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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第三章 若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

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92/115

092◆ディートフリート編◆ 01.運命の人

ここからはユリアーナとディートフリートの話に戻ります。

まずはディー視点のお話、途中でユリアーナに視点が戻ります。

 ディートフリート・ヴェッツ・ラウツェニングは、生まれた時から王になることを定められていた。

 幼い頃から徹底して帝王学を叩き込まれ、わずか十歳という年齢で将来の相手も決められる。


 その婚約者の名は、ユリアーナ・アンガーミュラーといった。


 ユリアーナは、王の側近であるホルストの一人娘だ。侯爵家の中でも王家との親交が深く、ホルストは王の信頼も厚かったので、この決定は必然だろう。少し体は弱かったが、側近として有能だった厳しくも優しいホルストを、ディートフリートは尊敬していた。

 そんな彼の娘ユリアーナは本当に愛らしい人で。ディートフリートは、出会った瞬間から彼女に心惹かれていく。

 ユリアーナもディートフリートのことを好きだと言ってくれて。

 だから、ディートフリートも言い続けた。


「ユリア、だいすき」……と。


 するとユリアーナも、「ディー、わたしもだいすきです」と返してくれるのだ。


 それは出会った十歳の頃から、現在の十七歳になる今も、ずっと続いているやりとりだった。




 結婚は、ディートフリートが十八歳になればする予定だが、それがまた長い。

 ディートフリートは、健全な男子である。

 いくら教育係に『結婚するまでは、手を握る以上のことをしてはいけない』と言われていたって、興味もあるし、好きな女の子には触れたいしキスもしたい。

 そんな考えが態度に出てしまっていたのだろうか。勉強をするディートフリートの後ろから、護衛騎士に声をかけられた。


「ディートフリート様」

「なに、ルーゼン」


 護衛騎士であると同時に、ディートフリートの監視役でもあるルーゼンを見上げる。


「本日、ユリアーナ様がお見えになりますが」

「わかっているよ。だからこうやって勉強を終わらせようと頑張っているんだ」

「さすがは王子です。けどこの前のように、ユリアーナ様にキスをしようなんて思わないでくださいね?」


 そう言われて、ディートフリートはじろっとルーゼンを睨んだ。

 ディートフリートは十七歳、騎士のルーゼンは二十四歳である。ルーゼンはディートフリートの部下だが、同時に兄のようにも思っていた。


「じゃあ聞くけど、ルーゼンが初めて女の子とキスしたのはいつ?」

「いつでしたかね。多分、十三歳だったと思いますが」

「僕はもう十七だよ。キスくらい、経験してもいい年だと思うんだけど」

「やめてください、俺たちの首が飛びます。なぁ、シャイン」


 ルーゼンがもう一人の護衛騎士に話しかける。ディートフリートの専属護衛騎士は、この二人だ。

 シャインは現在二十七歳で、ディートフリートの専属になってもう八年になる。


「王子も年頃ですから、お気持ちはよくわかります。ですが決まりを破られると、私どもも困りますので、どうかここは耐え忍んでください」

「僕がユリアとキスしたことを、二人が黙っていればいい話じゃないかな」

「もしバレてしまった時には、私は愛する妻と可愛い娘ともども、路頭に迷うことになりますね」


 そんな風に言われては、返す言葉がなかった。

 ルーゼンもシャインも、ディートフリートにとってとても大切な人だ。自分のわがままで、彼らの家族を巻き添えるわけにはいかない。


「はぁ、わかったよ。ちゃんと自重する」

「それでこそ王子です」

「やっとわかってくれましたかー!」

「うん、多分ね」

「多分かい!!」

「不敬ですよ、ルーゼン」


 ははは、と三人の笑い声が部屋に響く。

 ディートフリートが、ユリアーナと家族の次に大切にしているのがこの二人だ。

 他の者は一歩引いて接してくるが、この二人には遠慮がない。それがディートフリートには心地良い。


 勉強を時間通りに終わらせると、ディートフリートはユリアーナに会いに行った。

 約束のバラが咲き誇る庭園で、彼女は凛と立っている。


「ユリア!」

「ディー!」


 振り向く彼女は本当に愛らしく、そして完璧なカーテシーが美しい。

 優しく抱きしめて、この腕の中で存分にキスしたくなる。

 せめて、せめて頬にだけでも。


「ユリア、今日もきれいだよ」

「ありがとうございます。ディーにいただいたネックレスがとても嬉しくて、頑張ってしまいましたの」

「つけてくれたんだね、ありがとう。ネックレスがなくてもユリアはとてもきれいだし、大好きだよ」

「私も、そのままのディーがだいすきです」

「ユリア……」

「近い近い! 近いですよ、ディートフリート様!!」


 唐突にルーゼンの声が割って入る。毎度のこととはいえ、げっそりとしてしまう。


「ちょっと、ほっぺにするだけだよ」

「いけませんて。何度言わせるんですか」

「敷地内で護衛なんていらないのになぁ」

「監視役は必要ですからね。油断も隙もない」


 息を吐くルーゼンとむくれるディートフリートとのやりとりに、ユリアはくすくす笑っている。


「ユリア……」

「あと一年の辛抱ですわ、ディー」

「……そうだね」

「婚姻の日が、とても楽しみです」

「僕もだよ、ユリア」

「はーい、ストーップ!」


 またもルーゼンにグイッと引っ張られる。護衛騎士を睨むディートフリートを見て、やはりユリアーナはクスクスと笑っていた。

 ユリアーナの可憐に笑う姿をディートフリートは本当に愛おしく思っていた。

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
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ロゴ/貴様 二太郎さん
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それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

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己の使命のために。
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 彼は筆頭大将となったアリシアの直属の部下で、弟のような存在でもあった。
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