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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第三章 若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

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95/115

095◆ディー編◆ 04.別れ

 気づけば夜も更けていて、窓から覗く月が高く昇っている。

 できることをすべてやり終えてしまうと、無性にユリアーナに会いたくなった。

 もうずっと会っていない。会わせてもらえない。

 会うよりも、犯人捜しに躍起になっていたことを今になって後悔した。結局真犯人がわからず仕舞いなら、ユリアーナとの時間を大切にすればよかった。

 明日、婚約破棄を告げるだけで終わるなんて、つらすぎる。

 だからといって、こんな時間にユリアーナの部屋に行っても、お付きの使用人に追い返されるだけだろう。どうにか方法はないだろうかと考えていると、軽いノックの音がした。

 シャインだったので入室を促すと、彼は足を忍ばせるように部屋に入ってくる。


「王子、行きましょう」

「行くって、どこに」

「ユリアーナ様のお部屋です。二人で話ができるのは、今日しかございません」

「気持ちは嬉しいけど、ユリアーナの部屋の前にはお付きの者が……」


 ディートフリートの疑問に、シャインは端正な顔を綻ばせた。


「ルーゼンに連れ出させました。今がチャンスです」

「え? どうやって」

「説明している暇はありません。行きますか、行きませんか」

「行く!」


 走りたい気持ちをグッと(こら)えて、誰に会ってもいいように平常心で歩く。

 無事ユリアーナの部屋の前に来ると、なるほど確かに誰も付き人はいなかった。女性相手のことだ。ルーゼンがどう動いたのかは、なんとなく想像がついた。


「私はここで見張っております。なるべく早くお戻りください」

「わかった、ありがとうシャイン」


 ディートフリートがノックして名前を告げると、ユリアーナはすぐに扉を開けて中へと入れてくれる。


「ディー……!」

「久しぶりだね、ユリア。でも時間がない。よく聞いて」


 今までなら、こんな夜中に来ても絶対に入れてくれなかっただろう。そのユリアーナが躊躇せず入れてくれたということ。彼女もなにかおかしなことになっていると、勘づいているに違いない。

 久しぶりに会った婚約者は、美しくも不安げで、ぎゅっと抱きしめてあげたくなる。

 しかし今はとにかく、説明をしてあげなければと口を開いた。


「君の父親……ホルストは、不正を働いていた。機密情報を敵国に売り、国庫からは多額のお金を持ち出していたんだ」


 ユリアーナの顔が真っ青になり、怒りと悲しみの表情が入り混じる。

 そんなことをするはずがないというユリアーナの訴えに、証拠がそろってどうしようもなくなってしまったことを告げた。彼女の唇が、微かに震えている。


「うそ、ですわよ、ね?」

「本当、なんだ。明日、僕は君に婚約破棄を言い渡さなきゃいけない」


 ユリアーナの目の色が一瞬消えたかと思うと、徐々に涙で潤み始めてしまった。


「私は……ディーと、一緒にはなれないのですか……?」

「ごめん……ごめん、ユリア……!」

「私は、どうなるのですか……」


 ユリアーナを、泣かせてしまった。

 こんな顔をさせてしまったのは、己の不甲斐なさのせいだとディートフリートは自分を責めた。


「僕も父上も、君と母君には出来るだけの配慮をと考えている。だから、逃げずに明日を迎えてほしい。逃げられてしまうと……もう僕には手の施しようがなくなってしまうから」


 ユリアーナは、ディートフリートを信じてコクリと頷いてくれた。

 その姿があまりに悲しくて。こんなに愛する人が震えているというのに、何もしてあげられない自分が悔しくて。

 ディートフリートの目からも、ぽろりと涙がこぼれ落ちる。


「ごめん……できるなら、ユリアと一緒に僕も……」

「ディー……」


 言ってはダメな言葉だとわかっていても、言わずにはいられなかった。

 そんなディートフリートに、ユリアーナは首を振っている。


「どうか私のことなどお気になさらず、国民のためにその手腕をお振るいくださいませ。ディーは、この国に必要なお方ですもの」

「ユリアーナ!」


 泣きながらも強がるユリアーナが、痛々しくて、悲しくて、せつなくて。

 ディートフリートはぐんっとユリアーナを抱き寄せていた。

 腕の中にすっぽりとはまったユリアーナは、思っていたよりもずっと小さく柔らかい。


「ディー……」

「僕は、君以外の誰とも結婚しない!」

「……っ」


 ユリアーナが、悲しそうにディートフリートを見つめてくる。

 不可能だ、と思っているのだろう。

 ディートフリートは一人っ子で、次の王になることが決まっている。世継ぎが必要なディートフリートは、誰かと結婚せねばならない運命にある。犯罪者の娘以外の、王に相応しい女性と。

 だからこそ、ディートフリートは心で誓った。

 必ず真犯人を捕まえ、アンガーミュラー家の汚名を返上してみせると。

 ユリアーナの地位と名誉を取り戻せたその時には、結婚できるはずなのだから。


「誰より愛してるよ。だから……待っていてほしい」


 もし、犯人を見つけられなかったら──

 ディートフリートは、一瞬よぎったその考えを振り払う。


 ユリアーナはこくりと頷いてくれて、気が引き締まった。

 捕まえるのだ、絶対に。

 この約束を、ユリアーナの枷にしないように。残酷な約束にしないために。


 二人しかいない部屋で、ディートフリートはユリアーナの頬に手を触れる。

 うつむいていた彼女の顔をあげると、そっと唇を落とした。


 ユリアーナの柔らかな感触が伝わってきて。

 お互いに初めてであることが嬉しく、しかしこんな状況であることが悲しすぎて。


 二人はどちらからともなく、互いを抱きしめ合った。


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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
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ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
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