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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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075●フロー編●66.訴え

「い、いやあああ!!」


 隣でツェツィーリアが叫んだ。

 音楽家である丸腰のイグナーツに、男が剣を持って飛びかかる。

 もうだめだと思ったその瞬間、ガキィンと剣の交差する音が響きわたった。そこにはイグナーツをかばって立ちはだかる、金髪の騎士の姿。


「シャイン殿!」

「パパッ!!」


 イグナーツとドリスの言葉に、シャインが生きていたと喜んだのも束の間、その体は全身血だらけで立っているのが不思議なくらいによろめいている。


「イグナーツ殿、ドリス、下がって……っく!!」

「なんだなんだぁ、死に損ないが出てきやがったぞ!」


 男は笑いながら剣を振り下ろす。シャインはなんとかそれを防ぐも、いつものようなキレのある動きではない。


「ひゃはは、よろよろじゃねぇか! 弱ぇ弱ぇ!」

「黙りなさいよっ! パパはあんたなんかより強いんだから! 万全の態勢なら、あんたに剣を抜かせる暇だって与えないわよ!!」

「ああ?!」


 その言葉に、男は一瞬にしてターゲットをドリスに切り替えて走り出した。男を追おうとしたシャインは、その傷のためによろめいて片膝をつく。


「逃げろ、ドリス……ッ!!」


 あっという間にドリスの前に行った男が剣を振りかぶった。


「きゃああああ!!」


 ドリスの顔に剣の影が落とされた、その瞬間。


「あっぶね、間に合ったか!」


 その声と同時に、男の剣はギイインと音を立てて弾き飛んでいた。

 いつのまにか剣が手から消えていた男は、「ほえ?」と間抜けな声を上げている。


「おっと、ドリスだったのか。久しぶりだな!」

「ルーゼンさん!!」


 力強さを感じさせるその顔は、フローリアンもよく知るその人だった。


「シャインに似て美人になったなぁ〜」


 赤髪のルーゼンは、剣を男の額に突きつけながら笑う。

 シャインは膝をついたまま立ち上がれず、目だけでルーゼンを見上げている。


「遅いですよ、ルーゼン……」

「これでも不眠不休で急いだんだぜ!」

「私だって不眠不休ですよ」

「間に合ったか?」

「ギリギリです」

「ならよかっただろ?」


 ルーゼンは男の顎を容赦なく蹴り上げて気絶させると、シャインの前に行き手を差し出した。

 シャインがその手を握ると、ルーゼンにグイっと引き起こされている。


「ボロボロじゃねーの。俺がいいとこどりして構わねーか、シャイン」

「どうぞ……私より、元気そうなあなたの方が効果があるでしょうから」

「よっしゃ、任せといてくれ」


 ルーゼンにポンと背中を叩かれたシャインは、ドリスの方へと一歩足を出した。


「パパ!」

「あなた!!」


 シャインの娘と妻が、歩くのもやっとなシャインを支える。


「ドリス、無事で良かった……エマも、よくやってくれた」

「私はあなたに言われた通り、政策に肯定的な者をリストアップしていただけですよ。こうしてまとめて率いてくださったのは、あなたがうちに寄越してくださった、イグナーツさんです」

「ふう、あとはルーゼンとイグナーツ殿に任せよう……さすがに、疲れた」


 シャインが下がると同時に、ルーゼンとイグナーツが前に出る。

 一人は剣を片手に、もう一人はリュートを携えて。


「さーて、お前ら。今すぐに侵攻をやめれば、命までは取らねぇ。悪いことは言わない、降参しとけよ」


 ルーゼンがニヤリとそういうと、冷たい目を放っていたブルーノが落ち着いた声を放った。


「一人増えた程度で、なにをいきがっている。我らの目的が変わることはない」

「たった一人で来ると思うか?」

「なに?」


 ブルーノはハッとして王都の入り口に目を向けている。何人もの騎士たちや国民が、王城に向かって来ている。


「まぁ一晩ではこれくらい集めるのが関の山だったがな。けど、あんたも先王を覚えてるだろ? あの方は優秀だから、明日には増援がこの王都に送られてくるぜ」

「……く」

「今、あんたらがフローリアン王を討ったところで、すぐに俺たちが政権を取り戻す。一日たりともお前らに天下は取らせねぇよ。お前らは、死に損だ! それでも戦いを続けるのか!!」


 凄むルーゼン、睨み返すブルーノ。


「俺には俺の正義がある……っ! 今さら引き返すなど……っ」


 ブルーノが言い返し始めたとき、イグナーツの奏でるリュートが緩やかに響き渡り始めた。

 曲名は、誰もが知る〝愛しのあなた〟だ。

 イグナーツは弦を弾きながら、よく通る声を上げた。


「お前たちの正義とは、女性を貶めることなのか? 虐げることか? みなはこの曲を、誰とともに踊った?!」


 ざわりと男たちが動揺する中、ルーゼンとシャインが声を上げた。


「昔、メルミと踊ったことがあるな」

「私も、妻のエマと……娘のドリスの練習にも付き合ってやった」


 二人の言葉を皮切りに、ブルーノの周りにいた男たちも次々と声を上げ始める。


「僕も恋人と」

「妹の練習に付き合わされて……」

「妻と初めて踊った曲だ」

「この曲のときに、俺はプロポーズをしたんだ」


 ざわざわとそれぞれの思い出が広がっていく。男たちの覇気がだんだんと薄れていく。

 イグナーツはそんな彼らを確認して、もう一度訴えた。


「あなたたちは、今思い浮かべたその女たちの顔を、絶望で染めたいのか? 彼女たちの微笑む顔を見たいとは思わないのか? 幸せだと、笑っていてほしいと思わないのか!!」


 イグナーツのその言葉は、きっとツェツィーリアに対しての気持ちだ。本気の言葉だとわかるからこそ、誰の心にも深く刺さっていく。


「お願い、あなた……こんなことはやめて戻ってきて……」


 イグナーツ側にいる一人の女が、涙を流しながら一歩前に出てきた。


「私たちは、今よりほんの少し自由になれれば、幸せになれるの……」

「どうか、未来を奪わないで」

「私たちを思う心があるなら、認めてください!」

「娘の未来を、あなたは少しでも考えたことがあるんですか?!」


 口々にそれぞれの想いが吐露されたとき、誰かがガシャンと剣を落とした。

 するとそれに呼応するかのように、手に持っていた男たちの武器が次々と地面に落とされていく。

 両手の空いた男たちは駆け出すようにしてその場を抜け出ると、愛する者を見つけ出しては抱きしめ始めた。


 〝愛しのあなた〟はその間もずっと心に訴えかけ続け、組織から離脱していく者が増えていく。

 そしてブルーノの周りの者たちが少数派となったとき。彼はもう無理だと悟ったのだろう。


「……降参する」


 ブルーノがガシャンと剣を落とした。その瞬間、周りは歓喜の声を上げ、愛しい人と抱きしめ合っていた。

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
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ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

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ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
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「もう、時間を巻き戻さないでください」
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気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
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キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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行方知れず王子
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異世界恋愛 日間4位作品
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第五王子
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婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
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私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
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急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

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それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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たとえ
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そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

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なぜキスをするのですか!
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