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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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077●フロー編●68.最初で最後の

 

 ──フロー様……お下がりくださいませ……わたくしが、確認いたしますわ──


 ツェツィーリアがそう言ってくれた。

 手が震えて開けられないフローリアンの代わりに。

 開けるのが怖かった。だから、ツェツィーリアに託した。


 そのツェツィーリアが扉の鍵を開けてノブを回した瞬間。


「きゃあああああ!!」


 扉が倒れ込むように開き、赤髪の騎士が倒れ込んできた。


「ラルス!!」


 フローリアンが駆け寄ると、むっと血の匂いがする。扉の向こう側は血の海で、誰もピクリとも動いていない。ツェツィーリアはその光景を子どもたちに見せまいと、急いで扉を閉めている。


「ラルス、ラルス!!」

「……王……すみ、ません……」

「ラルス、なにを謝ってるんだ……!」

「疲れて、返事、できませんでした……」


 はっはと息を切らしながら、ラルスはそう言った。

 全身血だらけではあるが、ほとんどが返り血のようだ。大きな外傷は見当たらず、フローリアンはほっと息を漏らす。


「もうっ、死んだかと……思ったよ……ばかぁ!」

「死にませんよ……剣帯に、刺繍、してもらいましたから……」


 ラルスはそう言いながら、体を起こして床に座り、壁に背をつけた。


「これ、僕に渡しちゃうんだもん……ラルスが持ってないと、意味ないのかと思うじゃないか……っ」

「はは、すみません……俺はこの通り、無事ですよ。ちゃんと、帰ってきました。あなたの元に」


 ラルスの笑顔を見るとようやくほっとして、涙が込み上げてくる。そんな震えるフローリアンを見て、ラルスは優しく目を細めてその唇を開いた。


「言ったじゃないですか……必ずただいまと、あなたの元に帰ってくるって」

「……うん」


 もしもの話で結婚をした時の約束。ラルスは、ちゃんと戻ってきてくれた。


「ただいま、フローラ」

「おかえり……っ」


 フローリアンにしか聞こえないくらいの小さな声を耳元でささやかれて、ラルスにぎゅっと抱きつく。

 無事で良かった。生きていてくれて、本当に。

 少しの間そうしていると、ようやく冷静になれたフローリアンはラルスの胸から離れた。


「ここにいた者は、みんな死んでしまったのか?」

「王の声は聞こえていたんですが、相手に引く様子はなく……仕方なく、討つしかありませんでした」

「それはもう、仕方ないよ……ご苦労だったね、本当にありがとう……ラルスが生きてくれててよかった……っ」

「シャイン殿は……」

「大丈夫、怪我してるみたいだけど、生きているよ」

「そうですか……!」


 もうどこからも剣戟の音は聞こえてこない。クーデターの失敗が伝達されたのだろう。

 外からは、〝愛しのあなた〟がツェツィーリアに聞かせるようにしてずっと流れている。

 その優しいメロディで癒されて、ようやく終わったのだとフローリアンは実感することができた。


「じゃあ俺、シャイン殿に報告に行ってきます」

「大丈夫?」

「もう回復してきたんで、大丈夫です」


 笑いながら立ち上がる姿は、大きく痛む様子も見られなかった。凄惨な死闘と繰り広げたとは思えないほど元気だ。それだけ、ラルスが強いという証拠でもあるが。


「じゃあ、行ってき──」

「お待ちくださいませ、ラルス様!」


 部屋を出ようとするのを止めたのは、ツェツィーリアだった。


「ツェツィーリア様、なにか?」

「どうしたの、ツェツィー」


 ツェツィーリアのその真剣な表情に、フローリアンとラルスは二人して首を傾げる。


「フロー様……お願いがございますの。このツェツィーリア、一生に一度のわがままを言ってもよろしいでしょうか」

「わが……まま?」


 ツェツィーリアが、わがまま。

 思えば、彼女とは長い付き合いだが、わがままを言っているのを聞いたことがない。ネックレスをずっとつけていたい、だなんてことは、わがままにすら分類されないと思っている。

 優しくて聞き分けの良すぎるツェツィーリアは、常に自分ではない誰かを優先して生きてきた。

 婚約者になってくれと言われたときでさえ、嫌な顔を見せずに嬉しいとさえ言ってのけたのだ。

 そのツェツィーリアが、初めてわがままを言ってくれる。


「なに? もちろんツェツィーのわがままなら、なんだって聞くよ!」


 そうフローリアンが伝えると、ツェツィーリアはぐっと瞼を閉じ──それから、意を決したように口を開く。


「では、フロー様……わたくしを……わたくしとリーゼを、今、この場で死なせてくださいませ」


 予想だにしない、ツェツィーリアからの願い。一瞬なにを言われたのか理解できず、フローリアンはふらりと足をよろめかせた。


「……え?」

「どうか……どうか、こんなわたくしをお許しくださいませ、フロー様……っ」


 理解できない言葉。ツェツィーリアのまさかの願い。

 その瞳は真剣で、冗談を言っているようには見えなかった。

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
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政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
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犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


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▼ざまぁされた王子は反省します!▼

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
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