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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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073●フロー編●64.ハンドサイン

 それは、一分が永遠とも思えるくらいに長い時間だった。

 いつまでも続く剣戟、男たちの怒号、城内からは悲鳴が聞こえ始める。


「……突破されていますね」


 窓の外をずっと見ていたラルスが、低い声を出した。

 シャインからの報告はなく、どういう状況にあるのかは外の音からだけで判断するしかない。


「王はどこだ!!」


 すぐ近くで荒ぶった男の声がした。

 一枚目の扉の前で争う音。人の倒れる音が耳に響く。


「フローリアン様」


 必死に恐怖を飲み込んでいると、ラルスがフローリアンの目の前にやってきていた。

 その精悍な顔にフローリアンの胸はドキリとし、不安で打ち鳴らされる。


「俺、行ってきます」

「……なにを……」

「一枚目の扉を破られれば、もうこの扉を開けるチャンスはなくなります。それでは王を守り切れません」


 ラルスの言葉に、フローリアンはふるふると首を横に振った。


「だめだ……危険すぎる」

「だからといって、俺だけここにいてもなんの役にも立たないですよ。外にいる仲間とともに、この剣をふるいます」

「だめだよ……っ!」


 フローリアンはラルスを行かすまいと、その腕にしがみついた。

 ずっと機嫌悪くベッドの上で泣いているメイベルティーネが、さらに大きな声をあげている。

 もうここにフローリアンがいることは、警備の度合いで組織の連中にも知られてしまっていることだろう。きっと、全力で攻めてくる。


「行くな、ラルス……これは、命令だ……っ」

「お願いします、フローリアン様。俺にも戦わせてください」

「やだ……いやだ……っ!」


 この手を離してしまえば、きっとラルスは行ってしまう。フローリアンは力の限りその腕をぎゅっと掴んだ。


「大丈夫ですよ。俺、これでも強いんです。この扉は、必ず守りきります」

「けど……っ」

「シャイン殿を信じて、俺も時間を稼ぎたい」

「時間稼ぎなんて、なんの役にも……っ」


 フローリアンがそういうと、ラルスはツェツィーリアの方に目を向けた。


「ツェツィーリア様、外を見てください」


 一度として外を見せようとしなかったラルスが急にそう言った。うながされたツェツィーリアは、大人しいリーゼロッテを座らせ、急いで窓に走り寄る。そして外を見たツェツィーリアの目が、大きく開かれた。


「あれは……イグナーツ様……?!」

「え?」


 外の様子がわからないフローリアンは、その名前を聞いて手の力を弱めた。一瞬の隙をついて、するりとラルスの手が逃げていく。


「イグナーツ殿はなにかするつもりです。その時間を、俺が稼ぐ」

「ラルス……ッ」


 ラルスは自身の剣帯を外すと、彼の腕のかわりにそれを握らせてくれた。

 うさぎとイヌの刺繍が仲良く寄り添っている、あの剣帯だ。


「知っていますか、フローリアン様。刺繍のある剣帯を渡すことは、〝あなたを必ず生かす〟という意味があるらしいですよ」


 不恰好なその刺繍は、間違いなくフローリアンがしたもので。

 なぜ今こんなものを渡すのかと、ラルスを見上げる。


「これを持っていてください。フローリアン様の御身(おんみ)と信念は、必ず守りますから」

「ラル……」


 フローリアンが名を呼ぼうとした瞬間、ラルスの手が目の前で素早く動く。



 フ ロ ー ラ あ い し て る



 そのハンドサインは、柔らかくて優しくて。

 音になっていないというのに、耳のそばでささやかれたかのように脳髄に響いて。


「王、俺を信じてください。俺も王を信じています」

「ラルス……僕も……僕も、ラルスを信じているから……っ」


 そういうと、どちらからともなく手が合わさった。そしてそのまま吸い込まれるようにお互いの唇を寄せ合う。

 フローリアンの涙がラルスの頬を伝い、ゆっくりと離れたその顔は、まるでラルスの方が泣いているように見えた。

 その瞬間、ドンッ、メリッと一枚目の扉の破られそうな音が響く。


「俺が出たら、すぐに鍵を締めてください!!」


 言うなり、ラルスは部屋を飛び出していく。


「ラルス!!」

「フロー様、危険ですわ!!」


 ラルスを追いかけるように差し出した手はツェツィーリアに引き止められ、扉はズンと閉ざされた。

 そのままツェツィーリアが扉の鍵を締めると、部屋の向こう側で扉の倒される音が聞こえてくる。

 と同時に男たちの咆哮と剣戟が混ざり合い、扉を挟んだこちら側でもびりびりと殺気が飛び込んできた。

 ラルスがこの中に入っていったのかと思うと、頭がどうにかしそうになる。メイベルティーネはずっと泣き通しだというのに、抱くこともできずどうしていいかわからない。


「フロー様、気を確かにお持ちくださいませ……!!」


 ツェツィーリアがキッと眉を釣り上げ、その娘のリーゼロッテもまた、泣きもせずじっと椅子に座っている。


「ラルスが……ラルスが……」

「フロー様、外をごらんなさいませ。ラルス様と、シャイン様を信じるためにも」

「……え……?」


 きりりと背筋を伸ばして立つツェツィーリアに言われて、フローリアンは窓辺に向かった。

 そこには今にも王城に入らんとする、クーデターに賛同する者たちの姿。そしてそのうしろには、漆黒の髪を持つ長身の男が、手にリュートを持って立っている。

 それは、どう見てもツェツィーリアの愛する人……イグナーツだった。


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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
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王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
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