第32話・バレリーナの枕営業
バレエドラマのフレッシュアンドボーンのネタバレ注意。
ちょっと古いが、フレッシュアンドボーンという海外のドラマがある。ニューヨークのバレエ団内部でのどろどろの人間ドラマ。一応十八禁になっています。令和二年現在未完のまま。アマゾンプライムで独占放映権を持っているらしく、現在でも会員であれば視聴可能です。
本作はニューヨークの著名バレエ団の内部をリアルに書いたという触れ込みで、バレエ団レッスンのシーンがふんだんにある。これは現実に現役のアメリカンバレエシアターのダンサーがモブにいたるまで出演している。だからレッスンシーンは見ごたえがある。アメリカンバレエシアターは英語の頭文字をとって、ABTとなるが、ドラマの中ではアメリカンバレエカンパニーとなってABCになっている……明らかに実在のABTをもじっていて、現役のABTダンサーを使用する。アメリカのドラマっていろいろとすごいなあ。
今回はそのドラマからエッセイのテーマを取り出しました。実は第一話からバレリーナの枕営業の話が出てくるのですね……ドラマの第一話はどの脚本家も演出家も視聴率をあげるべく一番力を入れる。
……だから本作もしょっぱなからエッチシーンやバレリーナのロッカーにおける全裸シーンなどがメジロ押しです。タンポン貸してっていうセリフのために、なぜ全裸のバレリーナが出てくる必要があるのか、ハンカチで前ぐらい隠せば?……このあたり男性向けサービスでしょうね。
レッスンシーンはまじめにやっているので、レッスンシーンはおすすめします。
主人公はクレアという女の子。ぱっと見たところ控えめで地味な印象だが、踊らせば光るものをもっているというバレエ作品定番のキャラ。
クレアがどこぞのバレエ団をやめて、中断。それからニューヨークに出て改めてオーディションを受ける。無事入団できての初レッスン。
しかし、プリマのキーラにバーレッスンの場所を盗られ、クレアは、どこのバーを使えばいいかわからず、うろうろする。誰も詰めてくれない。声もかけてくれない。
すると壁側にいた男性ダンサーが、優雅な仕草でどうぞと場所を空けてくれる。が、クレアには笑顔でいながら、後ろにいた同世代の男性ダンサーに「処女の香りがする」 などいう。
そしてキーラがコカイン中毒であるのを第一話から暴露している。薬物中毒になったらバレエなぞ続けられない。大バカです。キーラは今までのこのバレエ団を引っ張ってきたのはこの私という自負がある。失敗が許されないストレスと足の痛みを飛ばすべく麻薬に走ったのだろう。
でも、キーラはラストの方ではクスリを決めてもなお、自己の踊りがクレアに劣るのがわかると潔く身を引く。落ち目のダンサーの行動と思考がかわいそうでそのあたりはとても同情した。
さて改めて本題に入ります。
バレリーナの枕営業を堂々と書いているので、本気にしないようにと願いつつ、今回はこの話。
ドラマでは、バレエ団の代表者兼振付師のポールがクレアに当たり前のように指示する。またクレアも逆らえない。バレエ団に多額の寄付をしてくれた新理事長夫妻に対して奥方には男性ダンサーをあてがっている間に、夫側に接触しろと命じる。クレアは驚きつつも指示通りに動く。ポール最低。結局は寝なかったのでよかったと思う。
これ、ちょっと前のロシアで、しかもボリショイバレエで告発があったな~と思った……これがよくある話だったらバレリーナは芸術ではなく、特殊技能付風俗嬢。まるで大昔の場末のバレリーナのパトロン探しのようだ。
日本で生まれ育ち、まじめにレッスンに励んできていざ外国で活躍しようとしたらソレだとしたら、そのショックは計り知れぬ。だからこのドラマは話半分で見た方がいい。架空の話でテレビの大奥ドラマと同じ路線だと思えば腹がたたない。
多分私はバレリーナやバレエダンサーに夢を持っているから、作中の生々しい枕営業やセクハラ、パワハラシーンに接して気分を悪くしたのだと思う。架空の話だと思いたい。麻薬についても実際にはダンサーよりもその周囲、例えば舞台係が使ってツアー最中に逮捕された、などという話を小耳にはさんだぐらいで、実際は知らない。でも麻薬常習者の末路はわかる。どういうストレスがあるにせよ、ダンサーが麻薬を使う段階でそれはもうプロではない。
現実でもバレリーナの枕営業は幸い耳にしたことはない。ダンサーとして食べていけないので副業のホステスのバイトでチケットの割り当てを買ってもらうとは聞いたことはある。
が、パワハラめいたことはある。一般会社と同じだ。不自然な人事は根拠なきうわさが飛び交う。誰しも認められたいのは同じ。その中で生き抜くためにはどんなことでもする人はいる。黙ってまじめにレッスンをしていけば自然と誰かがお膳立てしてくれると思うのは甘いかも。同じ技量のダンサーがそろっていてもその中に有力者の娘がいたら抜擢される。それが資本主義社会だ。よって種々の憎悪も生まれる。憎い相手の顔に酸をかけた人だっている。そこまでいかなくても、パワハラやセクハラはバレエだけでなく、どこの職場でもある。
やはりこの世は競争社会。才能さえあれば、レッスンさえまじめにやっておけば、コンクール受賞者であれば、大丈夫と思えない。再度書くが有力者のだれかがいつか認めて称賛してくれる、誰かがレールを敷いてくれるという甘えは持たぬ方が幸せだろう。
才能があっても、プラスアルファがなにかしら必要だということですね。お金か運かを持つべき。
ドラマ自体にはアクが強すぎて幼い子供向きではないが、海外プロを目指すなら、悪意的な展開でそういう立場に己が置かれたらどうするかを念頭に置いて視聴するのもいいかな。
男性でも例のポールがダンサーを指導すると見せかけてセクハラしてるからね……。ドラマ自体が中断してしまったのは、セクハラパワハラ横領性虐待殺人などの風呂敷を広げ過ぎて視聴率が落ちた、もしくは予算が取れなかったからだろうとみている。
バレエシーンは結構多いのでバレエ好きにはおすすめです。良いシーンがどっさりとある。
舞台が成功したらダンサーと団との力関係は逆転する。
ファンからの称賛が多くなるほど、ダンサーは見えぬパワーを得る。プロとして舞台を成功に導いたクレアに対して、パワハラなポールも頭を下げるようになる。
ポールに振り回されているが、クレアだって時には反抗する。その力関係が絶妙で面白く感じた。シーズンラスト、舞台を成功させたクレアに対してポールは軍門に下るも塩対応だ。
ドラマ冒頭の力関係が完全に逆転していて、人間って威張って暮らすものじゃないなと思いました。
本作はバレエ好きなら未完なれども一見の価値はあると思います。個人的にはクレアのお兄さんに腹立ちますけど。殺されて当然だわ……。
と、いうわけで終わります。




