表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/115

085●フロー編●76.約束

 ドラドが投獄されると、シャインはすぐさま王都を飛び出していった。

 臨時の議会を開き、ドラドの悪事を証明するものをすべて提出すると、当然重い処罰が科せられることとなった。

 ドラドは六十を過ぎているので、もう外の空気を吸うことなく、生涯を終えるだろう。

 ウッツにも、クーデターに加担し実行したこと、一度目の横領にも関わっていたとして処分がくだされた。


 これでホルストの名誉が守れた。つまり、ユリアーナも犯罪者の娘ではなくなる。


「ラルス」


 フローリアンは二人きりになると、そっとラルスに抱きついた。


「どうしたんですか?」

「全部終わったと思ったら、安心したんだ」


 そう言いながら顔を上げると、ラルスは微笑んで頭を撫でてくれる。


「お疲れさまでした。この数日、ずっと忙しかったですしね」

「そうだね。ようやく少しのんびりできるよ」

「お茶を淹れるよう言ってきましょうか」

「ううん。久しぶりに、ラルスの淹れたお茶を飲みたいな」

「いいですよ」


 そう言ってラルスは一度、部屋を出ていった。

 ツェツィーリアがいなくなってから、メイベルティーネは別室で侍女たちが見てくれている。

 母のエルネスティーネがフローリアンをずっと面倒見てくれていたように、フローリアンも我が子の面倒を見てあげたいと思っていた。しかし分単位でスケジュールが決められている王という立場では、なかなかそれも難しい。

 ラルスと一緒に一日数度、顔を見にいくのが関の山だ。一緒に遊んであげられる時間が少ないことに、申し訳なさが募る。

 この部屋に戻る前もメイベルティーネに会いにいってきたが、すやすやと眠ったあとだった。

 もう一歳をとうに過ぎているというのに、『ママ』という言葉が出てきていないことが、つらい。


「やっぱり、僕は……」


 胸の奥がぎゅっと締め付けられる感覚。

 メイベルティーネの母親でありたい。

 その思いが消えることは、絶対にない。


「どうしたんですか、フローラ」


 ラルスがポットを持って部屋に戻ってきた。

 慣れた手つきでお茶を注いでくれ、フローリアンはラルスと共にほっと息をつく。


「うん、おいしいよ。最初の頃のお茶が嘘みたいだ」

「それ、一生言われそうですね」

「ふふ、一生言うよ」


 ずっと、ラルスのそばで。

 最初のお茶が不味かった話を、何度も……何度でも。

 ラルスはそれでも嬉しそうに笑っていて、フローリアンもクスクスと笑う。


「ああ、そういえばブルーノですが、ゲルダとはそのまま婚姻関係を続けていくそうですよ」

「そうなのか?」


 ブルーノは捜査に協力的だったことと情状酌量の余地があるとして、処罰は軽いものだった。

 ドラドの命令で交わした婚姻だったのだから、この婚姻は無効にするか離婚するかを選ぶものだと思っていたが、ブルーノが選んだのはまさかの婚姻継続だ。


「一度は覚悟を持って結婚したのだから、最後まで責任はとるつもりみたいですね。ブルーノらしいですけど」

「へぇ……まぁ本人がいいなら、僕は別に構わないんだけど」


 人には色んな形の結婚があるのだろう。

 ブルーノとゲルダは周りに利用されて巻き込まれただけの、不運な人間だ。どうしたって憐れみを感じてしまう。


「二人とも、幸せになれるといいな」

「そうですね」


 ラルスはお茶を飲みながら、にこにこと笑顔をこちらに向けていて、フローリアンは首を傾げた。


「なに?」

「いえ。フローラは二人の幸せを願える、優しい人だと思うと嬉しかったんです」

「そう、かな?」

「そうです。だから俺は、そんなフローラが大好きなんですよ」


 ストレートに褒められ、好きだといわれると顔が熱くなる。

 ラルスはずっと嬉しそうに笑っていて、「僕だって好きだよ」と小声で言い返すと、「俺の方が好きです」と自信満々に言い返されてしまった。


「はは、赤くなってるフローラ、かわいいです!」

「もう、ばかっ」

「怒ってるフローラも……」

「もういいから!」


 無理やり会話を終了させるも、ラルスはにこにこと楽しそうだ。

 フローリアンは思わず少し浮かせてしまった腰を戻すと、椅子に座り直してカップを口につけた。


「今頃、シャインは兄さまに知らせてるかな」

「きっともう伝わってますよ。シャイン殿は町ごとに馬を変えて、夜通し走るつもりのようでしたから」

「怪我も治り切ってないんだから、無茶しなきゃいいんだけど」

「それだけ早く伝えたいんですよ」


 ディートフリートやユリアーナは、シャインの報告を受けてどんな顔をしただろうか。それを想像すると、ふふと笑みが漏れてくる。


「兄さまたち、いつ頃こっちにくるかな」

「まだ一歳のリシェル様がいるし、ゆっくりこられると思いますよ」

「うん。早く会いたいな。兄さまに、僕たちのベルを見てほしい」

「俺たちのベル、って……」


 少し目を開くラルスに、フローリアンは飲み終えたカップを置いて立ち上がった。

 それに合わせるようにラルスも立ち上がり、フローリアンはゆっくり近づくと、再度ぎゅっと抱きつく。


「ねぇ、ラルス」

「なんですか?」

「僕のわがまま、聞いてくれる?」

「なんなりと」


 戸惑うことなく出された言葉に、フローリアンはラルスの頭を抱えるようにして背伸びする。ラルスが少しかがんでくれると、そっとその耳元で囁いた。

 その声を聞いたラルスは、優しい目をさらに細めて。


「もちろん」


 誓うように、キスをしてくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼あなたはまだ本当の切なさを知らない▼

神盾列伝
表紙/楠 結衣さん
あなたを忘れるべきかしら?
なぜキスをするのですか!
 愛した者を、未だ忘れられぬ者を、新しい恋をすることで上書きはできるのか。

 騎士アリシアは、トレジャーハンターのロクロウを愛していた。
 しかし彼はひとつの所に留まれず、アリシアの元を去ってしまう。
 そのお腹に、ひとつの種を残したままで──。

 ロクロウがいなくなっても気丈に振る舞うアリシアに、一人の男性が惹かれて行く。
 彼は筆頭大将となったアリシアの直属の部下で、弟のような存在でもあった。
 アリシアはある日、己に向けられた彼の熱い想いに気づく。
 彼の視線は優しく、けれどどこか悲しそうに。

「あなたの心はロクロウにあることを知ってて……それでもなお、ずっとあなたを奪いたかった」

 抱き寄せられる体。高鳴る胸。
 けれどもアリシアは、ロクロウを待ちたい気持ちを捨てきれず、心は激しく揺れる。

 継承争いや国家間の問題が頻発する中で、二人を待ち受けるのは、幸せなのか?
 それとも──

 これは、一人の女性に惚れた二人の男と、アリシアの物語。

 何にも変えられぬ深い愛情と、底なしの切なさを求めるあなたに。
キーワード: R15 残酷な描写あり 魔法 日常 年の差 悲恋 騎士 じれじれ もだもだ 両思い 戦争 継承争い 熟女 生きる指針 メリーバッドエンド


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ