表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第三章 若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/115

098◆ディー編◆ 07.二人の騎士

 答えを導き出せそうな気は、していた。

 しかし、ウッツ・コルベが他の婚約者候補となりそうな者と接触していた証言もなく、そのような書面も見つからなかった。

 シャインが相当調べてくれたが、文書も何も不備がなく、証言者も出てこない。結局はなにもわからずじまいだった。


「申し訳ございません……どうやら、勘繰り過ぎていたようです」


 そう言ってシャインが頭を下げていたが、ディートフリートはどうしても納得いかなかった。

 ウッツが文書の偽装、脅しや懐柔で婚約者候補たちを遠ざけているのだと思ったが、なにもなし。

 けれどやはり婚約者候補がいまだゲルダだけなのはおかしいと思わざるを得ない。

 他の候補者になんらかの圧力をかけているとしか思えないのだが、ウッツ一人で候補者を決めているわけでもなく、結局は手詰まりになってしまった。

 他にどうしようもできず、ウッツ本人に、なぜ他に婚約者候補がいないのかと問いかけたことがある。

 すると彼は、いけしゃあしゃあとこう答えた。


「うちの娘以上に王妃に相応しい令嬢が、他にいないからですよ。皆もそう思っているからこそ、他の令嬢を候補に出さないのでしょう」


 そのあとは、しきりにゲルダの良いところを喋りまくるウッツに心底嫌気がさして、逃げた。

 王に結婚を考えろと言われた時も逃げた。

 結婚をするつもりはないと、何度も何度でも説得した。

 弟がいるのだから自分が結婚する必要はないと突っぱねた。


 そうして突っぱね続けて、十年の歳月が流れた。


 ウッツの娘のゲルダは立派な行き遅れとなり、毎日泣いていると噂で聞いた。

 いくらそんな話を聞かされても、ディートフリートの心は動くわけがなかった。

 ずっと、結婚はしないと言い続けていたのだから。彼女に非はなく、申し訳なくは思ったが。


 二十八歳になったディートフリートは、体力の落ちた父ラウレンツに代わって、王となっていた。

 それからは、必死になって国政を運営してきた。

 ユリアーナが現在、どんな風に生きているかはまったくわからない。信用できる部下……つまりルーゼンとシャインにこっそり捜させているも、未だ行方が掴めていない。


 だから、せめて国をもっともっと良くしようと、ディートフリートは奮闘した。

 どんな人でも、どんな生まれでも、どんな生い立ちでも。

 全員が平等に、豊かに、しあわせに暮らせるようにと。

 働ける場所があり、住まうところがあり、着るものがあり、十分に食べられる物があること。

 それを目指して、ディートフリートは一心不乱に頑張った。

 戦争が起こってはいけないと、近隣諸国とは不可侵条約や友好条約を積極的に結ぼうと奮闘した。

 小さな町や村の整備や教育にも力を入れ、農家や伝統技術を支援し、国外輸出にも力を入れ始めた。


 国民の生活状況を知るために変装をし、ルーゼンとシャインを連れて町や村を調査して回る。そしてその時はこっそりと、ユリアーナの行方を捜していた。

 真犯人を見つけていない状況では、おおっぴらにユリアーナを捜すわけにはいかないのだ。

 犯人探しを諦めたくはないが、なにもできない状況が続いていた。


 この日もルーゼンとシャインを連れて、まだ捜したことのない村を視察した、帰りだった。

 野宿をすることはまずないが、昼はルーゼンが取ってきた獲物を捌いて自炊が多い。

 そうこうしているうちにディートフリートは料理を作るのが好きになり、最近では暇を見つけては王城の料理長のところに行き、色々と教わったりしている。


 この日も王であるディートフリートが直々に料理をしてルーゼンとシャインの三人で鍋を囲み、それぞれが自分でスープをよそって食べていた。


「一体、どこにいるんだろうなぁ……ユリアーナ様は」


 今回も空振りに終わり、ルーゼンが息を吐くように呟く。


「保険をかけておいてよかったですね、王」


 シャインが何年経っても変わらぬ端正な顔で、そっと笑っていた。


 もしこのまま犯人を見つけられなかったとしたら。

 弟が王位を引き継いでくれる年になるまで待ってから王位を譲渡し、王族から離脱する。

 そして堂々とユリアーナを捜して、結婚する。


 そこまで考えて、ディートフリート息を吐いた。


 ディートフリートは今、三十五歳だ。ということは、ユリアーナも三十五歳ということ。

 彼女は、本当に待ってくれているのだろうか。とうにいい人を見つけて、幸せに暮らしているのではないだろうかと。


 三十五歳にもなった男が、いまだ初恋の人を追い求めている。

 周りから見れば、さぞ滑稽な姿だろうとディートフリートは自嘲した。


「どうなさいましたか、王」

「いや……ユリアは、もう私を待ってはいないかもしれないと思ってね」


 時折不安が押し寄せ、どうにもならなくなる。

 ユリアーナの幸せを願っている。それは、紛れもない事実だ。

 ただ、それが自分でない誰かのそばで笑っているのかもしれないと思うと、嫉妬と悲しみが入り混じった、黒い感情に支配されそうになることがあった。


「大丈夫ですよ、ディートフリート様! ユリアーナ様だって、王と同じ気持ちだったんだ。絶対待っていてくれていますって!」

「憶測でものを言ってはなりませんよ、ルーゼン」

「じゃあユリアーナ様は誰かと結婚しているかもしれないから、諦めろって言うのかよ?」

「そうは言ってません。ただ、そういう可能性も否定できないということです」


 あれから、十八年だ。

 誰かと出会い、誰かと恋愛し、誰かと結ばれるには十分すぎるほどの時間が経った。

 結局真犯人は見つからず、ユリアーナを大っぴらに探すこともできず、まだ十七歳の弟に王位を譲るわけにもいかない。

 ユリアーナに会いたい気持ちだけが、日に日に募っているというのに。

 彼女は、自分のことをすでに思い出に変えているかもしれない……そう思うと、胸の奥がズシンと沈むように重くなる。


「こんな風にいつまでもユリアにこだわる私は……側から見ると気持ち悪いのだろうね」


 ぽろりと愚痴のようなものとこぼすと、二人の騎士が真剣な顔でディートフリートを見ていた。


「俺は、王のそういうところが好きですよ! 一途、いいじゃないですか! 誰にも文句なんか言わせませんよ!」

「私もルーゼンと同じ気持ちです。王がどれだけユリアーナ様を思ってきたのか、そのためにどれだけの努力と苦労をなさってきたのかを、我々は知っています。尊敬こそすれ、気持ち悪いなどと思うはずがございません」

「ルーゼン、シャイン……」


 この二人だけは、本当に自分を理解してくれているのだなと、胸の奥から熱いものが溢れてくる。


「お、シャインがディートフリート様を泣かせたぞ」

「私だけじゃないでしょう」

「これだけユリアーナ様を思ってずっと童貞でいるんですから、ユリアーナ様も処女を守ってくれていますって!」

「ルーゼン、言葉に気をつけなさい」


 二人のやりとりを聞いて、ディートフリートは思わず吹き出した。

 あははと声をあげて笑うと、ルーゼンとシャインの瞳がこちらを向いて優しく笑っている。

 いい部下に恵まれて本当によかったと、ディートフリートは心から二人に感謝した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼あなたはまだ本当の切なさを知らない▼

神盾列伝
表紙/楠 結衣さん
あなたを忘れるべきかしら?
なぜキスをするのですか!
 愛した者を、未だ忘れられぬ者を、新しい恋をすることで上書きはできるのか。

 騎士アリシアは、トレジャーハンターのロクロウを愛していた。
 しかし彼はひとつの所に留まれず、アリシアの元を去ってしまう。
 そのお腹に、ひとつの種を残したままで──。

 ロクロウがいなくなっても気丈に振る舞うアリシアに、一人の男性が惹かれて行く。
 彼は筆頭大将となったアリシアの直属の部下で、弟のような存在でもあった。
 アリシアはある日、己に向けられた彼の熱い想いに気づく。
 彼の視線は優しく、けれどどこか悲しそうに。

「あなたの心はロクロウにあることを知ってて……それでもなお、ずっとあなたを奪いたかった」

 抱き寄せられる体。高鳴る胸。
 けれどもアリシアは、ロクロウを待ちたい気持ちを捨てきれず、心は激しく揺れる。

 継承争いや国家間の問題が頻発する中で、二人を待ち受けるのは、幸せなのか?
 それとも──

 これは、一人の女性に惚れた二人の男と、アリシアの物語。

 何にも変えられぬ深い愛情と、底なしの切なさを求めるあなたに。
キーワード: R15 残酷な描写あり 魔法 日常 年の差 悲恋 騎士 じれじれ もだもだ 両思い 戦争 継承争い 熟女 生きる指針 メリーバッドエンド


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ