第6話(バレエエッセイ第46話)・バレエ公演内容・個別内容2作目
「あほばかしね」 (作・ふじたごうらこ)
1、
あほばかしね
ぼくがそういうと今の飼い主の顔もゆがむ
でもぼくはこういう言葉しかしゃべれない
あほばかしねあほばかしね
ぼくは本当にそれ以外の言葉は知らない
そういえば、エサがもらえたからね
そういえば、水を飲ませてもらえたからね
そういえば、ほめてもらえたからね
そしてそのまま大きくなった
前の飼い主のことはよく覚えてない
その前の飼い主のことも覚えてない
その前の前の飼い主も
でもみなぼくの言葉を聞いて顔をゆがませていたのは覚えている
そして同じ言葉をつぶやくのも覚えている
こんな鳥いらないと
2、
……ヒナだったぼくを育てた人を思い出せる
黒くて長い髪を持つ女の人だ
哀しい瞳をしていたよ
暗い部屋でぼくだけを見ていた
話す言葉はあほばかしねとしか言わなかった
今から思えばその人は狂っていたかもしれない
だけどぼくの大事な人だよ
ぼくは教えられた言葉を覚えた
あほばかしねあほばかしね
その女の人とぼくだけの世界
暗い世界で一人と一羽で
あほばかしねあほばかしね
そう唱えていた
ある日女の人はどこかへ行ってしまい
それきり帰ってこなかった
それからぼくはいろいろな家に飼われた
それだけの話
その言葉は人の心を傷つけるらしい
ぼくはその言葉以外に話すことができない
あほばかしねあほばかしね
あなたは九官鳥のきゅーちゃんよ
あほばかしねあほばかしね
きゅーちゃん、おはようは?
あほばかしねあほばかしね
だめだこれは最初の飼い主が悪い
かわいそうな鳥ね、一生このままね
あほばかしねあほばかしね
こいつむかつく鳥やな
あほばかしねあほばかしね
やっぱむかつくエサやらんぞ
あほばかしねあほばかしね
水もやらへんで
あほばかしねあほばかしね
どや、ちっとはコタエたか?
あほ……ばか……しね、あ……
3、
……この子は最初の飼い主さんに虐待されていたそうよ
あほばかしねあほばかしね
そんな言葉ばかりいうのよ、かわいそうにね
あほばかしねあほばかしね
大丈夫よ、あなたには罪はない
あほばかしねあほばかしね
私はエサも水もあげるわよ
でもあなたは外に出せない
あほばかしねあほばかしね
他の鳥と一緒にもできない、だって悪い言葉を覚えてしまうから
あほばかしねあほばかしね
……そこにはほかの九官鳥もいたな
みんないい子だったみたいだ
おはよう
こんにちは
いい天気だね
ぼくだけが小さな暗い部屋にいた
ぼくは孤独に叫ぶ
あほばかしねあほばかしね
狭い四角い鳥かごの中で羽をばたつかせて運動する
あほばかしねあほばかしね
これがぼくで、もうこれ以上変えようがないぼくだ
あほばかしねあほばかしね
ごめんねこんなぼくで
でも最初にぼくを育てたあの人に
悪い言葉をぼくに教えたあの人に
もう一度会いたい
あほばかしねあほばかしね
あの人に会えたらこの言葉を誇らしく叫ぼう
あほばかしねあほばかしね
きっとあの人はほめてくれるだろう
4、
……生まれ変わったらぼくは人間になって
あの人は鳥になる
ぼくはエサをあげて育ててあげる
そしてあの人にこの世で一番美しい言葉を教えてあげたい
今は言えない言葉だけど、生まれ変わったら言えるだろう
愛しているよって
そうさ
お互い練習すれば、きっと言えると思うんだ
そして人間になったぼくは途中でいなくなったりしない
鳥になったあのかわいそうな人をやさしく抱いてあげよう
あほばかしねあほばかしね
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本作は児童虐待を扱っています。母親が主役。子役は母親より背の低い人を。もしくは背が低めの男性ダンサー。
老いた母親をリフトして優しくしようと子は務めるが母親はそれも拒否して子を否定する。子は母を慕いながらも友人に助けられて母から去る。結果的には子にとってはハッピーエンドになりますが、現実はそうあまくはない。虐待問題の根深さを観客に知らしめてほしい。
本作に出てくる母もそうですが、子も母から愛情を与えられていないので人間関係に疎く、社会に出ても嫌われてしまう設定です。幸い理解があり我慢強い友人を得て子は独立できるが、母は変わらないまま。ある意味救いがないため、子の振付は友人といるときはコミカルで楽しくなるものを。
2幕構成、(原作にはないが、1幕と2幕通じて同じ小鳥=青い鳥が子を励まし導く役を作ってほしい)
◎1幕目は子の幼少時 (出演者::母、子、助ける児童相談所員、警察官、窓の外で虐待している様子を心配そうに見守る青い鳥)
母が子を振り回すパドドゥメイン。子は母に気に入られようと一生懸命道化を演じるが母はこれを理解しない。とうとうご飯も与えられず衰弱していく子。それを放り出して着飾って遊びにいく。そこへ児童相談所と警察に助けられる。
子は母から引き離され成長する。ひょんなことで友人もでき、友人も子の状況を理解して見守っていく。
2幕目。老いた母親と再会するが、子は虐待したことを謝ってほしいと願う。しかし母親は子に過去やった仕打ちをしつけだと言って反省しない。そして恩返しをすろ、お金を出せと迫る。主人公と老母の心通わぬパドドゥ、ラストは主人公の友人たちがみかねて母子を引き離し、別々の道を歩ませる。
母は最期まで反省しない。老いさらばえて衰弱していってもなお反省しない。終幕。
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