第35話・婆が飛び跳ねる基礎クラス △
私は長らくバレエレッスン界のすみっこ暮らしです。たまにレッスンに参加させてもらって幸せをかみしめています。マスクがどうにも苦手でこれさえなければ、もっと楽しく過ごせるはず……それでも参加できるだけでもマシだと考えています。以上、ここまでが前置きで今回は、あるレッスンの忘備録です。
先日、某で代行の先生が来られました。今はHPがあるので初対面の先生の経歴をチェック、まだ若いがすでに教えの為のクラスを受け持たれている。お顔も優しそう。大人ばかりの基礎クラスだから私でも大丈夫だろうとのぞんだら……基礎は基礎だけど、個人的に苦手なパ(短い踊り)の連続だった。以下は私だけの感想です。大人バレエ全体の感想ではないので、ご了承ください。バレエができないのも、先生のせいではなくって、全部、私のせいです。
私は飛び跳ねる系はすべて苦手です。基礎のシャンジュマン、エシャペをはじめ、海老ぞりみたいなもの、空中で足を重ねるバッチュ全般もそう。飛び跳ね系は、観るのは楽しいがいざ踊るとしんどいものです。体力が有り余っている人は好きだが、嫌いな人はとことん嫌うものです。いや、生徒の分際でバレエの好き嫌いは言ってはいけないですね。
代行の先生は特にジャンプ系が得意みたいで嬉々とされている。周囲に男性はいず、私のような年代ばかりだったので、はあはあいっている。先生、このクラスは大人バレエですよ~、もっとゆっくりめで超簡単で優雅に踊れるのがいいなあ~……が、そんなこと言えるはずがない。レッスン場は先生の独裁国家。国民ならぬ生徒は先生の指導には絶対服従です。それよりこの機会に苦手意識をやっつけるべきでしょう。
バッチュは空中で足を打ち合わせる華麗なるパなのですが、基礎だからゆっくりと一つずつ丁寧にやる。それでも、ある程度飛び上がらないとできない。ちゃんとやるとカッコいいですが、私がやるとドジョウ掬いの人のようだ……最後はメリハリ付けて、その上で手をアンオー(頭の上にするポーズ)の状態で最後はグランジャーンプ……できる人は楽しいだろうなあという素敵なパばっかり。
全くできない私はもうすべてをあきらめる。しかしバレエレッスンそのものをやめるという選択肢だけはない。鏡に映る我が身を見ないようにして順番が来たら黙々と「なんちゃって跳び」 する。
膝を壊している人のように後ろで見学という手もあるけれど、バレエレッスン参加もなかなかできないので、もったいない。息を切らしていると今度はゆっくりめの曲が流れた。ほっとしたのもつかの間。センターでバーがない状態でグランプリエを入れる振り付けが入る。実はこれも私の苦手なパの一つで、軸がないのがばれる。でも、あきらかに還暦後の人もいるクラスでこれをやるって……いや待て。私も小さい時はこれを毎週やっていたが、しんどいとか腰やひざがどうのってまったく思わなかった。私の身体がトシをとったのだ。先生のせいにしてはいけない。バレエはどの踊りもやれるように、まんべんなくさらっていくものだ。有能な先生に出会えたことを喜ぼう、はあはあ……というわけで、乱れる心と呼吸を整えなんとかついていく。
苦手ばかりやらされたが、有意義な時間だった。慣れた先生もいいけれど、今回は逆説的だが気の合う先生と出会えたと思うべきだろう。ありがとうございました。




