表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/115

089●フロー編●80.ずっと一緒に

 ツェツィーリアとイグナーツは、オルターユ王国のモワノという街に住んでいるらしい。

 長い旅路を終えてその街に入ったフローリアンとラルスは、見慣れぬ景色にきょろきょろとあたりを見回す。

 街は大きくて人口も多そうだが、周りは山や川などの自然に溢れている。それに海もあるそうで、内陸の国に住んでいたフローリアンたちは胸を鳴らした。


「広い街ですね」


 ラルスはメイベルティーネを胸に抱きながら、ほうっと息を吐いている。

 ハウアドル王国の王都のように広いわけではないが、活気のある賑やかなところだ。


「ここは芸術の街とも言われているって馬車の中で聞いたけど、あちこちで絵を描いたり音楽を奏でたりしてるんだな。すごい」


 目に鮮やかな絵があったり、彫刻が飾られていたり、耳に心地よい音楽が流れていたりして、飽きのこない街だ。

 ラルスが壁一面に描かれた街の地図を見つけて確認したあと、手紙に書かれた住所に向かって歩き始めた。


「フローラ、こっちです」

「わ、待って!」


 振り向いたラルスに手を差し出されて、フローリアンは手を握る。


「迷子にならないでくださいね」

「ラルスの方こそ……!」

「俺、さっきの地図でこの街の道を全部把握したんで」

「相変わらず、ラルスの記憶力はどうなってるんだよ」

「はははっ」


 ラルスは楽しそうに笑っていて、フローリアンは口を少し尖らせてみせた。


「僕はこれだけの街、覚えるのには時間がかかりそうだ」

「もし迷子になっても、必ず見つけ出しますよ」

「……うん」


 優しい瞳になったラルスの手をぎゅっと握る。日の当たる場所でこんなことができる日が来るとは、思ってもいなかった。


「こんな風に街中を歩けるなんて、夢みたいだ」


 少し前までは、考えられないことだった。街がきらきらと光って見えるようで、胸がきゅうっと嬉しさを訴えてくる。


「こ、恋人に、見られてるかな……?」


 目だけで見上げると、太陽の光がラルスを煌めかせる。


「ベルもいるし、夫婦に見られてると思いますよ」

「そ、そっか」

「フローラ」

「ん?」


 ラルスのまっすぐで真面目な瞳に吸い込まれそうになった瞬間。


「ちゃんと式を挙げますから。少しの間、待っていてください」


 真剣な声音に、フローリアンの心臓はどくんと跳ねる。

 みんなに祝福される結婚式。フローリアンが誰より望んでいたことだ。それに気づいてくれていたことが、なによりうれしい。


「うん……待ってる」


 フローリアンはぎゅっと手を握ると、ラルスの腕に密着しながら歩いた。

 そうして街の中をずっと進んでいると、どこからかピアノの音色が耳に入ってくる。


「これ、〝愛しのあなた〟だね。オルターユ王国でもポピュラーな曲なのかな」

「そうかもしれませんね。ダンスも盛んな国のようですし」

「あのね、僕、この曲で……」

「あ、ここですよ、フローラ! ツェツィーリア様の住む家は」

「え?」


 ふと左を見ると、周りに比べて広い庭に煉瓦造りの大きな家が建っている。ピアノが聞こえてくるのは、そこからだ。


「こ……こ? じゃあ、この曲を弾いているのは……」

「フロー様?!」





挿絵(By みてみん)

イラスト/遥彼方さま・星影さき様




 りんと鈴の鳴るような声と同時に、ピアノの音が止まった。

 大きな家の窓から見えるのは、長い銀髪の美しい女性と、背の高い金眼黒髪の男性の姿。


「ツェツィー!!」

「フロー様……フロー様!!」


 ツェツィーリアはその窓から遠ざかったかと思うと、玄関から飛び出してきた。フローリアンも思わず庭に入り込み、駆け寄ってくるツェツィーリアを迎える。


「フロー様……本当にフロー様ですわ……!」

「本物だよ! 僕も国を出てきたんだ」

「ええ!?」


 驚いているツェツィーリアの後ろからイグナーツもやってきた。フローリアンは二人に向かって事の経緯を説明する。


「ハウアドル王国は、兄さまが王位を継いでくれたんだ。僕が女だってこともすべて話した」

「そう……でしたの……そうでしたの……! ようやくフロー様は、女として生きられるのですわね……」


 ツェツィーリアの手がフローリアンの頬を撫でていく。その目からははらはらと涙が溢れ落ちていて、フローリアンも込み上げてきた。


「ツェツィー、僕より先に泣いちゃってるじゃないか……」

「だって、嬉しいのですわ……フロー様が、ようやく、ようやく女として生きられて……こんなに早く再会できるなんて、思っていなかったんですもの!」


 いつか必ず会おうと小指を絡ませてした約束。

 それは、遠い遠い未来の話だと思っていた。

 メイベルティーネが女王となり、フローリアンが退位して……それからのことだと。

 フローリアンが女に戻るのも、ラルスと正式に夫婦になるのも、ツェツィーリアと会えるようになるのも。


「僕も、こんなに早く願いが叶うなんて思ってなかった……会えて嬉しい……嬉しいよ、ツェツィー!」

「フロー様ぁ……っ」


 わっと声を上げると同時に、抱き合いながら涙を流した。ひっくひっくと二人してしゃくり上げる。

 さんさんと降り注がれる日差しが今までの苦しみを消すように、優しく温めてくれた。

 しばらくして少し落ち着くと、そっと離れたツェツィーリアが少し微笑みを見せる。


「これからは、ずっと一緒にいられるんですの……?」

「うん……ツェツィーたちさえ良ければ、近所に住みたいよ」

「今、隣が空き物件でしてよ!」

「え? 本当に?」

「フロー様から見れば、小さな家だとは思いますが……」

「構わないよ、執務室くらいの大きさがあれば、そこで充分事足りてたんだから。ねぇラルス、ツェツィーたちの家の隣でもいい?!」


 後ろを振り返ると、ラルスが微笑みながら「もちろん」と頷いてくれて、フローリアンとツェツィーリアは手を取り合って喜んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼あなたはまだ本当の切なさを知らない▼

神盾列伝
表紙/楠 結衣さん
あなたを忘れるべきかしら?
なぜキスをするのですか!
 愛した者を、未だ忘れられぬ者を、新しい恋をすることで上書きはできるのか。

 騎士アリシアは、トレジャーハンターのロクロウを愛していた。
 しかし彼はひとつの所に留まれず、アリシアの元を去ってしまう。
 そのお腹に、ひとつの種を残したままで──。

 ロクロウがいなくなっても気丈に振る舞うアリシアに、一人の男性が惹かれて行く。
 彼は筆頭大将となったアリシアの直属の部下で、弟のような存在でもあった。
 アリシアはある日、己に向けられた彼の熱い想いに気づく。
 彼の視線は優しく、けれどどこか悲しそうに。

「あなたの心はロクロウにあることを知ってて……それでもなお、ずっとあなたを奪いたかった」

 抱き寄せられる体。高鳴る胸。
 けれどもアリシアは、ロクロウを待ちたい気持ちを捨てきれず、心は激しく揺れる。

 継承争いや国家間の問題が頻発する中で、二人を待ち受けるのは、幸せなのか?
 それとも──

 これは、一人の女性に惚れた二人の男と、アリシアの物語。

 何にも変えられぬ深い愛情と、底なしの切なさを求めるあなたに。
キーワード: R15 残酷な描写あり 魔法 日常 年の差 悲恋 騎士 じれじれ もだもだ 両思い 戦争 継承争い 熟女 生きる指針 メリーバッドエンド


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ