所先輩は少しも驚いていないんですもん。ていう事は、委員長にとって私も一般生徒の括りに入ってたんだなぁと思ったら、少し悔しいなぁと」

「桑島くんの方が今のとこインパクト大きいってのもあるけど、まぁ清宮は元々こんな感じだよね。普段は脳内で本音を吐いてる風な」

 田所が土井の後に続いて言った言葉に、内心驚く。

「バレてたか! 俺の「委員長」擬態」

「そんな大げさなことか」


 それよりも、土井の発言の方が気になってるんですが俺!


 ちらちらと視線を土井に向けていたら、それに気が付いた彼女はにっこりと笑顔になった。


「私も頑張ります! 委員長擬態!」


「あ、……うん」



 あれ? 前話からフラグたってた気がするけど、これで終わり?




 とりあえず、横で笑い転げてる桑島シメる。

いいい、いやいや。フラグ……まだ折れてない……んじゃないかな……? 多分←

一応、恋愛カテ……だし……?

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