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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。  作者: 長岡更紗
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

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072●フロー編●63.信じる道

 翌朝、シャインが報告に入ってきた時にはみんな起きていて、一日中閉じ込められていたメイベルティーネが不機嫌に泣いている。

 フローリアンは娘をあやしながら、シャインの報告を聞いた。夜が明けるまでは、どうやら大きな動きはなかったようだ。

 昼の報告では、城の中と外で膠着状態が続いているものの、朝に比べて組織の人数は目に見えて増えているようだった。近隣の町からも、組織に(くみ)するものが出てきているのだろう。


「ある程度人数が増えれば、強行突破してくる可能性が高いです。おそらく、今日中か……遅くとも明日には」


 強行突破という言葉に戦慄が走る。人数の増えた組織を取り押さえることは、かなり厳しいだろう。

 王城にはかなりの騎士がいるとはいえ、寝返られる危険を孕んでいるのだ。叩くなら今かもしれないが、逆に一網打尽にされてしまう可能性があるので簡単には動けない。


「シャイン、なにか策はあるか?」


 そう聞くと、シャインは端正な顔立ちを少し苦くした。


「私の策は、今は時間を稼ぐのみです」

「時間を? でも時間をかければかけるほど、組織に有利になるんじゃ……」

「はい。けれども私は、外にいる者たちを信じます」

「それってどういう……」


 その瞬間、にわかに外が騒がしくなり、地響きまでも聞こえてきた。

 シャインは一瞬で顔を変え、ぎりっと眉を釣り上げる。


「始まったようです」


 シャインのその一言が死刑宣告のように聞こえて、心臓がドクドクと耳のそばで鳴る。


「陛下、私は今から最前線に向かい、指揮をとります」

「シャイン……危険だよ……」

「私が一番、時間稼ぎができると自負しております故」


 シャインの有能さはフローリアンもよくわかっている。現場の指揮を任せられる信頼できる騎士は、彼以外にいない。


「陛下のご尊顔を拝するのは、これが最後になるかもしれません」

「なに、を……」

「どうか私の妻と娘たちに、陛下の造る女性に優しい国を、見せてあげてください」


 にっこりと穏やかな笑みを見せるシャイン。今から死地に赴く人間の顔とは思えない。


「シャインも……シャインだって、見てよ! 僕の造る国の行方を……っ」

「行って参ります」

「シャイン!!」


 部屋を出て行くシャインを追いかけようとすると、ラルスに止められる。

 シャインは背筋をピンと伸ばしたまま、重い扉を開けて出ていってしまった。

 すぐさまラルスに鍵を閉められ、フローリアンはへたりと床に膝をつける。

 ずっと機嫌の悪いメイベルティーネが、さらにフローリアンの手の中で大きな泣き声を上げた。


「フローリアン様」


 そっと温かく大きな手が背中に乗せられる。

 フローリアンの目からはいつの間にか涙が溢れていて、メイベルティーネをぎゅっと抱きしめた。


「どうしよう……人が死んじゃう……僕の決断のせいで、シャインが!!」

「まだ死ぬと決まったわけじゃありません。王の決意が揺らぐと、俺たち騎士も迷います。大丈夫、フローリアン様はなにも間違ってない。堂々としていてください」


 ラルスにそう言われて、大声で泣き叫びたい気持ちをぐっと(こら)える。

 扉一枚隔てた向こう側には、騎士たちがいる。シャインが用意してくれた信用のできる騎士とはいえ、国王の弱音を聞いては、どう判断されるかわからない。


「……ごめん……」

「シャイン殿は強い上に頭も切れますから、大丈夫です。大丈夫ですよ」


 ラルスが、メイベルティーネごと優しくフローリアンを包んでくれた。

 それでも、これからどうなってしまうのかという不安はつきまとう。


(やっぱり僕は、王の器なんかじゃない……っ)


 きっと、兄であるディートフリートが王であったなら、こんなことは起きなかった。

 この国を統べるべきは、やはり自分ではなくディートフリートだったのだと思うと、胸が突き刺されたように痛みを発する。


「お立ちくださいませ、フロー様。ベルが泣いておりますわ」


 ピシリとツェツィーリアに言われて、フローリアンは鼻を鳴らしながらツェツィーリアを見上げた。

 厳しくも優しい目をしたツェツィーリアは、ハンカチを取り出してフローリアンの流れる涙を拭いてくれる。


「ツェツィー……」

「フロー様、わたくしたちは信じましょう。フロー様を信じてくれている人がいるように、わたくしたちも信じなければ、信用は成り立ちませんもの」


 ツェツィーリアにうながされ、フローリアンは足にぐっと力を入れて立ち上がる。

 目の前にいるラルスとツェツィーリアは、力強いまっすぐな瞳をこちらに向けていて、フローリアンはこくんと頷いた。


「うん……今は、戦ってくれているみんなを信じるよ……」


 勝機はゼロなんかじゃない。

 信じてくれる人のために、フローリアンも自分の道を信じることにした。


 しかし。


 抗争の声は時が経てば経つほど、大きくなるばかりであった。

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
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若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
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政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
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キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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