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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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087●フロー編●78.告白

 ディートフリートはフローリアンの退位発言を聞いて、首を横に振り始めた。


「今はフローの支持が高まってきている。この大事な時期に交代などするものじゃないよ。私はエルベスでの生活が気に入っているし、ここに戻ってくる理由はない」

「理由、ですか……ツェツィーがここにいないから、というのは理由になりませんか」


 ディートフリートはユリアーナが王都にいなくなって追いかけた身だ。これを否定することは、己のやったことも否定することになるはずである。


「ツェツィーリアのことは、本当に残念だったと思うし、フローも愛する人を失ってつらいだろう。しかしもう彼女は生きてはいないのだし……」

「いいえ、生きています」


 フローリアンがそういうと、ディートフリートは憐みの顔に変わった。


「フロー……そう思いたいのはわかるが……」

「本当です。ツェツィーは愛する者と駆け落ちをしたので、殺されたことにしておきました。二人を国境沿いまで送って行ったのは、ルーゼンですよ」


 そういうと、ディートフリートがバッとルーゼンを振り返った。


「本当か?」

「本当です。ツェツィーリア様は生きてらっしゃいます」

「どうして言わなかった?!」

「誰にも言うなという陛下のお達しだったんで……すみません。あと、俺もどうしてそんなことになっているのか、よくわかってないんですよ。理由を聞く間もなく送り届けなきゃいけなかったんで」


 ルーゼンはなにも言わずに命令をこなしてくれていたが、どうしてフローリアンが愛する妻の駆け落ちを手助けしたのか、理解できていないだろう。理由もわからず、不可解だったに違いない。

 首を傾げあっているディートフリートとルーゼンに構わず、フローリアンは言った。


「僕は王の器ではありません。この国はやはり、兄さまが治めるべきだと思っています」

「王位を退くといっても、今フローを支持している者はそう簡単に納得しないだろう」

「大丈夫ですよ。僕は持病持ちという設定ですから」

「設定?」


 その時、ディートフリートの向こう側で、シャインがハンドサインを送ってくれているのが見えた。ラルスが戻ってきたことを告げられ、フローリアンも手で入るよう指示する。

 シャインの開けた扉から、ラルスがメイベルティーネを連れて戻ってきた。

 ラルスが隣に来ると、フローリアンはメイベルティーネを受け取って抱き上げる。そして少し下がろうとするラルスを引き留め、そのまま隣に立たせた。


「兄さま、ユリアーナ。僕の娘のメイベルティーネです」


 今日は機嫌が良いようで、メイベルティーネはキョトンと同い年のリシェルを見つめている。


「そうか、この子がツェツィーリアの忘れ形見のメイベルティーネ……いや、ツェツィーリアは生きているんだったな」

「兄さま、この子にツェツィーの血は入っていません」

「……フローに側室がいたというのは聞いたことがなかったが」

「側室ではありませんよ。僕が真に愛する人の子です」

「誰だい?」

「目の前にいる、ラルスですよ」


 ディートフリートはフローリアンを見た後、次にラルスに視線を移してじっと見ている。


「えーと、ラルスは男に見えるんだが……男だったよな?」

「はい、俺は男で間違いないです」


ラルスの宣言に、ディートフリートは不可解そうに眉を顰めた。


「ラウツェニングの血が入らないラルスの子どもを、どうしてフローとツェツィーリアの子として育てているんだ? 国民を騙しているのか?」

「はい、兄さま。僕はずっとずっと、国民を騙していました」


 フローリアンはメイベルティーネをラルスに託すと、真っ直ぐにディートフリートを見上げた。


「兄さま、この子は間違いなくラウツェニングの血が入っています。僕が産んだ、僕とラルスとの間の子ですから」

「………………………………なん、だって……」


 ディートフリートが一歩後退し、頭を抱えている。ディートフリートを支えるようにユリアーナが手を置き、その目をフローリアンに向けた。


「陛下は……女性、だったのですね……?」

「うん。僕は生まれたときから、ずっと女だったんだ。男の世継ぎが必要だったから……僕は、男として育てられた」

「そん、な……!」


 フローリアンの告白に、ディートフリートは大きなショックを受けたようで、今にも倒れそうに顔を青ざめさせている。


「私のせいか……私が母上を追い詰め……フローを男として育てなければいけなくなってしまったのか……」

「ディー……!」


 ユリアーナがつらそうにディートフリートを支える。ディートフリートにそうさせたのはユリアーナの存在があったからで、彼女の顔にも罪悪感が浮かんでいた。


「すまない、フロー……二十四年間も……一言、教えてくれていたら……っ」

「みんな、兄さまが好きだったんです。だから言えなかった。言いたくなかった。兄さまが幸せになってほしかったから……僕も同じです」

「だが、フローの幸せを引き換えにしようなどとは思っていなかった!! すまない、フロー……本当にすまない……っ」


 涙もろい兄は、ぼろぼろと涙を溢れさせながらフローリアンを抱きしめてくれた。

 こんな兄だからこそ、そしてずっとつらい思いをしてきたからこそ、ディートフリートには幸せになってほしいと、みんな願ったのだ。


「謝らないでください。僕には愛する人ができて、子も産むことができた。僕が兄さまに望むことは、ただひとつです」


 そういうと、ディートフリートはゆっくりフローリアンから離れて、力強く首肯してくれる。


「わかった。私が王位につこう。フローは女に戻って……今までの分も、どうか幸せに暮らしてほしい……」

「はい、ありがとうございます……兄さま……っ」


 兄の止まらぬ涙を見ていると、フローリアンまでもらい泣きしてしまいそうだ。

 やっぱりこの優しい兄が大好きなのだと再確認したあと、フローリアンは頭にある王冠を外した。


「フロー……」

「僕たちだけの戴冠式だ」


 そういうと、ディートフリートはすぐさまその場に跪いた。

 フローリアンはそんな兄に、王としての言葉を掛ける。

 

「我フローリアン・ヴェッツ・ラウツェニングは、汝ディートフリート・ヴェッツ・ラウツェニングを第五十八代ハウアドル国王に任命する。この国の誰もが笑顔で平等に過ごすための、たゆみなき努力を惜しまぬよう、肝に銘じよ」


 ラルス、ユリアーナ、シャイン、ルーゼン、それにメイベルティーネとリシェルが注目する中、フローリアンは目の前にいる兄の頭に、王冠をそっと乗せた。

 ディートフリートは頭を垂れたまま、よく通る声を響かせる。


「しかと拝命しました。私ディートフリートはハウアドル王国のため、民の笑顔のため、尽力することをここに誓います」


 誓いの言葉を言い終えるとディートフリートは立ち上がり、フローリアンを見て優しくも強く笑ってくれた。

 その頼もしい姿は、誰が見ても王の中の王だ。


「やっぱりそれは兄さまが一番似合っています。兄さまは、王となるべくして生まれてきた人ですから」

「ありがとう、フロー。今以上にいい国にしてみせるよ」

「ふふ、兄さまほど優れた王はこの世にいないので、心配なんかしませんよ」


 フローリアンがそう微笑むと、ディートフリートは「本当に女の子だったんだな」と呟き。

 この国の新しい王となる男は、妹にありったけの愛情を注ぎながら、抱きしめてくれた。

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
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最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
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行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
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弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

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「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
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異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
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婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
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そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

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王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
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たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
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そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

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キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
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▼あなたはまだ本当の切なさを知らない▼

神盾列伝
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なぜキスをするのですか!
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― 新着の感想 ―
[良い点] ようやく本来のあるべき形に(T_T) フローリアン、お疲れさまでしたね。 お見事な全方位ハッピーエンドに向けて、あと少しでしょうか。 最後まで、見届けたいと思います!
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